【エッセイ】充実した一日を過ごすこと
セブンイレブンで冷たいペットボトルの飲み物とベビースターラーメンを買う。
ペットボトルの飲み物は、
スターバックスのレモンティー。
この商品は初めて見るので、とりあえず買ってみる。もしかしたら、最近出た新商品なのかもしれない。
小学生の頃よく駄菓子屋に行っており、ベビースターラーメンはその頃から食べていた。
香ばしくて「ポリポリ」とした食感が、
とても好きなのだ。
セブンイレブンでそれらの買い物を済ませ、
商品の入ったビニール袋片手に帰宅する。
玄関で鍵を差し「カチャリ」という音が鳴る。
ドアを手前に開け、薄暗い空間が目に映る。
わたしはここで数秒間佇む(たたずむ)。
その行為は、暗くジメっとした家の中に「何者か」がいないかの確認作業となる。
「何者も」いない事を確認すると、乱雑に靴を脱ぎ手に持っていたビニール袋を「ストン」と床に置く。
そのまま5歩で洗面所へと行き、泡石鹸で手を洗い、うがいを「ガラガラ」とする。
そして再び5歩歩いて玄関へと戻り、床に置いたビニール袋を持ち、12歩歩き部屋に入る。
部屋に入ると、ビニール袋を床に「ザザッ」と置く。
そして服を全て剥ぎ取り、床に散乱している「3本線が入っているadidasでは無いジャージ」へすぐに着替える。
着替え終わると、白く四角いローテーブルに、先ほど購入したスターバックスのレモンティーのペットボトルとベビースターラーメンをビニール袋から出し、横に並べる。
これから私の口に入る商品たち。
その商品たちは、
どんな形で生まれどんな道を歩んできたのか。
そして最期はどんな形なのか。
今のわたしには考える余地もない。
ほんの僅かに脳を働かせそんな事を思い、
座椅子に「ペタリ」と座り込む。
わたしは、心も身体も既に外出用では無くなり、
すっかり自宅用に「変身」をした。
座椅子に座り、スターバックスのレモンティーを「グビッ」と飲み、ベビースターラーメンを「ポリポリ」と食べる。
その事が、わたしの今の人生で落ち着く時間のひとつであることは間違いない。
そして、座椅子に座る態勢を変え、
白く四角いローテーブルの下に潜り込む。
「寝そべる」ような格好となる。
少しだけ寝よう。
今はまだ昼過ぎの15時。
ここから2時間ほど寝ても、
これから歩んでゆく人生にさほど影響はない。
わたしは眠りに入る。
目を閉じるとすぐに暗闇が広がり、意識は現実からどこか遠くへ飛ばされる。
眠りについてから、1時間ほどで目が覚める。
スマホで時計を見ると16時10分。
「嫌な夢」を見た。
思い返してみれば休日の昼過ぎに寝ると、
「嫌な夢」を見る確率が高いような気がする。
その「嫌な夢」の登場人物には、
昔の友人と父親が出ていた。
私の住んでいるボロアパートに向かって、
友人が歩いてきた。
友人がボロアパートの玄関前まで来ると、
父親が3mほど先にその光景を見るように立っていた。
父親の顔は少しニコニコしており赤ら顔で、
明らかにお酒を飲んでいた。
その父親の姿をわたしは友人に見せたくないので、そこに父親が立っていた事が「嫌」だった。
そこでわたしは夢から覚めた。
昔の友人はいま何をしているのだろうか。
もう連絡も取っていない。
父親は最期までアル中だったが、
一切暴力を振るわないとても優しい人だった。
わたしは今見た夢について、ひとしきり考えた後、再びベビースターラーメンに手を伸ばす。
寝起きで少し乾いた口内に、
香ばしい塩味が広がる。
「ポリポリ」という音が脳に響く。
この先の人生で休みの日に、
座椅子でベビースターラーメンをひたすら食べ、生涯を終える事ついて想像してみる。
そんなに悪い人生ではないのかもしれない。
人生において後悔をしようがしまいが、
誰にでも最期が訪れ消えてしまうのだ。
わたしはふと、
化粧を落としていない事に気が付いた。
つまり自宅用に「変身」が完了していなかった。
しかし、もはやそんなことはどうでもいい。
わたしは今日「座椅子でベビースターラーメンを食べて寝る」ことが叶った。
それだけで、今日この一日を「充実した日」に過ごす事が出来たのである。
つづく。
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