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クジラたちの声

 今回紹介するのは町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』。この作品のことはテレビなどで紹介されているのを見て知った。最初はテーマが重そうで近付き難かったが、本屋大賞を受賞されたことをきっかけにチャレンジしてみようと思い購入した。

 まず、始まり方が「海」みたいだった。村中さんたちとのコミカルな会話があったのも束の間、お腹の傷や過去の話が主人公の孤独感を漂わせてくるこの感じ。浅瀬からだんだんと深い海の底に引き込まれていく気がして不思議な気持ちになった。キナコが少年52と出会い、自分の過去と重ねていくのを読むのは心が痛んだが、ページを捲る手が止まらなかった。二人の距離が縮まっていく様子をずっと見守っていたいと思ったのだ。

 美晴や村中さんなど良い人たちがたくさん登場する中で、私が一番心を動かされたキャラクターはやっぱりアンさん。何回も泣かされそうになった。トランスジェンダー。学校で講演を聞いても私にはあまりピンと来ないものだった。どうしてカミングアウトを躊躇ってしまうのかわからなかったからだ。でも、自分の思う姿になれなかったアンさんが必死に声をあげているのを読んで、私は自分の間違いに痛いほど気づくことができた。理解してもらえない苦しさ。自分は不完全なのかという葛藤。辛いに決まっているではないか。私が想像もできないくらいに。だから、キナコにはアンさんの分も愛をたくさん愛してほしい。

 そんな私が何度も読み返すのはは233ページからのキナコの見た夢の場面。目を閉じると、クジラの歌声と金色の輪が美しく浮かび上がってくる。アンさんがキナコに会いにきてくれた。助けてくれた。それがたまらなく嬉しかったのを覚えている。

 本当に色々と考えさせられる本だった。私も52ヘルツのクジラたちの声に耳を傾けて、全力で受け止められるような大人になりたいと強く思った。

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