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痙性の新しい病態の捉え方

痙性麻痺の謎を追求していきます。

従来の痙性麻痺の考え方。

痙縮(痙性)とは、古くはLance(1980)の定義によると、
上位運動ニューロン障害の特徴の1つで、過剰な伸張反射による腱反射の亢進、緊張性反射活動の速度依存的な増強で特徴付けられる運動障害』とされていました。
 
以下、それぞれの研究者の記述を挙げます。

Young(1994)
『筋緊張の速度依存的な増加による痙縮の影響は上位運動ニューロン障害によって伸張反射が過剰に反応し、腱反射が過剰に更新されている状態』と報告
Nielsen(2007)
『痙縮は筋緊張(緊張性伸張反射)と下行性運動路の損傷に伴う腱反射亢進の速度依存的な増強によって出現する』と報告
アメリカ国立衛生研究所
『痙縮の定義を、過緊張の1つの要素であり、外力による運動に抵抗して伸張の速度を増すとその抵抗は増加する。そして外力による抵抗は速度や関節角度(関節運動の方向)によっては閾値を低下させるもの』と報告
Tardieuら(1954)
『痙縮は上位運動ニューロン障害で起こる感覚運動系の調節の異常な状態であり、持続的な筋の不随意な収縮である』と報告
Sehgal(1998)
『痙縮のメカニズムは、脊髄より上位からの抑制が途絶えたことによる脊髄レベルの錘内筋と運動神経の異常な興奮を含み、錘内筋を感覚器である』と報告
Ivanhoeら(2004)
『痙縮は速度依存的のみでなく筋の長さにも依存し、反張弓の過敏性に関係する』と報告
Heckmannら(2005)
筋緊張の増加は主として反射弓の過剰な反応によるもので、上位運動ニューロンに影響を与えた結果としてのαとγ運動ニューロンの興奮性増大によるもの』と報告
PandyanとBurridgeら(2005)
『痙縮とは上位運動ニューロン障害で起こる「感覚運動系の調整の異常な状態」であり、筋活動の間歇的もしくは持続的な筋の付随性の収縮が高まっている状態』と報告

以上を踏まえると、
脳卒中後遺症者における痙縮の機序には、内包を通過する上位運動ニューロンの障害による下行性コントロールの欠如もしくは低下が大きく関与しているといえる。これにより、皮質網様体システムの抑制系に機能低下が起こり、αとγ運動ニューロンの興奮性増大が痙縮発生に大きく関与すると考えられている』となります。

新しい痙性麻痺の解釈

Perfettiは痙性麻痺の新しい捉え方を提案しています。

片麻痺を痙性麻痺として一括して捉えるのではなく、4つに区分する捉え方です。

☑︎ 伸張反応の異常
☑︎ 異常な放散反応
☑︎ 運動の原始的運動スキーマ
☑︎ 運動単位の動員異常

片麻痺=痙性麻痺と一括して捉えて治療するのではなく、痙性の特異的病理を4つに区別して、1つ1つの病態を改善させる事が必要と述べています。

この捉え方からすれば片麻痺の回復は

『①伸張反射の異常→②異常な放散反応→③運動の原始的運動スキーマ→④運動単位の動員異常』
 
の順に生じる事になります。

1つずつ紐解いていきましょう。

なぜ痙性麻痺が出現するのか?

ひとつの仮説として、痙性麻痺は機能解離による機能抑制が解かれたものであるとPerfttiは述べています。

機能解離とは?
機能解離とは脳に局所的損傷が生じた際に損傷部位から神経線維を受けている神経細胞が一過性に機能障害に陥る現象。

流れを以下、説明します。

脳卒中によって脳が損傷を受けると損傷部位を守る為に損傷部位と連結した部位からの情報のやり取りを一時的に停止します(機能解離)。その為、急性期では大脳皮質の運動野と連結している脊髄の前角細胞の機能が一時的に停止し、筋緊張は弛緩し腱反射も消失する「弛緩性麻痺」の状態に陥ります。

急性期が過ぎると大脳皮質からの連絡が絶たれ、制御を失った脊髄前角細胞は末梢の筋や皮膚からの末梢からの感覚刺激のみに反応する過興奮状態に陥ることで「痙性麻痺」への移行していきます。
 
つまり、『機能解離により弛緩性麻痺となり、機能解離による機能抑制が解かれたことで痙性麻痺が出現している』ということです。

① 伸張反応の異常(筋緊張の亢進)

伸張反応の異常は『脊髄の運動ニューロンに対する上位中枢からの制御が解放され、末梢の皮膚や筋からの感覚入力による伸張反射の回路が優位になり出現する』ということです。
 
この「末梢の優位性」は、表在感覚や深部感覚の知覚異常と上位中枢から脊髄反射を予測的に制御する能力の欠如の結果です。
 
ここでは、伸張反射は制御できるという観点から『伸張反応』と表現します。

② 異常な放散反応(連合反応)

放散反応の異常は『ある筋の収縮が他の筋のを反射的に引き起こす現象』ということで。

つまり、刺激に対する反射が他の筋の反射にも影響を及ぼすことを放散反応と総称しています。

③ 原始的運動スキーマ(共同運動)

原始的運動スキーマとは『常に壮大かつ限定的な共同運動のパターンで運動が起こる』ということです。

ここで特徴なのは、筋緊張や機能特性、共同運動の分離だけでなく、単純な知覚情報処理で出現する点です。

たとえば、上肢の「重量」のみをトリガーとして出現します。
患者は運動麻痺を筋力低下と捉える傾向があり、四肢の重さを持ち上げたり押し出したりするには筋力が必要と考え、より上肢や下肢を努力的に動かす事で、分離できずに限定的な共同運動パターンとなり、より固定化が進行します。

④ 運動単位の動員異常

運動単位の動員異常は『脊髄運動ニューロンを質的/量的側面において適切に動員できない』ということです。

つまり、「筋出力の調節ができていない」という意味です。

おわりに

簡潔に説明すると以上になります。
次回は、より細かく説明していきます。

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