12.葬儀準備【送り人編】


生前の母は、病気になるまえから
死を迎える準備だけはバッチリだった。

病気になる3年前に葬儀積立に入り
お墓の管理がいらない他人の骨と合同で
埋葬される共同墓を生前予約して
自分の名前までばっちり彫っていた。

(簡単に言うと、お墓のシェアハウス版)

当時の私は、死に急ぎすぎじゃない?
って母に言った記憶がある。

墓石に名前まで彫った時は
驚きと怒りみたいなものが混じった。

『まだ元気なのに墓に名前彫って、
早く連れてかれちゃうよ?』って言った。

頑固な母は止まらない😮‍💨
ワクチンだってそう。
3回目は打ったらダメだよ。と
あれほど言ったのに打って。

死に急ぎの急行電車かよ。

そんなわけで、お葬式は
母の母(祖母)を見送った葬儀場にした。

加入していた葬儀積立は
最低限の葬儀コースだったから
足りないものや、増やすお花を
オプションで追加していったら
追加支払い金額は、100万は軽く超えた🫠

もっと質素にもっと安さを。を
考えることもできたけどたった1人で
意味わかんない病気と苦しみ向き合って
地獄を耐え抜いた母に。

他の家庭とはかなり違ったけど
たった1人で、子供を育てた母。

最後に親孝行になる。
もう、こんなに何かをしてあげられることは
何もなくなってしまう。それが死ぬってこと。

金額にためらいは少しもなかった。
一生後悔ないようにやっちゃお⤴︎って。

これが負債になっても全然痛くもない。
そう思った。

色々な感情がうずまいてる私の心の中。
その色々の中のどれよりも、
一生後悔したくない。その気持ちが
ぶち抜きすぎてて脳内がお祭り騒ぎだった。

親孝行祭ダァ!上げてこ!状態🙋‍♀️

お花は盛大に。
母はお花がとっても好きだったから。

骨壷も、花柄にした。
文字はゴールドで。オプション高えの。
(別の記事で骨壷の話出るから覚えといて)

してあげたい事は全部した。

お葬式の段取りは全部終わって、
次はお葬式でいろんな人にお別れをするために
母をおめかししなければ!

冷凍されてカチコチな母。
最後に触れた時はまだ柔らかかった頬。
触れてみると冷たくて硬い。
でも、その感触は冷たくて硬いのに
柔らかい気がする。不思議な感覚だった。

人生でこんな感触は初めてだった。

『こんなに冷たくなっちゃって。』

そう呟いた。

その冷たさに触れて、誰もいない安置室
静かでお線香の煙が立ち込めて不思議な感覚だった。

なんでこんなとこ居んの?
そんなタンスみたいな引き出しに入ってさ。
変だよ。ドラえもんじゃないんだしさ。

そう思った。

でも、こんな所で泣いてる場合でもなければ
ぼーっとしてる場合でもない。

『家族は私しかいないからね。
まだまだやることあるんだよ。』

そう気持ちを押し込めて。

『もうすぐだね、準備してるよ』
『少し寒いけど、もう少し我慢してね』

そう母に話しかけて。

安置室の扉を、開けたら絶対泣かない
鉄の女タイムだー!と深呼吸して。




そして、次は【湯灌の儀】
ユカンノギって読むんだってさ。

『納棺師さんに来てもらう事です』

って葬儀場の人から説明されて
『あ、送り人ってやつですか?』って
聞いたらそうですって言われた😂

知らんがな、そんなもん(笑)

湯灌の儀当日。
私は一人で行くと決めていた。

葬儀場に到着してロビーで待っていると
6人の家族がいた。

その人達は家族が亡くなったようで
安置室で故人様とご対面したようだった。

抱き合いながら泣き叫ぶ娘さんらしき女性。
静かに顔を覆いながら忍び泣く男性。
支えながらなだめるおばさん。
わけわからず立ち尽くす子供。

その人たちを見て正直素直な気持ちで
『うらやましい』と思った。

あんなにすぐ泣けて感情を出せて人に甘えられて。泣いていてもなんとかなるんだもん。

本当最低な人間だなって自分の事思う。

その人には、泣ける時間がある。
私は泣いていたら何も進まない。

だけど、人に頼りたいと思う事もない。

そんな事を考えてたら送り人に呼ばれた。

部屋に入ると簡易シャワー台?に
横たわる母がいた。


率直な感想は
『やっと普通の部屋に出て来れたのか!』

送り人は母の体を洗ってくれて、葬儀にむけて
お化粧や身支度を整えてくれるらしい。

◼️身体を洗うにあたってご要望はあるか
◼️お化粧、髪の毛はどうするか

を聞かれた。

生前に『死んでしまった場合、風呂にも思うように入れず身体が汚いからよく洗って欲しい』と母からラインがきていた。

なので、すっごくしっかり洗って欲しい。
頭もかなりしっかりゴシゴシ!

顔の産毛とかも気にするタイプなんで、しっかり剃ってあげてください!

母からの伝言を送り人に伝えた。
そして顔を洗うとき私も母の顔を優しく拭いた。


お化粧は、生前の綺麗な母の写真を見せて。

髪の毛は、白髪を気にしていたから黒くして欲しい。

母の意思は全て現実にした。

送り人に整えられた母はレースでフリフリの棺桶の中で死装束を着せられていた。

棺桶。とうとう棺桶に入ってるよ😂
フリフリかよ😂メルヘンだな。

なんか可愛いな。と思った。

棺桶に入れたいものを持ってきた。
私が母にプレゼントした洋服だ。

お出かけするときよくきていたんだ。

美意識高い母は、死装束なんて嫌だろな。
そう思ったから楽しかった時に着ていた服で。
天国にもカジュアルな気持ちで逝ってくれ。

そう思ってあえて選んだ。

その服をソッと母の上に置いて。

思い出までも納棺されてしまう気がして
少し寂しくなったけども。

涙が少しだけ頬を伝った。
だけど最後まで穏やかに湯灌の儀を行えた。

生前母の綺麗な姿を見ていた人たちに会うんだ。
母が恥ずかしくないように可愛くしてあげなきゃ!それだけを考えて。

最後に、送り人に
『ありがとうございました。
どうぞ最後までよろしくお願いします。』
と言って部屋を後にした。

気丈に振る舞う。そういう言葉を沢山聞いたけど
私は振る舞っていたつもりはない。

ただ最後の親孝行を全力でやっているだけ。
頭に浮かぶ母に、どうしてほしい?と
問いかけ続けているだけ。

母の葬儀をしっかりと終わらせて
立派に送り出してあげたい。

その気持ちがただただ前向きだっただけ。

気丈に振る舞うなんてそんな器用なもんじゃない。


いよいよ明日はお葬式だ。
そう気持ちを引き締めて葬儀場をあとにした。


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