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ベストトラック 2021

ベストトラック2021こと2022年に期待するミュージシャン・リスト、優しさ、色彩、白黒、緑、ちょっとした流れを感じるそんな10曲。

1位 Martha Skye Murphy ー Stuck

幽玄で荘厳、厳かで儚く力強い、矛盾を抱えたゆらぎのような美しさ。SquidのNarratorで見せた叫び声とはまったく違った魅力があって、まるで浮遊霊になったみたいな感覚がある。Ethan P. FlynnのプロデュースでBlack Country, New Roadのサックス男 Lewis Evansがフルートを吹いていたりとサウス・ロンドンのシーンのちょっとしたオールスター(あるいはSlow Danceの仲間たち〉みたいな陣容で、物悲しいホラー映画のごとくぼぅーとしてたら頭に何かが浮かんでくる。 Martha Skye Murphy、やっぱりヤバい。


2位 Famous ー The Beatles

Black Country, New Roadの“Track X”で「友達のジャックには / 君でもおかしくなかったのにと言った」と唄われているJack MerrettのバンドFamousのロックダウン直前に行われた屋上ライブの最後の曲だった The Beatles、この曲がもうどうしようもなく胸に迫ってくる。それはそこに生活や人生があるからなのだろうか?失われていったしまったものを懐かしむような感覚があってそれでも前へ進んで行こうとする意志が示される。それがもうたまらなくグッと来てしまう。曲の中の「foreverについて考え続けていた / foreverの響きはどう?」という部分はたぶん最初のEPに入っている”Forever”にもかかっていて、その頃から比べると強迫観念的な部分が少し減ってまろやかになり優しさと何かを愛する心で包まれているみたいなそんな印象も受けもする。一周二周回ってここに辿り着いたみたいなそんな感じもして、なんだか色々考えてしまう。FamousのThe Beatles、たぶん屋上ライブでやる曲だからってこのタイトルにしたんだろうなって、そういうふざけたところももう最高。

 

3位 Personal Trainer ー Muscle Memory

オランダ、アムステルダムのコレクティヴPersonal Trainer。この曲を2021年一番聞いた。ジワジワと違和感が積み重なっていく快感があって、パズルのピースが頭の中で整理されていくみたいな感覚に陥って……。Personal Trainerはポップでメロディセンスが抜群で、それでいて見事なフックをかますから本当クセになる。マジかよ?ってなった24時間耐久ライヴをマジでやったりユーモアとそれを形にする行動力が素晴らしすぎる。格好良く親しみやすくて好奇心と探究心に溢れいつだって面白いことをやろうとしているという最高の存在。Personal Trainerは音楽をやることは楽しいことだってそんな根源的な感覚を思い出せてくれる。


4位 Bingo Fury ー Big Rain

Nervous Conditionsを覚えていて、Black Country, New Roadの事を知っていてNormanのことを思い出す。生まれ変わったニューバンド(あるいはプロジェクト)Bingo Fury、Normanから続くジャズの要素はそのままにそれをブロードウェイのミュージカルにして洒落っ気をそこに加えたみたいな、闇の中に浮かび上がる舞台劇。つまりあの感じだろ?って言われそうな気もするけれど、Norman同様何かが違う。Normanが解散した後、メンバーほとんどそのままでBingo Furyっていうのをやっているって聞いて期待して待っていたけど期待以上だった。舞台の上のNormanに鮮やかなライトがあたった感じで、その光がきっと違いを生み出しているに違いない。


5位 Porridge Radio, piglet - Let's Not Fight!

Porridge Radioと解散してしまったバンドGreat Dadの中心人物Charlie Loaneがやっているプロジェクトpigletのコラボの曲。おそらくpigletの方が中心になって作られたんじゃないかってそんな曲調で、優しさがあって寂しくて、だからこそ大事なものに気がついて……みたいなpigletの世界が展開されている。でもいつも以上にポップで痛みの柔らいだPorridge Radioみたいなメロディもそこで響いていて。バンド活動をストップすることを余儀なくされたロックダウンは決して素晴らしいものではなかっただろうけど、でもこういう曲が生まれる機会が出来たってことに関しては良かった面もあったじゃないかと思う(限定的な状況の中で他の選択肢が浮かぶから)。Porridge RadioのDanaのいつかやりたいことリストに入っていたというpigletとのコラボが実現したこの曲は、とにもかくにも心を優しく撫でて立ち上がらせるようなそんな何かがある。


6位 KEG ー Heyshaw

ブライトン、KEGの圧倒的な勢いとパワー。「シンガポール!!マレーシア!!クウェート!!ベールリン!!」日常のふとした瞬間にそう叫びだしたくなるような強烈なラインを頭に残し、走り出したくなるようなビートを刻む(駆け出す半裸の男たち。アー写も強烈だった)。ちょっとDEVOっぽくもありThe B-52’sを感じる部分もあって、気持ちがめちゃくちゃせかされる。これは絶対ライブも楽しいはず。トロンボーンが入った大所帯のバンドでこういう音楽をやっているってところが最高。1stEP出したし次はアルバム、超期待!!


7位 Wet Leg - Wet Dream

カラフルなこの世界、世界は色彩を求めている。最初にWet Legの存在を知ったのは21年の4月の終わり、Sports Teamのバスツアーが帰って来るって時で、もうほとんどフェスじゃん!って豪華メンバーが並ぶ中に音源がリリースされていない調べても情報が出てこない謎のバンドがいる!!ってワクワクしたのを覚えている(めくってないカードはきっといいやつってそんな感覚があってワクワクした)。そしてその2ヶ月後にChaise Loungeがリリースされて色めきだって、2曲目のこのWet Dreamが出る頃には凄いことになっていた。その間6ヶ月。もう本当にあっという間。Wet Legはすぐさま話題になり凄い勢いで一気にステージを駆け上がっていった。けどそれも納得、これまでにリリースされた曲を聞けばわかる。Wet Legの曲はカラフルでユーモアがあってなんとも気分が高揚する(それは晴れた日に玄関の扉を開けて出かけようとする瞬間みたいな)。思えばそう、モノクロのポストパンクの世界に長く浸かり過ぎていたのかもしれない。そのことに気がつくような、体が自然とこれを求めていたことを理解するような、Wet Legの音楽はそんな音楽、素晴らしい。これは流行る、だって時代がそこに向かっているから、なんてことを考えながら4月に出るアルバム待っている。こうして聞いてもやっぱり気分が高揚するし、体がビタミンDを吸収する。

 

8位 Deliluh ー Amulet B

漆黒の意思、カナダ、トロントのアート・ロック・バンドDeliluh。拠点をヨーロッパに移してからの最初のリリース。「Amulet A」は従来の4人編成の録音で、この 「Amulet B」は現在の2人編成での曲。同じ曲のヴァージョン違いで、ストリングスやドラムの音を要所で響かせ緊張感をジワジワと高めていくホラー映画のサントラみたいな「A」に対して「B」はもっとシンプルに硬質な電子音を響かせて未来世界で行われる闇の儀式のような匂いを醸し出している。無機質なのに神秘的、この感覚ゾクゾクする。ライブのビデオはもはや集会、何かがあったその記録。


9位 Embrasse Moi ー Etre Meilleur

フランスのポストパンク・バンドEmbrasse Moi、Crack Cloudを柔らかく煮込んだみたいな2018年の1stアルバムから3年経って、Martha Skye Murphyみたいな荘厳さも手に入れて、気がついたらとんでもないところまで来ていた。調べたらこの曲の前にDonna Summerの I Feel Loveをカバーしていたりしてそっちもまた凄く良くて(Talking Headsのクラブミックスみたいなカバー)これはマジでヤバい感じになっているんじゃないかってドキドキする。2021年のおわりにこの曲を聞いたんだけど、このモードで次にどんな曲を出して来るのか本当に楽しみ。こんなになるのか!って流れがあるからやっぱり音楽面白い。


10位 Folly Group - Fashionista

So Young Magazineが始めたレーベルSo Young Recordsの第一弾としてリリースされたEP「AWAKE AND HUNGRY」も良かったけれど、でもその前、2021年の年明けに出たSlow Danceのコンピに入っていたこの曲Fashionistaが衝撃だった。Crack CloudやN0V3Lのように攻撃的で、そうして静かに線を引く。サウスロンドン・シーンが出来上がってからのグループで、だからこそそこへのカウンターになりえるんじゃないかってそんな気がする銃声一発(それはWorking Mens Clubとはまた違ったやり方で)。こんな感じで世代を経て入り交じり別れていくのがたまんない。これこそ歴史。


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