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2010年代後半に起こったロンドンシーン その1 〜グローバルローカル・ウィンドミル〜

自分が今のロンドンシーンを題材に24アワー・パーティ・ピープルみたいな映画を撮るならウィンドミルでFat White Familyを見ているShameから始めるな。ライヴシーンからスタートしてカメラをパンして客席にいる他のバンドの姿を映しそこからライブ終わりに合流して話して、家に帰ってベッドで眠って明かりが差して目が覚めてそこから本格的に物語がスタートするみたいな。つまり主役はShameのヴォーカルのチャーリーで……的な妄想を時たまする。

ようはPip BlomのBabies Are a Lieみたいな映画ってことなんだけど。このビデオはSorryのライブから始まっているけどまさにこの雰囲気で……。

これを撮ったのは写真家のHolly Whitaker。Goat Girlなんかと仲が良くて(ビデオにめっちゃ映ってることからもそれがわかる。一緒に踊ってるし)Shameのアルバムジャケットの写真やSorryやSquid、Jockstrapのアー写をなんかも撮っていたり間違いなくこのシーンの重要人物の一人。映画を撮るなら最初の方に絶対出さなきゃって感じの人だな。と、そんな感じでまた考える。

あとはLou Smithも。この人が撮ったライブのビデオがあったからシーンが活性化したっていうのは間違いなくあるな。ウィンドミルで行われているライブをつぶさに収めYouTubeを通してその雰囲気を伝える。結局のところ知らなきゃ気になることなんてないわけで、で、ひとたび見れば凄さがわかる。そして凄さがわかるからこそ、もっと知りたくなってそのうちに誰かとその話がしたくなる。だから音源を出るのを待って、出たらその話をして、そしたら今度は実際にライブが見たくなってみたいなそんな感じで循環する。

black midiなんかはマジでこんな感じだったし、Black Country, New RoadはNervous Conditionsのメンバーの新しいバンドらしいって名前が先行する中での初お目見えがLou Smithの動画だった。それでこれはめちゃくちゃ凄いぞって音源がリリースされる前に世界中に広がった。ロンドンの街に住んでいなくとも一気に。こういうのはいかにも現代的な盛り上がり方だと思う。昔は極一部の盛り上がりだったものが今では同時進行で世界中の一部の人の盛り上がりになったりするわけで、グローバルなローカルさをなんだか感じる。グローバルなローカルって一体なんだって感じだけど、これこそが今のロンドンシーンの特徴なんじゃないかって思う。距離はあっても価値観を共有しあえているというか、それは物理的なものではなく音楽的にもそうで、ジャンルにとらわれずに〜ってよく言われているけれどそれはバンドだけではなくファンにしてもそういうところがあるなってここ3年くらいみていて思った(あっという間に広がって、そこから先は時間がかかる)。

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それともちろんSo Young Magazineの存在も。新しいものを知るときには何かしらとっかかりが必要で、So Young Magazineはその最初の一歩としてこれ以上にないくらいに機能してさらにはそのまま主役を張り続けられるみたいなそんな凄さがある。So Young Magazineは本当に素晴らしいんだけど、良さの一つを選んで挙げるならただの情報媒体として終わってないってところをまず挙げたい。セレクトするバンドの確かさもそうなんだけれど、実際にそれを体験する場をファンに提供して、さらにはバンド同士の繋がりを作ってというまさにシーンを生み出すような活動をしていたんじゃないかってそんな気がする。音楽とアートの関わりを深める場所を作ったとかマーチャンダイズ(最近マーチャン作るのめっちゃ大事だなって思うようになった)を定期的に製作してプレミア感や連帯感を深めたとかそういう部分ももちろんあるんだけど、それと同時に入り口の部分を広げるようなことしていたんだなって今思うとそんな感じがする。

ロンドンのシーンがこれだけ盛り上がったのはバンドもだけど、こういう人たちがそれが広がるだけの土壌を作っていたっていうのも大きい。

っていうかこれだけ盛り上がっているのに日本の音楽メディアの記事が少なすぎだよね。そのうちいっぱい書かれるだろうなって思って待っていたけどあらかた1stアルバムは出し終わってしまったみたいになっちゃってるじゃん。Fontaines D.C.の2ndも出たし、感覚的にはもう第二章だよ。

2017年のi-dの翻訳記事と2018年のThe Sign Magazineの座談会の記事くらいしかシーンについての日本語記事ってない。もう音楽メデイアが先頭に立ってって時代じゃないのかもしれないけどってこういうところでもなんだかグローバルなローカルさを感じる。

なのでもう第一章を整理しがてら自分で書く。ここ数年見てきた感覚で書くので間違っていたとしてもあしからず。


サウス・ロンドン ウィンドミル系

全てはFat White Familyから始まった。映画的に誇張して描くなるそうなるんだろうけどそのFat White Familyがよく出ていたライブハウスこそがサウスロンドンのウィンドミル。そこに10代のShameら今のロンドンシーンの中核をなすバンドのメンバーが出入りしていて出会い自分たちもバンドを組んで活動するようになっていった。今のロンドンのシーンはサウス・ロンドンシーンとよく呼ばれているけれど、それはその最初の発信地がサウス・ロンドン・ウィンドミルだったからに他ならない。そしてそこからバンドが他のバンドやファンをリスペクトしてどんどんどんどんその輪を広げていった。だからシーンというかコミュニティとしてウィンドミルが機能していたようなそんな印象を受ける(実のところサウス・ロンドン出身じゃないバンドの方が多いくらいだ)。そしてロンドンのシーンのバンドは、ウィンドミル系に限らずどのバンドもBrexitで揺れ動く世の中の空気が影響していたようなそんな雰囲気があった。

Shame

なんだか書いてる内にちょっと設定資料集みたいだなってそんな感じがしてきたけれど、でも将来このロンドンのシーンを振り返って語る時には間違いなくShameが中心に来るんだろうなってそんな気がしてる。最初にこのシーンを意識というか何か起きてる気がすると思ったのはShameがThe Lickをリリースした時で、10代と思しきメンバーがイキりまくっている姿に何かを感じた(2016年、しかし今見るとめっちゃ若いな)。Shameが素晴らしいのはこのイキりも含めて全てを自覚しているところ。上に貼ったi-dの記事でもそうだけどあたりを見渡し自分の立ち位置を明確にしてバンドとバンドを結びつけるようなそんな役割を果たしているような感じがする(Catfish and the Bottlemenのディスりから政治的なツイートまで)。Sorry、Goat Girl、HMLTDのやっぱりその中心にShameがいる。調べるとSports TeamのAlexとシーンについて一晩話したりなんてエピソードが出てきたり自分たちは何をすべきかを常に考えて動いているとやはりそう思わずにはいられない。そしてそれらのバンドの先陣を切って1stアルバムをリリース、The Fall的なポストパンクからOasis的なポップソングまで、エネルギーに満ちあふれ爆発する場所を見定める。

Goat Girl

Goat Girlはクールで熱い。吠えまくるShameとは違いTwitterのアカウントも持っておらずそうしたシーンから少し距離を置いているかのように思えるけれど、LottieとShameのフロントマンのCharlieは高校の同級生でバンド結成当初からウィンドミルで対バンしたりとその縁は浅からず。ライブハウスで後に1stアルバムをプロデュースすることになるDan Carey(Speedy Wunderground)に出会うなんてエピソードもなんとも魅力的(Danの方からプロデュースさせてくれないかと声をかけてきたらしい)。それでいながらSpeedy Wundergroundから出すのではなく老舗Rough Tradeからリリースしたっていうのがまた素晴らしい(登竜門的新興レーベルと伝統あるレーベルの重なり合い)。

Speedy Wundergroundについては後でまた詳しく書くけれど、今のロンドンシーンの特徴のひとつにいくつもの層が重なりあっているというのがあるんじゃないかって思う。どこか一つに属するのではなく円と円が重なりあってさらに大きな円を描いているみたいなそんな多重構造。それは音楽だけに止まらずアートや映像も含んでいて、こういう部分が上記の「価値観を共有して〜」ってところに繋がるんだと思う。ただジャンルがバラバラで多岐にわたっていることもあってファッションなどシーンに共通したわかりやすいアピールがなくそれがメディアにプッシュされにくい要因にもなっていたのかもなと振り返ってみて思う(記号化しにくいから)。

しかし今見ても猫背でギターを弾くLottieの姿はめちゃくちゃ格好いい。

ほとんど一発録りみたいな1stアルバムはロンドンの街の空気をそのまとらえたような感じで本当に最高だった(2018年マイベスト)。その頃とはメンバーが変わってしまったけれど(ベースのNaima Jellyが抜けHolly Holeyが加入)、今年1月のインタビューでほぼ2ndアルバムを録り終わったって言っていてそれがどうなったのか気になるところ。

HMLTD

HMLTDには痛みがある。明かな失敗の歴史、2016年や17年の最初はもう無敵で次はなにを見せてくれるんだってあれだけドキドキさせてくれたのに……。Sonyと契約してそれから全てがおかしくなってしまった。「おまえたちを世界最高のバンドにする方法を知っている」その過程で提案されたのがクィアであるように振る舞うこと。それを彼らは断って投資ポートフォリオの一部からの脱却を試みた。そうして10ヶ月間リリースがない期間が出来上がってその途中で仲間を失った。そんなことを語っているNMEのインタビューを読んでショックを受けた(曲を書くメンバーの半分はL.A.に、残りの半分はいらないからとイングランドに残してとかSonyは本当にめちゃくちゃだった)。その後イングランドに戻ってLucky Numberと契約して出したアルバムも良かったけれど、でもあのまま行っていればいったいどうなっていたんだって思いがどうしても拭えない。

Sorry

上のi-dインタビューでShameがべた褒めだったのがSorry。もちろんそれで知ったんだけど最初にPrickzのビデオを見たときにもう完璧だと思った。これはみんなが騒ぐはずだって。今ではそんなことは思わないけどなんだかHype Williamsみたいに思えたし(たぶんバスケットボールのせい)詩的で暗くて奥行きを感じて1発で大好きになった(Sorryにはアンダーグラウンドの精神、少し冷めた目線とロマンティクさがある)。その後インタビューを読んでなんかのバンドのFishって名前をした人のファンから勝手にFishを名乗ってんじゃねーってクレームをつけられてSorryって名前に改名したって知って爆笑した。こういう皮肉めいたユーモアがあるのがSorryの良さだと思う。今年の3月に出たアルバムも本当に完璧な足し引きのバランスで超良かった(重力のある夢みたいな、物語を通して示される価値観と現実)。

ただ唯一気になるのがレーベルの意向なのかなんなのかAshaとLouisの二人を全面にして売り出そうとしているところ。アルバムが出るタイミングでSlow Dance(これもまた後で書く)のGG SkipsことMarco Piniが加入した感じになっていたのに。ベースのCampbell BaumはBlack Cat White Catというイベント会社(よくSo Youngと組んでライブを企画している)を運営しているし、ドラムのLincoln Barretは超良い渋い声でGoat Girlのアルバムにも参加してたりしていて二人以外のメンバーからの広がりも多い。こういう風にして売り出すのはわからなくもないけれど、ちょっと釈然としないものがある。変な感じで消費して欲しくはないなって。Sorryこそロンドンシーンの多重構造のキーになっているバンドだって気がするし(サウス・ロンドンシーンの中心にいるノース・ロンドンのバンドだっていうのもなんとも示唆的)。

ついでに言うとミックステープをこれからも出し続けて欲しい。それと例の死んだ魚のマーク(天使の輪がついた、これって皮肉なのかな?)のワッペンとかワンポイントのTシャツも作って欲しい。

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Black Midi

ウィンドミルの鬼子で秘蔵っ子、black midi。全てのジャンルの要素をぶち込んで混ぜ合わせて爆発させたみたいなカオスを生み出す。Black MidiはSo YoungでSorryが褒めていてそれで知ったんだけど、その時には既にShameやGoat Girlのサポートとしてヨーロッパのツアーに出ていたりとにかくみんなから大絶賛されていた。さらにはHolly Whitakerがアー写を撮ってLou Smithがビデオを公開してSpeedy Wundergroundからリリースし、レーベル最速で完売を出し満を持してRough Tradeと契約するというまさにここまで書いて来たことのフルコースみたいな道をblack midiは辿った。そのまま一気呵成にカオスのような1stアルバムを生み出して……もう2ndアルバムがどうなっているかなんて想像もつかない。

Jerskin Fendrix

鉄拳とおにぎりとハロー・キティを愛する男、Jerskin FendrixことJoscelin Dent-Pooley。Black Country, New Roadとblack midiのおじ的存在、なんだか知らないけれどやたらと評価を集めているケンブリッジ大学出身のこの男、Sport TeamやSlow DanceからリリースしているMartha Skye Murphyもケンブリッジなんだけどこれは偶然なのか?大学関係じゃなくとも街としてのシーンがそこにあるような気がする、Black Country, New RoadやUgly, Lady Birdもそうだし。

閑話休題、Jerskin FendrixのスタイルはBlack Country, New Roadの特にIsaacにマジで影響を与えてたみたいでBCNR初ライブ以前のThe Guestのライブの映像を見たらJerskin Fendrixの完全なフォロワーだった。でもそれもなんとなくわかる。この人は近所にいる変わった兄ちゃんって感じがするんだよね、何かたくさん持っていて、ジョークが上手くて、ゲームをしながら本とか映画とか色々教えてくれる人。Jerskin Fendrixの音楽は何やっているかわかないようなところもあるけど、それが逆に懐の深さみたいに思えて不思議な魅力がある。知性的なのになんだかおかしいみたいなそんな魅力。

Famous

Famous、このふざけた名前のバンドにはかってJerskin Fendrixが在籍し、今はdeathcrashにいるTiernan Banksもメンバーに名前を連ねていた。そこからさらにJames Ogramが抜け(映像作家になったらしい。この屋上のビデオも彼が撮っている)今はGeorge Gardner(ベース)、Danny Sander(ドラム)、Jack Merrett(ボーカル)の3人組だ。

ウィンドミルシーンに入れたけどShame, Sorry, Goat Girl, HMLTDとのラインとはちょっと違うような感じ。それはJerskin Fendrixもそうで、black midiを通して引っかかっているみたいな。これは本人達の性格とか相性もあるんだろうけど、地理的なものが大きいんじゃないかと思う。ボーカルのJack以外の二人はリーズの学校に通っていてそこから車で4時間かけてロンドンにやって来て朝帰るみたいな生活をしていたらしい。それはDrug Store Romeosにしてもそうでハンプシャーから2時間電車に揺られてウィンドミルに遠征し続けた。今は違うみたいなんだけどどっちのバンドもロンドンに暮らしていないという距離感がシーンにおける独特の立ち位置を作ったのかなと思う。いつもツルむだけの時間的余裕も金銭的な余裕もないからこそ生まれる違いが良い方に作用したんじゃないかって。同じ価値観を共有しているけど、環境がちょっと違うから見えてる景色も変化したみたいな(つまりロンドンという場所に対するスタンス、それが帰宅時間と共に考えとして現れる)。

何はともあれFamousはパンク・スピリットに溢れている。脅迫観念的なあせりが生む渦と抵抗、ロックダウン直前に行われた屋上ライブがとにかくめちゃくちゃ格好良くてこのビデオを作ってくれてありがとうって心から思った(この感動は街と抗えきれない悲哀がそこにあったからなのかもしれない)。

ウィンドミル系まとめ

Shameに限らずロンドンシーンのバンドはよく名前をあげて他のバンドを褒めるけれど、そうやって名前を出されるバンドはマジでいいのが多かった。だからもっと知りたいって思うようになって、調べて音を聞いてそのうちに状況が動いていってっていうのを繰り返して、そしてハマった。もう本当に次から次へとこのバンドも良くない?って思うようなバンドが出てきていたから(So Youngやその他のイベントのフライヤーで知らないバンドの名前を見かける度にどんなバンドなのかと気になってワクワクした)。

Slow DanceSpeedy WundergroundHolm Front 次回はレーベル周りの話。それもやっぱり多重構造で色んなところで繋がっている。


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