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Jerskin Fendrixの世界

祝・Loud And Quiet年間ベストアルバム!

そしてそれを祝して投稿された所属レーベルuntitled (recs)のこの写真がこれまた素晴らしい。

スマホを片手にベッドに惚けるJerskin Fendrix。髭面で眼鏡は外され傍らに。壁一面に貼られた自分が写るポスターに囲まれて、持ち込んだMacBookが無造作に置かれ、部屋の中にはハローキティがいる。これぞまさしく僕が想像するJerskin Fendrixの姿。「まとまらない世界に思考、MacBookの向こうとこちら、ネットの内側と外側、全部に属してどこにもいない」自分の年間ベストの記事でこんなコメントを書いたけど「これだよこれ、このイメージ!」ってテンションがあがった。この写真の世界こそ自分の思うJerskin Fendrixの世界だなって。

しかしJerskin Fendrixとは何者なんだろう?イメージはあってもイマイチその正体がつかめない。だからちょっと考える。

僕が最初にその存在を知ったのは2019年の1月にBlack Country, New RoadのヴォーカルIsaac Woodのプロジェクト、The GuestのTheme From Failure Pt.1を聞いた時だった。

「これは全てを持っていたケンブリッジの少年が世界に裏切られた物語だ」そんな言葉から始まる半自伝的な独白。その中でIsaacは「1ヶ月間毎日Jerkin Fendrixを聞き続けた」と唄う。

2in1シャンプーを投げ捨てたことはわかった。でもJerkin Fendrixって誰?

こんな感じで伝えられて気にならないはずがない。それでググッて出てきたのが髭面で細面のこの男。

「今の僕は彼が形作ったようなものだよ。自分の音楽をやろうとしてぼんやりとしかつかめていなかった概念が、Jerskinのセットの中で既に完成されていたんだ。彼がやったことは奇妙で本当に感情的なものだったけど、ダサいって種類のものでは決してなかった。Jerskinと自分との関係を正しく言おうとするなら僕は彼の甥って感じになるんじゃないかな」

後に読んだインタビュー記事の中でIsaacがJerkin Fendrixのことをこんな風に言っているのを見てその存在の大きさを知った(ちなみにこの記事が載っているThe Quietus誌はJerskin FendrixのA Star Is Bornの歌詞の中にも登場する)。言われてみればかなり影響を受けているのかもしれない。

例えばJerskin FendrixのOh Godに出てくるNick Caveやライフ・アクアティックのオーウェン・ウィルソン(と思しき人物)はIsaacのTheme From Failure Pt.1でいうところのカニエ・ウエスト、恋はデジャ・ブにあたるのだろうし、どちらもインスタグラムの中の女の子の存在を気にし、フェイスブック上で奇妙なやりとりが行われたということをネタにしている。これは別にSNSやポップカルチャーについての曲を作ろうと思っているのではなくて、自分の周りの世界を描き出すにあたってそこにあるものの一部として登場したんだろう。このやり方はBlack Country, New Roadでも引き継がれ、デンマークのクライム・ドラマやリチャード・ヘル、black midi、ケンダル・ジェンナーにCharli XCXと必ずと言っていいほど全ての曲にポップカルチャーへの言及がある。それはやはりIsaac Woodの世界も上記のJerskin Fendrixのベッドルームのように広がっているからなのだろう。

そしてどこまでが本気でどこまでがふざけてるのかわからないところもまた共通している(かたやハロー・キティのアイマスクをつけて唄い、かたやビリー・アイリッシュのTシャツを着てフレッドペリーのステージでプレイする)。ユーモアと皮肉、シリアスな部分とジョークが混じり重なりあっているこの感じに心惹かれてドキドキする。

さらにJerskin Fendrixは検索するのが最も難しいバンドのひとつFamousの初期メンバーでもあった(Jerskinが出ていたライブの映像昔どっかで見たんだよな〜と思って探したけど結局見つからなかった。ちなみにFamous London bandでググるキンクス、ストーンズと一緒にThe Whoが出てくる)。

クレジットを見る限り1st EP、Englandが出た辺りまで在籍していた模様(FamousのこのEPもとても良い)。

Famousは18年の夏にヴィクトリア&アルバート博物館で行われた実験的オペラUBU(Jerskin Fendrixがスコアを担当)のバックバンドを務めたりもしていたらしい。どんな舞台なのか気になって調べてみたらガーディアンのレビューが出てきてそこでめちゃくちゃ褒められていた(この舞台の原動力になっているのはJerskin Fendrixのスコアだ。このインダストリアルテクノの中にあるハーモニーは不協和音や不穏な音で削り取られている)。

このオペラはJerskinがケンブリッジ大学で出会い今では映像作家になっているBart Price(同じ人みたいだけど当時の記事だとPeter Priceと表記されている)が中心になって作られたもので、ケンブリッジの学生たちによって上演されたものらしい。

Bart Price、この名前どこかで見たことあるなって思っていたらBlack Country, New Roadの一番新しい曲、Science Fairのミュージックビデオを撮っている人だった。ここでもBC,NRと繋がるのか。ビデオのリンクからHPに飛んだところ2月に出るアルバムFor the first timeでも仕事をしていると書いてあった(アルバムめちゃくちゃ楽しみ)。BC,NRがやっているスタイル、インターネット上で自由に使用できる画像が集められたサイトUnsplashを使ってっていうのはどうやらこの人のプロデュースっぽい。

さらにさらにJerskin Fendrixは同じくFamousの初期メンバーであったTiernan Banksと一緒に毎年バレンタインアルバムを出している(こちらは本名Joscelin Dent-Pooley名義)。なぜバレンタインにアルバムを?気になったけどなぜなのかはわからなかった(けど雰囲気はとても伝わる)。

このアルバムも良い。特に19年のアルバムの最後の曲がお気に入り。この曲はなんか映画の中で主人公が体育館のステージで演奏する曲みたいな趣があって好き(この後きっとエンドクレジットになだれ込む)。

Tiernan BanksはFamousを抜けて、今はdeathcrashというバンドをやっている。このバンドがこれまた素晴らしい。ポストロック的なフィーリングである種のイメージが頭に浮かぶような感じで、喪失感と内省的な感覚と希望がいり混じったような雰囲気があって……本当に最高(僕たちはこれを夜中に聞く)。

ここまで断片的な情報を集めてあれこれ書いてきたけれど、やっぱりイマイチどんな人なのかはつかめない。でも関わりのある周りの人やバンドがどれも本当に素晴らしくて、こうやって並べてみるとJerskin Fendrixはこの広がりの中心にいて影響力を放っているってそんな感じに思えるし、胡散臭さが満載だけどそれこそが魅力だって風にも思えてくる。調べれば調べるほどその存在が気になってきてしかたがない、たぶんJerskin Fendrixはそういう男。

なんだかよくわからないけど、でもまぁJerskin Fendrixの今年出たアルバムが素晴らしいってことははっきりしてる(そしてやっぱり胡散臭い)。


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