最高のお米に出会い、おむすびを毎日結ぶことで見えてきた、ちょっと前向きな話
おむすびが人を幸せにしてくれると、割と本気で思っている
前回のnoteでは、米屋が獲得した4つの能力の一つ、
「レシピに合わせて米のオーダーメードができる」の概要をお話しました。
本日は、弊社謹製パターンオーダーのブレンド米「こめりえシリーズ」の中でも、
特に人気が高いおむすびに合うお米、「結び米(むすび米)」についてお話したいと思います。
まずはいわゆる一つ、コシヒカリのお話を
コシヒカリはとても美味しいお米です。私も大好きです。
ただ、それがどんな料理にも合うか、というとそうではありません。
私たちがお米に託している役割は、
お米をつかった料理が最高に美味しくなることです。
コシヒカリがとても美味しいお米の品種であることは間違いないのですが、
その特徴である強い粘りが、例えばお寿司を握るときには弱点になることもあります。
また、いわゆる親子丼、海鮮丼などの丼物やカレーライスには米の粘りが、
タレやルーを絡ませることを邪魔してしまいます。
おむすびも同じです。
比較的やわらかく粘りのあるコシヒカリでおむすびを強く握ってしまうと、
米粒が潰れてしまい、大げさに言えば団子のようなおむすびになることがあります。
「それではおむすびにコシヒカリは良くないの?? 」
とコシヒカリのファンから怒られてしまうかも知れませんが、
決してそういうわけではありません。
お米それぞれの特徴をきちんと理解した上で、その特徴が料理をより引き立てられるように一手間を加えるブレンド技術があれば大丈夫なのです。
このブレンド技術をつかって最高に美味しいおむすびを作るために開発されたのが、おむすびのためのお米「結び米」です。
結び米は、普段どおりの水加減、普段どおりの炊き方で、
誰でも簡単に美味しいおむすびが作れるお米です。
しかし、この結び米、とあるお米と出逢えてなければ生まれていなかったのです。
食べた人の記憶にずっと残り続けるお米「門前米」の話
美味しいおむすびとは、強くにぎっても米粒が潰れず、
つぶつぶ感がちゃんと残っていること。
それは食感が硬いという意味ではありません。口の中に入れたときに一粒一粒を噛みしめながら食べることができ、口の中にお米の甘味が広がる、と言うことです。
そして時間がたって冷めた状態でも、その美味しさが変わらないことです。
その美味しさを実現させるために、結び米は2種類のお米をブレンドしています。
・石川県の能登門前町で育てられた「コシヒカリ」
・山形県の内陸で育てられた「ひとめぼれ」
南北に長い形をした石川県。
北部を能登地方、南部を加賀地方とわけることができます。
実は、同じコシヒカリでも産地・地域によって味が違います。
コシヒカリの特徴である甘味がより強いのは、能登のコシヒカリです。
その特徴は、「あえの風」という能登半島を吹き抜ける風です。
海水に含まれたミネラルをあえの風が田んぼへ運んでくれるのです。
塩分を含んだ風が稲穂に吹きつけられることによって、お米は甘くなろうと成長していきます。さらには、都市開発がされていない、
昔ながらの原風景がのこる水田の肥沃な土壌も大きな特徴です。
「能登はやさしや土までも」と言われ、
肥料がなくてもお米が育つとさえ言われています。まさにコシヒカリを育てるためには最適な場所です。
しかし、地理的に恵まれているだけでは最高に美味しい結び米のコシヒカリにはなりません。
ある、素敵な農家さんとの出会いからそれは始まった
米づくりにとって一番大切なこと。
それは、お米を作っていただいている農家さんです。
結び米に使用されているコシヒカリは、能登門前町の岩井さんのコシヒカリでなくてはならないのです。
岩井さんはある日、いきなり飛び込みで米屋(当社)にやってきました。
当社が能登のお米を扱っていることをネットで調べて、
自分も能登でお米をつくっているから取り扱いを検討してほしいとのことでした。
お米の卸売業をしていると、農家さんからお米を買ってほしいというお声がけをよくいただきます。
ただ、みなさんに共通しているのは、
自分が作ったからには美味しくないわけがない、美味しいから買ってくれと、
良く言えば物怖じしない純粋で真っ直ぐであり、
悪く言えば少し強引で向こう見ずな性格の方が多い、というところ。
もちろん、美味しいお米を作る、
ということに信念を注ぐ農家さん全てを私はリスペクトしていますが、
その思いの強さが故に、でしょうか。
営業や交渉と言う観点で言えば「少し尖りすぎ」な印象の方が多いのが農家さんの特徴であったりします。
しかし岩井さんは違いました。
まず驚いたのは、きちっとした清潔な身なりでいらっしゃったことです。
(これ当たり前のようでいて実は珍しいのです)
応接室にご案内をして、ソファに座っていただきました。
「気に入ってくれるかわからないけど・・・。」
と岩井さんは静かに語り出しました。
一生懸命作ったお米であること。
米づくりのこだわりや地域のこと。
田んぼのこと。
とにかく水がいい場所であること。
などなど...。
決してお話ぶりは流暢ではありませんでしたが、
とても丁寧で、とても熱く、そしてとても優しく、
お米の魅力をたくさん語ってくださったのです。
最後にゴソゴソとカバンの中に手をいれると、
試食用のサンプル米を一つ遠慮がちに取り出し、机の上に置きました。
そして、最後に少しもじもじしたように、
照れ臭そうに、
「一度田んぼを…見に来てほしい…。」
とポツリと言い残すと帰って行きました。
岩井さんが去った後の応接に、
何だか能登の温もりが残っているような感じがしました。
かつて味わったことのない驚きの美味しさ
早速いただいたサンプル米を試食させていただきました。
「うますぎる(驚き)」
なんとも言えない甘みと、遠慮がちな粘り気。
岩井さんのお人柄をそのまま表現したようなお米でした。
いったいこのお米はどのような田んぼで作られているのか、とても興味がわきました。
気づいた時には門前町に車を走らせていました。
「よく来てくれた。」と、
突然の訪問にも関わらず、ご夫婦で温かく迎い入れてくださいました。
さっそく田んぼを案内していただいたのですが、
驚いたのはその時の一言です。
「この棚田の一枚を全部魚住さんのために作る」
と一つの棚田を指差しながら言われたのです。
「いくつか所有している田んぼの中でも、特にお米が美味しくできる田んぼがある」と話してくれていたことを思い出しました。
それを自分のために、と言われたことがあまりにも嬉しすぎて、
その時のことは正直あまり覚えていません。
美味しさの秘密が田んぼ以外のところにあった
そして、次に案内してくれたのが、山奥にあるため池です。
田んぼがある集落の生活用水として、そして田んぼもその「ため池の水」が守ってくれています。
何千年も枯渇したことがない、まさに神様が宿ったため池です。
そのため池を見た時に、はっと気づきました。
「これか・・・。」
土の栄養分を沢山吸って育つお米が、毎年ちゃんと育つのは、
水が土に栄養分を与えてくれるからです。
だから「水田」と言われているにはきちんと意味があるのです。
それだけ水という存在は米づくりには欠かせない重要なものなのです。
そして、何千年も枯渇していないため池の水ということは、自然界で作られたミネラルが豊富に蓄積された水ということにもなります。
(実際のため池の写真です)
決して絶やしてはいけない大地の恵み
この場所で作られたお米を、世の中のお米ファンに伝えないわけにはいかない
と、その場で米づくりをお願いしました。
岩井さんは、「米づくりは自然との戦いだから、美味しくできない時もあるかもしれない。でも精一杯作ります。」と謙虚に仰いました。
お米の味は、作り手の人柄がのりうつると言われています。
もしかしたらそれが一番大切なのかもしれません。
今年の秋で6年目を迎えますが、毎年安定した美味しいコシヒカリをつくっていただいています。
本気で「おむすび」専用のお米を作ると決めた
しかしながら、おむすび専用「結び米」となれば、
冷静に、厳しくお米の状態を客観的にみなければいけません。
それが米サラブレッド・ブレンダーである米師ウオズミの使命です。
先程も申し上げたように、コシヒカリだけでは、最高に美味しいおむすびはできません。
ましてや最高に美味しい岩井さんのコシヒカリの特徴をさらに引き立てるためには、その相棒がどうしても必要になるわけです。
水谷豊だけで「相棒」は成り立たないのです。
そこで登場するのが、山形県産の内陸のひとめぼれです。
ひとめぼれは、東北地方を中心に作られており、
今では全国でコシヒカリに次ぎ2番目に多くつくられているお米です。
ササニシキの後継品種として宮城県で誕生し、
コシヒカリと初星というお米を両親にもつお米です。
コシヒカリの血を受け継いだわけですから、食味は抜群です。
柔らかく、もっちりしたお米ということで人気があります。
しかし、それではコシヒカリと一緒ではないか?
ブレンドする意味があるのか?
と疑問に思われるかもしれませんが、そこが米屋の米腕の見せどころです。
お米は、例え同じ品種であっても、
産地によってお米の食感が違うことは先にお話いたしました。
ひとめぼれについても全く同じことが言えます。
岩井さんのコシヒカリと相性がいいお米は、さらに甘味を引き立たせ、柔らかさや粘りを調整してくれるお米が必要だと考えていました。
そのためできるだけ米粒の質感が硬めのお米がいいということはわかっていました。
ただ、単に硬ければいいというわけではなく、
時間がたったときにも炊き上がりの硬さが変わらない(コシヒカリは硬くなりやすい)、そしてコシヒカリに負けない甘味がちゃんとあるお米でなければいけません。
その条件を満たしてくれたのが、山形県の内陸で育ったひとめぼれだったのです。
お米をブレンドするためには、品種の特徴だけを理解していてもうまくいきません。
産地や生産者によって、お米の特徴が全然違うということを前提に持ちながら、
それを理解した上で素材を吟味しなければいけないということです。
さらには、収穫された年によってもその特徴が変わるということも理解しなければいけません。
だからこそ、収穫された年によって品質のばらつきが少ない産地はどこなのかという長年の経験で養われた「産地の背景や生産コンディション・リソース」を加味した、
米そのもの、だけではなく水、風、田んぼ、農家、など米にまつわる全ての事柄への目利きの力が必要になるということになります。
おむすびは様々なものを「結ぶ」究極のレシピ
裏を返せば、
一度、これだ、と決めた産地、生産者の魅力をみなさまにお届けすることこそが、私の役目であります。
そして産地の想いとお米を食べてくれる人を結ぶために作られたお米が、
特におむすびに合うブレンド米「結び米」です。
おむすびはお米の味や食感を最もダイレクトに伝えてくれる、
お米にとってのある意味究極のレシピです。
結ぶ人の思いも伝わる、冷めても美味しい、温かな「料理」なのです。
お米を作ってくれた農家さん、最高に美味しいおむすびを作ってくれた家族や仲間への感謝の気持ちが結ばれるお米であってほしいと願っています。
そして70歳の親父が毎日おむすびを結ぶことになる
この究極のおむすび専用米「結び米」の完成と私の誕生日(6月7日)がほぼ重なったのは偶然でしょうか。
その日、父が私の誕生日祝いがてらに結び米で「おむすび」を結んでくれました。
なんと、まあ、
そのおむすびの美味しかったこと!!
本当に涙が出るほどに美味しくて、
「お父さん、これ、とんでもないよ!美味しすぎるよ!」
「ありがとう!」
と言う言葉は自然と口から溢れ出てきました。
その時父は何も言いませんでしたが、
そんな息子の顔から何かを感じ取ったのかも知れません。
それ以来です。
今年で丸6年になりました。
毎日、毎日、今年70歳の私の父は自分の手で「おむすび」を結んでくれます。
あまりにも美味しいので、
数量限定にはなりますが、野々市の会社でも販売をしています。
手で一つ一つ結んでいますし、できる数も少ないです。
決して儲かるものではありません。
でも、「これは続けたい」と父はいいます。
生涯米屋である父が「伝えたいこと」がこのおむすびにはあるってことが、
自分も今の年になって少しわかるような気がします。
私はおむすびを食べると単純に「頑張ろう」って思えます。
今、世界中で吹き荒れている感染症禍は、
私たちの商売にもダイレクトで大きな影響があります。
正直、挫けそうになることたくさんあります。
それでも自粛期間中にこのnoteやTwitterを始めたのも、
お米で料理がもっと美味しくなることで、
今苦しんでいる飲食店の方や、自宅待機、テレワークで家食が増えているご家庭が少しでも明るくなるお手伝いができたら良いな、
とそう思えたからです。
そう思えたのは父の結ぶおむすびを食べたからです。
父が毎日、毎日休まずおむすびを握る動画です。
よろしければご覧ください。
是非、皆様もご自宅でおむすびを結んでみてください。
何か素敵なイメージが湧くかも知れません。
何か前向きになれるかも知れません。
そんなことを朧げに考えながら、
今日も米のことを考えています。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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