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四辻御堂物語~水龍の巫女と妖狐の罠~(アヤカシの世界へ①) (無料試読あり)

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以下本文


 突然目の前が真っ暗になったと思ったら、衝撃と共に固い地面に尻餅をついた。急な眩しさに目が眩む。

「いったー……」
「おやおや。随分鈍くさいなぁ」
「何か言った?」
「いんやなんにも?そんなことより、早く退かねぇと押し潰されちまうぞ?」

 痛む腰を押さえながら慌てて立ち上がり、今自分が出てきた方を振り向くと、巨大な本棚が黒い渦の中から顔を出しているところだった。

「きゃあ!」

 咄嗟に横に飛び、ぺしゃんこになるのを回避する。ズシン、ドシン、ドスッと音を立てて本棚が横並びに整列した。
 本棚の後ろの渦巻きが、あっという間に小さくなりながら本棚の後ろに隠れ、そして見えなくなった。この本棚は私たちがさっき触れていたもので、私の部屋にあったものだ。それがそっくりそのまま、部屋にあった時と同じように並んでいる。何事も無かったように。

「よし! 大成功~! いやぁ、今頃あいつらは血眼になってあんたとこの本棚を探してるだろうなぁ。何せあんたもこの本も、とっても貴重なものだから」

 ニシシと笑うスオウは、悪戯が成功して困り果てる大人を見て喜ぶ子供のようだった。思わずため息が出てしまう。
 痛みも少し引いてきて、ドキドキしていた心臓も静かになり始めて、ようやく私は周りを見る余裕ができた。
 ぐるっと見回して、私の心臓はもう一度早く動き出す。さっきと違って、今度は不安と恐怖からだ。
 今、私は「人ではないもの」たちに囲まれて、全く知らない部屋に居る。畳張りの大きな部屋で、おばあちゃんちのように障子の張られた戸で3方が囲まれている。障子の下の部分は格子状の隙間があって、そこから覗く無数の目。

「ここ……ここどこ!?」

 私は腰が抜けてしまってまた尻餅をついた。1つ目の子供、毛むくじゃらの大男、2本足で立つ動物、大きなものから小さなものまで、ありとあらゆる目が私たちをじっと見ている。障子には所狭しと人間とは違うシルエットが並んでいる。これは……これはまるで……。

「ア、アヤカシ族……?」
「そ! ようこそ俺の家へ。こいつらはみんな仲間だ。あんたを取って食べたりしないから安心しな」
「で、でも……」
「みんなぁ! この人間は味方だ。澪さんの娘っ子だ」

 見慣れないものにじっと見られると体が動かなくなる。私が見つめていたクロ君もこんな気持ちだったのだろうか。悪いことをしてしまった。
 スオウの一言でアヤカシたちが一斉に障子を開けて入ってきた。障子越しの陰ではなく、直接色を感じて見るそれらは、本やネットに出回っている姿よりも幾分か親しみやすいものだった。幾分か。
 突然大勢のアヤカシに囲まれて、私はどうしたら良いのかわからなくなってしまった。思わず立ち上がって少しずつ後ろに下がる。しかしすぐに本棚にぶつかってしまった。
 みんな口々に、「あなたが澪様の娘さん?」、「こんな若いのに何ができるんだ?」、「ホントに巫女様の子孫?」、「これで我々は助かる!」、「早く澪さんのところへ!」、「随分ひょろっこいおなごだなぁ」などと好き放題に言っては私を上から下まで見やる。
 居心地が悪くなってスオウを探すと、自分はちゃっかり輪から離脱して、何やらクロ君と話をしている。あとでひっぱたいてやろうか。

「みんな落ち着くんだ。気持ちはわかるがまずは話を聞いてくれ」

 スオウがようやっとアヤカシたちを止めに入ったのは、私のカバンが持って行かれそうになった瞬間だった。絶対あとでひっぱたく。

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