見出し画像

For the first time〜Black Country, New Roadの物語〜


これは相関図のおまけみたいなものだけど、おまけの方に力が入っているってこともある(あとで自分で見返すために)。


BC,NR相関図


Black Country, New Road 派生プロジェクト


BC,NRは本当に最高なんだけど、それは色んな要素が一つに集まっているからなんじゃないかと思う。思い返してみればBC,NRより先にメンバーがやっている他の活動を知るのが先だったし。Speedy WundergroundからAthens, Franceの7インチを出すって時には既にもう、えっ?Jockstrapの人なの?とかUglyのドラムの!とかやっていた気がする。でも本当にメンバーがやっている活動全部がいいんだよね。Crack CloudやPet Shimmersもそうだし、大所帯のバンドのメンバーがやっている他のプロジェクトはほぼ確実に良いっておかげでもうすっかりそんな感覚になってしまった。

The Guest

画像11

ヴォーカル、IsaacのソロプロジェクトThe Guest。今にして思えばこれはBlack Country, New Roadのプロトタイプだったのかもしれない。Nervous Conditionsのことがあって(これは本当に大きなダメージだったんだと色々な方面から推測される)これからどうやって自分の音楽をやっていけばいいのか模索して辿り着いたのがこのスタイル。本人曰くTheme From Failure, Pt 1が初めて書いた曲で、詞もそれまでほとんど書いたことがなかったらしいけどこれが特徴的で耳に残る。言い回しが面白いとか言葉のチョイスが凄いというよりは、言葉の連なりがイメージとして心に響くってタイプなんじゃないかって思う。Isaacのこのスタイル凄く好きなんだよね。物語性を帯びていてイメージが組み合わさって意味になっていくみたいな。ある種の翻訳小説みたいな(インタビューでIsaacはピンチョンとヴォネガットの名前をあげていた)。

The Guestのこの曲はBC,NRのTrack Xの前日譚みたいな感じで、一ヶ月間毎日Jerskin Fendrixを聞いて、朝起きる度に失われた全てのことを思い返していたようなそんな日々のことが語られている。

「この物語は全てを持っていたケンブリッジの少年がそれを世界に奪われたことについての物語だ」という言葉から始まるこの曲はAthens, Franceの中で再び言及される。誤解を恐れずに言えばBC,NRのアルバムに収録されている全ての曲はTheme From Failure, Pt 1を出発点としているんじゃないかと思う。Nervous Conditionsを引きずったまま立ち上がり、再び集い進む物語を演じた舞台劇、それがアルバムのテーマで、だから決して突き抜けることはない。自虐、後悔、とまどい、覚悟、皮肉に焦燥、それら全てが交じりあい、色合いを変えて場面場面で顔を出す。

アルバムでいくつかの曲の歌詞が変わって頻繁に出て来るようになった"Black Country"という言葉は、どうしてもNervous Conditionsのことを言っているのではないかと思えてならない(Athens, Franceでは"Black Countryの地面に作られた新しい道のような"とTheme From Failureに触れた箇所に続く言葉が変化し、Opusでは初期のライブでもっと直接的に"We are replacements"と唄われていた部分が"Black Countryの地面から作ったもの"というフレーズに置き換えられている)。

たぶん後付けでバンド名から意味を作ったんだろうけど、これらの曲の歌詞を変えたことでアルバム全体に一本筋が通ったような気がする(そんな風に考えてScience Fairは、再びバンドを始める上で逃れることの出来ない覚悟を唄った曲だと理解した。向こうでBlack Countryが待っているんだ!普段はそうじゃないけどBC,NRについては翻訳小説的に歌詞を考えてしまう)。

Theme From Failure, Pt 1はSlow Danceのコンピレーション(Slow Dance '18 )に収録されていて……とここからまた話が広がっていく。


Jockstrap

画像9

去年素晴らしいEPを出したJockstrap、ワープと契約していて下手したらBC,NRより有名なのかもしれない(どっちがより有名なのか、知名度ってよくわからない)。Georgiaは一時期Goat Girlでもヴァイオリンを弾いていたことがある(Goat Girlの1stアルバムの時期よりちょっと前)。美しい曲をヘンテコに、ズタズタに切り裂いて再構成、違和感と調和する美(毎回言っているけどTaylor Skyeは本当に才能にあふれていると思う)。とにかくGeorgiaは声が素晴らしくて、BC,NRはいざとなればこの声を使えるのが強みだなってBlack Midi, New Roadのクリスマスライブを見て思った。

サポートメンバーのくせに取材に現れてカレーを頼んで食べてたLewis EvansがいるLoud And Quietのこの記事が特にお気に入り。2018年の11月だからこの記事もBC,NRデビュー以前のだったんだな。


Good With Parents

画像2

PSGのユニフォームをよく着ているスワンズファン、BC,NRサックス・マン Lewis Evans。BC,NRの中で音楽的な才能はLewisが一番あるんじゃないかって思うくらいにGood With Parentsの曲はどれも本当に素晴らしい。しみじみとしたポップソングで何気ないのに小技が効いている。どう見てもお調子者っぽいのに気配り上手みたいな。一昨年のアルバム、去年出したEPも凄く良かった。

ちなみにこのジャケットの顔の下半分、一緒にやっているTriple StephensことFelix Stephensという人はチェロ奏者で、昨年出たMartha Skye MurphyのEP Yours Trulyにも参加している。Martha Skye Murphyは上記のThe Guestと同じSlow Danceのコンピにまとめられていて、最近ではSquidの新曲 Narratorにもフィーチャーされている。こっちの方面からもまたどんどん繋がって行く感じ。良さそうな人はだいたい友達。話によるとLewis自身もSquidのアルバムに参加しているみたいだし。

Ugly

画像3

Uglyもまた素晴らしい。どこにもいけない閉塞感、若さと青春、ロマンティシズム、UKのギターバンドの魅力の全てが詰まっているって18年1月にSwitchのビデオを見て大興奮だった。でも今にして思えばこの時期はNervous Conditionsが表に出てきて、そして解散した時期だったんだよな。だからCharlieにとって、ある意味ではUglyの存在が救いだったんじゃないかって思う。上のJockstrapのインタビューの中でため息交じりにGeorgiaが答えていたみたいに。他にも世界があったからこそそこが逃げ場になってもう一度やってみようって思えたんだろうし、違う世界があるから一緒にいれたんだとも思う。メンバーの大半が違う活動をしていたのはある意味では必然だったのかもしれない。そうして再び集まった時の友情はきっと今まで以上に深くなる(Rolling Stone JapanのインタビューでLewisが冗談めかしてバンドより友情の方が大切さって言っていたけど、それは半分以上マジで言っていたんじゃないかと思う)。

だから20年1月に、二つのバンドがそれぞれ大きくなってどちらかを選ばなければならなくなった時、CharlieがBC,NRを選んだのを当然だって思った。どちらのバンドも素晴らしいけど、BC,NRは始まりから覚悟がなければできなかったから。図らずともただバンドをやるってこと以上の意味がそこで生まれた。それだけじゃなくてもちろんそのアウトプットが素晴らしかったってこともきっと重要だったんだろうけど……。そんなことを思いながらSwitchのビデオを最後まで見てCharlieとじゃれ合うUglyの姿を眺める。


Jerskin Fendrix及びBlack Country, New Road 周辺人物


Jerskin Fendrix

画像4

BC,NRのIsaacは言う「今の僕は彼が形作ったようなものだよ。自分の音楽をやろうとしてぼんやりとしかつかめていなかった概念が、Jerskinのセットの中で既に完成されていたんだ」

詳しくは上記のnoteを見て欲しいけど、BC,NRのアルバムが出た後でこうやって考えるとやっぱりJerskin Fendrixがキーパーソンだって気がしてくる。歌詞に出てくるというのもそうだけど、アートディレクターのBart PriceをBC,NRに繋げたのはほぼ確実にJerskinだろうなって。その後にBC,NRとツアーを回ったdeathcrashにしてもそうで、中心人物のTiernan BanksとはFamousを抜けた後でも毎年バレンタインアルバムを出すなど頻繁にコラボしていたりする。black midiともクリスマスにコラボの曲を出していて、ウィンドミルのその辺りのラインで慕われている人って感じがする(ちょっと年上でもあるし)。

ちなみにBC,NRのTrack Xの中で唄われている「Jerskinに合わせて踊り、ひざまずいた」「black midiの前で、君に愛していると告げた」というのは19年のこのライブ(Independent Venue Week Day 1)が舞台になっているんじゃないかと思う。上の写真はアルバムのジャケットだけど、やっぱりこの髭に眼鏡がJerskin Fendrixって感じがするな。


Bart Price

画像6


For the first timeのアートワークからビデオまで、BC,NRアートディレクションを担当するBart Price。どの段階から関わっているのかわからないけど、今にして思えばBC,NRのインスタグラム等SNSの使い方もこの人のスタイルに近いものがあった(自分たちの写真を使うことなく、フリー素材を使って告知するというスタイル。単に写真を撮るのが面倒くさいからそうしていたんだと思ってたけど)。 Sunglassesの7インチ、500枚のジャケットにそれぞれ異なった写真を一枚一枚手作業で貼り付けるっていうのもまさにそうだし、直接的に関わっていなかったとしても影響を与えていたのは間違いないはず。

Bart Priceはまた実験的オペラUBUを作った人でもある。音楽をJerskin Fendrixが制作しFamousが生演奏を担当した。Jerskinとはケンブリッジで出会い、この舞台もケンブリッジの学生が中心となって演じられた模様。

BC,NRの他にもJerskin Fendrix、Famous、James Martinのミュージックビデオを制作していて、こういうところからも繋がりがわかる。FamousのSurf's Up!のビデオのネガポジ反転手法はFor the first timeの限定版のLPでも使われている(この手法他のビデオでもよく出てくるから得意としているんだろうな)。


画像6

Famous

Famousのコピー

ロンドンの3人組バンドFamous。BC,NRのTrack X、Jerskinとblack midiが出てくる箇所に続く部分、「ジャック、君でもおかしくなかったのに」のジャックはおそらくFamousのJack Merrettのことを言っているんじゃないかと思う。Jerskin FendrixとdeathcrashのTiernan Banksが元メンバーでBart Priceの舞台に関わり、ミュージックビデオを作ってもらうという流れから考えても間違いない。

ヒリヒリとした脅迫観念的な的なあせりとあらがい、そして優しさ、Famousもまた素晴らしいバンドで大好き。屋上ライブの映像、最初のロックダウン直前のロンドンの街並みが映ったこのビデオを今でも何度も見返す。


deathcrash

画像8

deathcrashは元FamousのTiernan Banksのバンドで、知ったのはFamous経由だったんだけどまさかdeathcrashもBC,NRと繋がるとは思わなかったな(好きなバンドが勝手にどんどん繋がって行く。あるいは繋がっているから好きなのかもしれない)。一緒にツアーを回ったdeathcrashにバンドのダイナミクスについて影響を受けたとthe Quietusのインタビューの中でTyler Hydeは語っている。

deathcrashの音楽はBC,NRの音楽と比べてよりドラマチックでFamousのそれと比べてもより叙情的。BC,NRの初期のライブの映像を見た時はそんなことは思わなかったけど、アルバムを聞いた後だったり最近のライブを見たりした今だと確かにこちらの方向に近づいているような気もする。もう作り始めているというBC,NRの2ndアルバムはもっと内省的でノスタルジックな感じになるのかもしれない。


James Martin

画像10

謎の男James Martin。Slow DanceのMarco Pini(GG Skips)が神話的と称し、FamousのJack Merrettが最も過小評価されている人物と名前をあげ、Jerskin FendrixやThe Guestは彼とコラボレーションして曲を出す、とにかくこの周辺のバンドを追っているとJames Martinの名前によくぶつかる(Bart Priceも当然のようにビデオを撮っている)。Slow Danceから2019年にOur Giant Panda Is Not Pregnantというタイトルのアルバムを出していて、それはエクスペリメンタルっぽいんだけどBC,NRのアルバムと同じ日にリリースした最新作(The Book of Luke )はもっとストレートに90年代前半のダンスミュージックっぽい。Isaac自身も元々Slow Danceの遊び仲間だったらしいけど(というかBC,NRのメンバーみんながそんな感じ)音楽的な面においてはJames Martinを介して繋がっていると考えるとしっくり来る。


black midi

画像12

References, references, references
What are you on tonight?
Have you seen black midi?

Science Fairの最初の歌詞にはSlintと一緒に参照元としてblack midiの名前があった。black midi、Squid、Black Country, New Road、ウィンドミルによく出ているバンドで共にSpeedy Wundergroundからリリースと共通点が多く一括りにされて語られることも多いけれど、実際に同世代のこれらのバンドがBC,NRに影響を与えているのは間違いない(「この二つのバンドと並べられることは光栄なことだよ、インスピレーションの元になるんだ」とLoud And Quietの記事でIsaacは発言している)。

特にblack midiとは一昨年、去年とウィンドミルのクリスマスライブにコラボレーションバンドBlack Midi, New Roadとして一緒に出演していたりもして、そういう内輪ノリ的な部分も含めてインスピレーションの源になっているんじゃないかと思う。結局のところ、誰も単独では存在しえないから。だからこそシーンと呼ばれるものが出来て、それを肯定したり否定したりする意見が生まれるんじゃないかと思う。


Black Country, New Roadの物語

軽い気持ちで始めて長々と書いてしまったけれど、狭い世界で重なりあうUKシーンのこの感じが自分は好きなんだなって改めて思った。音だけでもいいのかもしれないけど、何かに影響を受けて考え行動する、人の動きに自分は惹かれるんだなって。物語だけでも、音楽だけでもなくて、だからここまでBlack Country, New Roadを見てドキドキするんだと思う(ずっと重苦しいだけではなく良い物語にはユーモアがあることもまた大事)。そうして気にしているうちに色々と勝手に繋がって、もしかしたらわかったかもしれない!って思える瞬間が来て……何やら色々考えられるから音楽って素晴らしい(勘違いだとしてもやっぱり楽しい)。

Bart Priceのディレクションのもと、What a time to be aliveと名付けられたラフ・トレードのボーナスCDは、Black Country, New Roadの名前が書かれたジャケットの中に仲間のバンドの曲が収録されたCDが入っている。references, references, references、つまりはやっぱりそういうことで、こうやってまた新しいページが出来ていく。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?