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サマーフィルムにのせられて

大切な映画に出会ってしまった時は、どうしようもなく座席から立ち上がりたくない。それでも流れる時間によって退出する時間に到達してしまう。

『サマーフィルムにのって』。例によってずっと座って浸っていたい大切な映画に今日また出会ってしまった。
解説は偉そうでできないし、考察なんて大それたこともできないから、この映画を見て、ほっ!と自分の中に現れたものをまとまりなく書いていこうかな。

県内の映画での上映が終わってしまい、刈谷日劇に行った。なぜこんな素敵なミニシアターが住んでいる地域にないのかといつものように思う。そしてこの映画の上映館がますます増えていくことを願う。


始まった瞬間から僕の知らない青春が始まっていた。時代劇好きな主人公ハダシを中心にブルーハワイ、ビート板。女子3人が時代劇を撮る物語。僕が知らないそんな青春を観れると思うと、とてもわくわくした。
キャッチャーミットの音だけで投手を当てる2人も、眩く光るデコチャリを乗るヤンキーも、全員が愛おしい映画に間違いはない。
未来は映画消えていて、それは人が他人の話に2時間もかけられないという理由には青ざめた。
TikTokがはやり、気づいたらYouTubeでさえショートムービーも出てきていて、ファスト映画が摘発されて。フィクションの未来が完璧にフィクションだろうと言い切れない怖さがある。映画がなくなる未来を想像した時に思考はプツリと途絶え暗闇しか見えなくなる。だからこそこの映画を約2時間かけて見てほしいと心から思う。
この先はネタバレになってしまうので見ていない人はまず見てほしい。ん?いや見に行こう。

好きなシーンの連発で時間が過ぎるのは早く、ラストシーンへ。映画の感想文が上手く書けなくてもどかしい。えっとラストシーンか。
ハダシが何度も書き直し、撮り終えた映画を文化祭で流す。そしてラストシーンが流れるとハダシは映画の上映をやめてしまう。
自分がやるべきラストシーンを取り直すために。
体育館の前のスペースが開けられ、時代劇の格好ではなくて学校の制服で始まる。
「バンっ!」と照明が焚かれると座席に座っている僕はその映画のラストシーンの撮影を見る傍観者となった。
観客の一人として見るラストシーン。ハダシが凛太郎に想いを馳せ、過去未来現在の映画のことを思い、最後まで妥協せず創造した『武士の青春』。
ハダシが想いを一言一言言うたびに、僕の中に響く。
想いを伝えて勝負しようとするハダシと凛太郎の殺陣を間近で見て、過去から現在を繋ぐ映画の思い、現在から繋ごうとする未来の思い、ずっと好きだった時代劇にのせたラストシーンに傍観者でいる僕にそのままでいいのかと自問自答する。
僕も映画がめちゃくちゃ好きなんだ。大切な映画に出会うたび、外に出ると何となく見ていたものが素敵に写ったり、会う人たちがこんなにも魅力的なんだと感じる。僕にとっての映画は自分と社会を繋ぐ接合部であり、世界や価値観が変わる核なんだと思う。
その映画が好きなだけの傍観者なのだとこの映画をみて心底思った。
やはり僕は自分の映画を撮りたい。映画の世界に入りたい。何の知識もない。何の経験もない。どうすれば映画業界に飛び込めるのかも分からない。そんな自分になれるのかと不安にもなる。こんな上手く映画の感想文も書けない僕が。
それでも好きなものの傍観者ではいなくないし、好きなことに覚悟を決めたい。地球より重い自分の腰を上げたい。あげる。足がちにのめり込んでも。知らない世界は怖いけれど、もうこれしか考えられない。拙い文で申し訳ないが、サマーフィルムにのせられて、僕は自分の映画を撮りたくなった。
立ち上がれない席でラストカットが頭に張りついたまま考えていた。
今月から23歳になる。遅過ぎるのかとも思う。
ただ、大切な映画が僕にくれたもの。
傍観者から脱退。サマーフィルムにのせられて、僕は映画を造る人間になろうと思う。

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