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少数精鋭の組織論:極私的読後感(17)

フレンチを知る人は三田の名店「コート・ドール」のオーナーシェフ、斉須正雄さんのことをご存知だろう。本書の著者が、斉須シェフだ。

私は仕事絡みで2度ほど行っただけだが、やはりとても印象深い店だった。地味に美味しく、メインにピークの美味しさがやってくる(コースの一品一品それぞれに抑揚がある、とでも言おうか)のだ。

そして、私達の真後ろで会話や表情を見ながら作っているんではないか、と思う程、すべてがぴったりしている店なのだ。

「あそこは鴨が旨いよ」とか、そういう言葉で良い店は伝えられるが、「コート・ドール」に、それはあて嵌まらない。そう、「すべてが」なのだ。

この本に書かれている事は、良くも悪くも平凡な事である。しかし、レストランの世界、特に裏方(キッチン)では、平凡で地味な作業の繰り返しが殆どなのだ。そして、その尊さを斉須シェフは誰よりも理解しているのだと思う。

斉須シェフの、前線指揮官(「調理場という戦場」という本も上梓されている)として守るべき節度と原則を枉げない心・・・。この本からは、そういう「たおやかな男気」が漂ってくる。

ぼくは、社会にはじめて出た時の理不尽さや悔しさが、ものを考える下敷きになっているところがあるので、何としてでも、自分のお店では自分の正義を実現させていたいなと考えています。方針は単純です。外圧にめげずに自分の足で立って、自分の手で作って、それで暮らしをまかなっていく。そういう当然のことが実現できる職場で働きたかったのです。

なんという勁(つよ)さだろう。そして、それを支える感性の、なんとたおやかなことか。

単にレストラン関係の人だけでなく、掛け値なしに「少数精鋭の組織論」として成立する実のある一冊だ。

又、行きたいなと思う。


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