外食市場はどうなるのか?(1/2)~新たなウイルスが強要する変容の行方を考える

このnoteは、元々外食産業から社会人生活を始めた私が、基本的に公開情報と、私の業界経験などから得られた見解を2つに分けてまとめるものです。もちろん日々傷んでいく外食市場を懸念しての想いも溢れるほどあります。できるだけファクトベースでの記述を心がけておりますが、筆力と考察の足らないところは、全て私の責任に帰すべきものです。

1)時系列の流れと、自粛の影響を受ける期間の定義
サマリー)
2020年2月26日(水)から5月10日(日)の75日間が、現時点では営業自粛の影響を受ける期間と言える
① 中国湖北省武漢市において「原因不明の肺炎」が拡がっている旨、報道があったのは、年が明けた1月早々であり、1月4日(土)にYahoo!ニュースで「中国の武漢で原因不明の肺炎 現時点でどう備えるべきか」という記事が、国立国際医療研究センター 国際感染症センターの感染症専門医忽那賢志氏によってアップされている。
② 厚生労働省からは、1月6日(月)に「中華人民共和国湖北省武漢市における原因不明肺炎の発生について」という報道向け資料が発出されており、その中では、渡航者への注意喚起がされている。
③ 1月16日(木)には、武漢市に滞在歴がある神奈川県居住の三十代の男性が、新型のウイルス性肺炎に感染したのを確認した旨、厚生労働省より発表あり、これが国内での感染者1例目となる。
④ 首相官邸案件として、具体的にコロナウイルスについて動きがあったのは、1月21日(火)午前の官房長官記者会見において『閣議前に「新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する関係閣僚会議」を開催。(中略)総理からは、検疫における水際対策の一層の徹底、国内で関連性が疑われる患者等を把握をし、検査する仕組みの着実な運用、国際的な連携と感染症の発生状況等の情報収集の徹底に万全を期すとともに、国民に対し、引き続き迅速かつ的確な情報提供を行っていくよう指示がありました。』とあるのが最初である。
⑤ 民間の事業者等による自粛の動きが顕在化したのは2月15日(土)前後であり、具体的には「ロッテがファンサービス当面自粛 プロ野球、肺炎感染予防で(日本経済新聞)」のように、プロ野球のキャンプ地におけるファンサービスの一部自粛を各球団が取り始めたことから始まっている。
⑥ 2月25日(火)開催の第二回新型コロナウイルス感染症対策本部幹事会(議事録pdf)において、政府として「イベント開催是非の検討、テレワーク推進、時差出勤、外出自粛などの検討」が言及されており、翌2月26日(水)の新型コロナウイルス感染症対策本部において、「首相、今後2週間のイベント中止要請 新型コロナ拡大で(日本経済新聞)」と、公に自粛要請がなされた。事実、早いところでは翌2月27日(木)から東京国立博物館が臨時休館を、USJと東京ディズニーランドは2月29日(土)から臨時休業に入った。故にこの2月26日(水)の要請が、今に至る経済活動縮小のはじまりと言える。
⑦ さらに一般の市民生活に大きなインパクトを与えたと思われるものとしては、⑥の翌日2月27日(木)新型コロナウイルス感染症対策本部(第15回)において、3月2日(月)から春休みまで、臨時休校を要請したことにある。これは多くの関係者や家庭にとっては「寝耳に水」な話で一気に緊張感が高まった。
⑧ この臨時休校要請によって、就学児童を持つ家庭の生活に大きな影響が出ることが確実になった。特にパート等で家計を支えていた主婦が子供を家庭に留めるために就労機会が失われ、家計を直撃するために、政府による家計補助を求める声が高まった
 北海道は2月28日(金)に、鈴木知事が道の独自措置(法的根拠の無い)として「緊急事態宣言」を発出し、北海道内において週末の外出自粛が呼びかけられたことによって、飲食業にとっては本格的な営業面の打撃を受け始めることになる。この「北海道「緊急事態宣言」の週末、広がる自粛ムード(日本経済新聞)」は、具体的に外食や小売店の営業休止や営業時間短縮が、2月29日(土)と3月1日(日)に実際行われたことで、この後全国各地でも同様な措置を行わねばならない環境が出来上がり、顧客側でも「外食するのが不謹慎」な風潮を感じて外食需要が収縮(いわゆる"自粛")し始めたのは、これ以後のことである。
 しかし「自粛ムード」から1週間ほど経過した頃から、ネットに広がる「コロナ疲れ」(3月7日 Abema Times)や、「仕事はしろ、娯楽は控えろ」生きる希望は…?長引くコロナの影響に「疲れ」訴える声も(3月10日 MONEY VOICE)のような、いわゆる「自粛疲れ」の風潮がネットを中心に拡がり始めていた。それは、⑥で挙げた首相による「2週間のイベント中止要請」のエンドが3月12日(火)にあたることもあったと思われるが、それに先立つ3月10日(日)の政府の緊急対策本部会議にて「イベント自粛10日程度延長 首相が要請」(日本経済新聞)となり、事態は長期化が確実な様相を見るに至った。
⑪ その後政府は、既にある「新型インフルエンザ等対策特別措置法(2012年可決成立)」を改正するための与野党間協議などを進め、3月13日(金)に「新型コロナ 改正特措法が成立 「緊急事態宣言」発令可能に(毎日新聞)」なったものの、経済活動自粛の「要請(行政による命令ではない)」までしか出来ない建て付けとなっている。
⑫ 3月30日(月)東京都小池都知事の記者会見の場において、『感染経路が不明な症例のうち夜間から早朝にかけて営業しているバー、そしてナイトクラブ、酒場など接客を伴います飲食業の場で感染したと疑われる事例が多発している』という発言があった。これによって、⑩で始まった流れに加えて更に強い営業自粛への同調圧力がかかり、飲食店の倒産廃業の懸念の声が高まってきた。
⑬ 政府は4月7日(火)の新型コロナウイルス感染症対策本部(第27回)の場において、4月7日(火)から5月6日(水)までの1ヶ月間を、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法第32条第1項の規定に基づく緊急事態宣言の期間とした。
⑭ この期間の決定を受けて、多くの企業も5月6日(水)を目処に営業自粛や営業時間短縮を行う事になった。また、図書館などの公的機関は5月10日(日)までを休業期間としたことから、現時点(2020年4月15日※)では、5月10日(日)までの間が、今回の営業自粛措置、とくに飲食店(だけではないが)に大きな影響を与える期間である、と定義できるものと考える。
※無論、今後の感染拡大の如何によってこの5月10日は、より長期化する可能性がある点は付記しておきます

2)業態ごとの影響度の違いの考察
サマリー)既にテイクアウト(以後T/Oと表記)である程度売上を上げてきた業態は、前年同月(YoY)並みもしくはYoYをプラスに持っていっている一方、夜の売上構成比の高い業態は大きなダメージを受けている。
①ファストフード(FFS/QSR) 元々T/Oの売上構成比が30%以上はあるFFSにおいては、今回の外出自粛は追い風になっている側面もあるが、細かく見れば立地によって異なる。FFSにおいてもT/O構成比が元々低い立地も存在するため、そういう店はYoYを落とすことになる。一方で、元々T/O売上の高い店舗では、従来からの顧客のみならず、新規のT/O需要を取り込めており、しかもそのT/O需要の単価はイートインよりも高いために、売上浮揚効果もあるためにYoYをプラスにしたものと思われる。
②ファストカジュアル(FCR)※ このカテゴリーは、恐らく、コロナ以前の宅配サービス(UBEReatsや出前館)に良く適合していた業態であったが、今回の事態が追い風になったとは言いきれない。それは後述する"従来T/Oをやっていなかった業態/店が参入した"ことによる"希薄化"や"(新規参入者の)新奇性"に奪われたと言って良い。ただし、中長期的には、その元来持っている優位性(市場に適合した商品設計とパッケージング)と価格/コスト競争力で、今後の外食市場におけるT/O売上での主要プレイヤーになる。
※FCRの定義には諸説あるのだが、ざっくり言えばFFSとファミリーレストランの中間的な業態で、アメリカで言えばPei-Wei、Chipotle、Panela Breadのように、注文後に調理、そしてT/Oにも対応している業態(多くのFFSのように作り置きはしない)のことを言う。具体的にはCoCo壱番屋、大戸屋、やよい軒、てんや、かつやなどがこれに該当すると考えて良い。
③ファミリーレストラン(FR) このカテゴリーでは、以前から自社リソースによる宅配に取り組んでおり、FCRとも競合する状況にあったが、 FCRと比べて商品にエッジが効いていない為に「積極的選択肢」になり得ていない点が弱点である。それは元々「何でもある」メニュー構成であることから、核商品(ココで食べるならコレ、というような商品)が無いことがマイナスに働く面がある。ただし、このカテゴリーの中では、サイゼリヤはイタリア料理に特化していること、及びマーチャンダイズ力(原料調達、商品開発、現場へのオペレーション定着)がずば抜けて強力であり、ここが市場適合した時には圧倒的な強みを見せる筈である。
④カジュアルダイニング(CD) このカテゴリーは、様々な料理バラエティがあるために、今回のような一斉に巣籠もりしたような状態の当初は、大変目を惹きつける魅力があるが、後述するように、元来出来立てを提供するような商品設計である為に、顧客の手元に届いた段階では「オリジン東秀」や「ほっともっと」に劣る品質になっているケースもあること、および、その単価の高さからリピートに繋がらないことから、片手間にT/O販売構成比を高めるのは難しい。それに加えて後述⑤も同様に、客席を回す為に抱えているホール人材が収益に寄与しなくなることになる為に、T/O販売構成比が高まると、ホール人材を抱え続けられなくなる。
⑤ファインダイニング(FD) FDは、商品だけではなく、客席での上質なサービスとセットでないと商品単価や客単価が正当化出来ない為、今の局面では、最も厳しいカテゴリーとなる。ただし、具備している高い調理技術により商品を市場に適合させる力はある。ネックは④でも書いたホール人材の収益化策の不在、及び、自ずと高くなるであろう商品単価による市場規模の(相対的な)小ささである。望みがあるとすれば、今回の事態が"市場に強要する変容"が、T/Oのファインダイニング市場(かつてのデパートなどのケータリングの拡大版?)が形成されるか?にかかっている。

次回の『外食市場はどうなるのか?(2/2)~新たなウイルスが強要する変容の行方を考える』で、もう少し深堀りした論考を加えてみます(4月17日公開予定です)。


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