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ドミニク・チェン×全卓樹「共同体をつくる科学の言葉」

☆mediopos-2263  2021.1.26

全卓樹はすでに10年前に
「Twitterはインテリのパチンコである」
と言っていたそうだが
いまやSNSはインテリというよりは
あらゆる人たちにとっての阿片と化している

現状のマスメディアの報道を見るだけで明らかなように
自分を「賢い」と疑わないインテリたちは
みずからの良識をうたがわないがゆえに
きれいごとの民主主義を標榜し
むしろそれがつくりだしてしまっている影に操られながら
マスメディアで報道されないものから目を逸らしている

まるで第一次大戦のときの
民主党のウッドロー・ウイルソンのように
民主主義を標榜するきれいごとの言葉の裏で
行っていることは巧妙に隠されている

そのことはウイルソンを批判し
社会有機体三分節の提唱を通じて
第一次大戦を止める働きかけを試みた
ルドルフ・シュタイナーの営為でもわかる通りだ

たとえSNSが阿片だとしても
適度で使い方を間違わなければ
民主主義と同じく
毒にはならず薬効にもなるが
いまやその技術は
企業や政治勢力を利するために
露骨なまでにコンシューマリズムを
徹底するようになっているのだ

対談にあるとおり
「何十億人が使う巨大なプラットフォーム」ではなく
「小さな共同体のためのプラットフォームが数多くできて、」
「ジャングルのような多様な生態系に」なったらいいのだが
現状のような巨大なプラットフォームは「全体主義に陥りかねない」
そしてまさに現代ではその巨大なプラットフォームを背景に
情報の歪曲と統制が露骨に行われるようになっている

メディアリテラシーの必要性が叫ばれて久しいが
重要なのはメディアの伝える情報を
そのまま受け入れることではない
情報の背景にある利害やイデオロギーを読みとり
むしろ伝えられていない情報をこそ読み取ることだ

たとえば日本のマスメディアが
中国に関するダークな情報や
アメリカ大統領選挙の背景にあるさまざまな情報を
ほとんど伝えようとしていないことや
コロナウイルスに関する情報を
きわめて偏向して伝えていることについても
表だって伝えられていない情報を
そこから読み取ることが必要になる

Aという情報だけが伝えられた場合
重要なのはA情報がなぜ報じられたのか
なぜBやCやDの情報は報じられないのか
そのことを見ていくことこそがメディアリテラシーだ

第一次大戦のときルドルフ・シュタイナーは
むしろ戦争を拡大喚起してしまうことになる
ウッドローウイルソンの「平和の決まり文句」の
危険性を訴え懸命に働きかけたが
残念ながら戦争を止めることはできなかった
多くの人は「平和の決まり文句」の裏にある隠されたものを
読み取ることができなかったからだ

■ドミニク・チェン×全卓樹「共同体をつくる科学の言葉」(後篇)
https://kangaeruhito.jp/interview/37266
■ルドルフ・シュタイナー(浅田豊 訳・解説)
 『二つのメモランダム(覚書き)』
 (涼風書林 2019.4)
■倉田満『ウッドロー・ウィルソン/全世界を不幸にした大悪魔』
 (PHP新書 2020.11)

(ドミニク・チェン×全卓樹「共同体をつくる科学の言葉」より)
 ※以下「ド:ドミニク・チェン/全:全卓樹」

「全/いまのSNSは、コンシューマリズム(消費主義)が徹底してしまって快適から程遠いですね。いまからでも、ちょうどモンゴルのゲルみたいに、パブリックとプライベートが逆転したような面白いSNSを設計すれば人が集まる気がします。データを集めて宣伝企業に売る、というあり方がダメですよね。
ド/FacebookやAppleといった大企業は、人々を中毒化させる技術を、認知心理学や行動経済学の知識を幅広く集めてつくろうとしていて、それに対して大きなうねりが起こりつつあります。
全/世の中の賢い人たちを集めて……。
ド/はい。その「賢さ」とは、非倫理的に、人の行動を強化学習やオペラント学習(編注【以下同】:報酬や罰を与えつつ、自発的に特定の行動をさせる学習)でいくらでも制御できるようにすることです。つまり、パチンコと同じなんです。その意味で、スマホはパチンコとまったく同じ原理で設計されていて、それをほかでもない内部のインサイダーたちがここ1、2年で暴露し始めているんです。ちょうどネットフリックスでドキュメンタリー映画『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』(2020年、アメリカ)も出ましたが、そういうSNSや動画共有サイトを実際に開発したエンジニアや経営者たちが「ひどいものを作ってしまった」と反省する姿が印象的です。
全/それはいいですね。私は10年近く前に「Twitterはインテリのパチンコである」とTwitterで言ってものすごくバズったことがあります。
ド/そうだったんですね(笑)。
全/電子創業者たちには、この世をひっくり返してやろうという、アナキズム精神があったと思います。それが良い意味でもう一度出てこないといけませんね。うまくプライベートを出せて、心を解放できるような場です。商業的には成立しないかもしれませんが。
ド/コマーシャルで成立する、これまでのシリコンバレーのやり方というのは、無限にスケールが拡大する株式会社方式です。時価総額10億ドルのユニコーン企業になるといった結果が目標とされてきましたが、そこまでお金を儲けなくとも、サスティナブルなプラットフォームはつくれるのではないか、そんなに市場を独占する必要があるのか、というのが私の世代のエンジニアには増えているんです。
全/すでに財をなした人が私財を投じてやればいいんですよね。
ド/はい。その上で何十億人が使う巨大なプラットフォームを目指すのではなく、1万人、10万人といった単位の、小さな共同体のためのプラットフォームが数多くできて、それこそジャングルのような多様な生態系になったらいいと思います。
全/20億人が使うプラットフォームをつくると、全体主義に陥りかねないのは危険ですね。
ド/だからこそ、科学的な思考が大切ですよね。Facebookのアルゴリズムの挙動を知るには科学的な視点での理解が大事ですし、倫理的な議論も感情的にならずに、まさに全先生が本に書かれているように、科学的な視点で冷静に語ることが求められるはず。そうなると、いまのTwitterやFacebookが科学的と言えるかどうか。
全/歴史を見ると残酷で、そういう状況で何が起こるかっていうと、悪が勝つんですよ。
 でも、悪の統一の後にこそ、何かが生まれ出す。ルネサンスも、最後はスペイン軍とフランス軍が入ってきて、人文主義を押さえて当時の活気のあるものをすべて潰した後にサイエンスが登場しました。ザッカーバーグが勝つ、勝って、彼が年老いて統制が緩んだときに、何かが生まれる。あるいは、ネットアナーキズムが再燃してザッカーバーグ帝国が崩れることがあったら、それはそれでもっと面白いと思います。」

「全/ただ、ドミニク先生が本に書かれたような、ある種東洋的な共有主義を現実に適用したら今の日本は中国になりかねない気もしますが、どうですか? 我々が考える中国はディストピアですが、実はそれこそが人間の将来なのではと想像しなくもないんです。日本でも、政府の審議会で「データ共有の権利」と言い出すから何かと思えば、個々人の情報を共有にするのが人権だという。非常に雑に言えば、中国と同じにしようということでしょう。
(・・・)
 その流れでは、世界的に、自由主義陣営でもデータによる監視が実際当たり前になります。おかげで自由に行動できるわけです。でも、その価値観は、我々が教わった西洋近代の倫理的基準とは違うものですよね。むしろ東洋の昔からの考え方と何か親和性がある。ドミニク先生の本を読んでいたら、思考はもちろん違うのですが、結果は同じところに収束するのではという気がしないでもないんです。
ド/うーん、それは嫌ですけれどね。
全/限られてはいますが、中国人の知り合いに聞いてみると、特に若い人は意に介していないんですよね。おれたち自由だよ、監視カメラ? いや関係ないよ、おれたちの核心には触れないよ、と。彼らは彼らなりに違う自由、それこそ、なにか反転した自由をもっていて、そこはそういうものでは侵されない気もします。
(・・・)
 最近、AIの倫理を考える会議などでも、それを欧米系のリベラルな人たちは問題視するけれど、当事者である中国市民は意外と幸せなのではないか、という研究者もいて議論になりました。
 それは、成功している中国人はそうなんですよ。でもその裏で、何億人とひどい目に遭っている人たちがいて、その人たちの声は水面上に出て来ないんです。新疆ウイグル自治区でやっている民族浄化まがいの政策を知ったうえで中国的な全体主義が情報技術によって普遍化するというのは、心情としては到底受け入れられないですね。セキュリティというレベルで、物理的な安全とトレードオフということと、いま中国で起こっている完全なる情報統制、行動をすべて監視下に置かれる状況の間には、イコールではなくてグラデーションがある。それならどこまでならOKなのかは、私もまだ整理しきれていませんが、これからはもっと深く考えざるを得なくなるでしょう。
(・・・)
全/そうは言っても、中国が今後弱くなる可能性はなさそうですね……。今の状況を延長すると単に中国がもっとパワフルになるだけで、おそらく他の国も、日本やヨーロッパでも中国の成功の要素を取り入れて、より監視が進んでいく。
ド/コロナ禍で、市民の行動を監視することが大義名分を得てしまったので、これから監視社会化は急速に進むと思います。大局的な趨勢としても、確率予測的にはそうなると思うのですが、より重要なのはどういう社会にしたいか、です。だから、私は負け組でもいいと思うんです。勝つか負けるかは時の運だけど、発言するにも議論するにも「何をしていたいか」を大切にしたい。それをやめた瞬間にすべて終わりですから。
全/韓国では、防疫のため個人を監視していますよね。ただその一方で、今は左翼政権ですし、個人の自由は最大限尊重する。
ド/台湾もそうですね。
全/他国の試行もうまく取り入れながら上手にやれば、自由と人権の伝統が長い日本で、そしてそれこそ中国でも、個人の自由を何かしら保証するシステムを作れるかもしれませんね。」

「全/香港は自由化運動も押さえ付けられて、どうなるんでしょうね。
ド/エリートが権力を握ると中国だろうとアメリカだろうと日本だろうと、同じ貧しさに陥るように思います。それに名前を与えて、つまらない歴史が反復することに、どうやってあらがっていけるか。自分一人でできるとは思っていませんが、やっていくしかない。
全/とりあえず言語化して表せると繰り返さずにすみますよね。シュテファン・ツヴァイクの『昨日の世界』(ナチズムから逃れて亡命したアメリカで書いた自伝)を読んでいるから同じことはしないものの、あれがなかったら、東アジア諸国もだんだん力を持ってきたら同じことをやりますよ。あれをみんな読んでいるしその話を聞いているからこそ、同じことは起こらない。
ド/それでもトランプみたいな新人類が現れます(笑)。
全/あの人は昔の族長のような存在で興味深いですね。古代世界にあったような、何にも拘束されないフルな自由へのあこがれが、彼に結実したんではないでしょうか。今の世の中にあるのは、限定的な自由ですから。トランプは自分が昨日言ったことにさえ拘束されない完全な主権者のように振る舞います。
 昔は家父長制で、他の人をめちゃくちゃ抑圧しながら、家の中では自分だけにはそういう自由があった。それがなくなり、みんな一律に、少しだけ自由で我慢も多く肩がこるようになった中で、トランプが出てくると思うんです。
ド/サム・ハリスという、アメリカの有名な哲学者がポッドキャストで言っていたんです。自分はアメリカ人としてなぜアメリカの半分がトランプを支持するのかこの4年間ずっと謎だったけれど、11月4日の選挙の朝になってようやくわかった気がする、と。民主党のリベラルとトランプ――共和党でさえなくてトランプ――を比較したときに、ようやくトランプ支持者の心がわかる。いまのリベラルの支持する、LGBTQの権利や黒人の復権を考えると、白人たちが急に罪悪感とともに生きなくてはいけなくなった。民主党の立場に立つと、キリスト教の原罪みたいに、白人であることが罪だとジャッジされてしまう。
 トランプが一部の黒人にさえもリーチできる理由は、トランプはうそつきだし詐欺師だしひどい人間なんだけど、自分がひどい人間であることを一切隠さないし、他者にそれを求めない。お前がなにをしてもおれは構わない、おれが好きならおれもお前が好きだし、おれを嫌いならおれもお前が嫌いだという、このわかりやすさ。だからみんな自分を投影するんですね。この人はおれたちを認めてくれるんだ、と。
 つまり、世界中のリベラルの人たちが――私もその一人だと自認しているんですが――自由の価値を、罪の意識を芽生えさせることで広めようとしてきたのではないかということです。その指摘は真摯に受け止めなくてはいけないですよね。罪悪感で社会を束ねることはできないし、社会正義や公正性をそのまま打ち出すことによって深く傷ついてしまう人たちがこれだけいると明らかになった。」

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