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超短編小説 028

『夏休みの自由研究』

上中里 京太くんは、小学校4年生、とっても本が大好きな男の子。

夏休みの自由研究は、「物語における選択型エンディングの可能性について」というものだった。

『僕は本を読む事が大好きです。お母さんとお父さんに読んでもらった本を含めると1500冊は今まで読んできました。一番好きな本は冒険ものですが、推理小説も大好きです。読んだ本に出てくる、物や場所をもっと知りたくなり更に本を読んで調べることが楽しくて仕方ありません。

最近では、本の終わり方が、こうだったら楽しいのになぁと思う事があるので、自分で物語を作ってみたいと思います。今回は最後のエンディングを、2パターン用意して読者に選んでもらおうかと思います。それでは、いざ物語の泉にどっぷりとつかってください。』

『両太もも(ふともも)探偵の事件簿』

両太もも探偵アップ

2019年、「週刊プライデー」に印刷会社社長の不倫記事が掲載された。
誰もが知っている会社の代表による、長期間の関係であることと、相手も既婚者であるという不倫内容に、世間の風当たりは強かった。

掲載後から半月後、社長は自殺した。事実無根であるという遺言を残して。

しかし、メディアや世間の批判の風は弱まることなく激しさを増すばかりであった。無責任=有罪であるという論調が広がっていった。

そんなさなか、わたくしの「両太もも探偵事務所」に、ある男がやってきた。呼び鈴が鳴ると、わたくしは、両太ももの形をした顔に、筒状の黒タイツをかぶりドアを開けた。わたくしは、元警視庁捜査一課で名を残し、今は政治事件を主に扱う覆面探偵である。

ドアを開けるとそこには、半沢田君が立っていた。

「お久しぶりです、両太ももさん」

「お久しぶりです、半沢田君、そろそろ来る頃かと思いましたよ」

「さすが、両太ももさん、すべてお見通しでしたか」

半沢田君は都市銀行の融資課の課長である。わたくしと同郷で大学の後輩だ。半沢田君の銀行は、世間を騒がせている印刷会社、凹版印刷株式会社の取引銀行であり、大株主でもある。

「両太ももさん、実は凹版印刷の金野子社長の件ですが、どうやら東京オリンピックの印刷利権が絡んだ、日本大印刷と社内リーク者の仕業による事件らしいです。凹版印刷は今回の件でバッシングの嵐にさらされた挙句、オリンピックスポンサー契約を解除されています。それに、週刊誌に載った写真は、印刷業界の会合の後、日本大印刷の人間と料亭に行った際に、たまたま隣になった女将との写真なんです、切り取られた写真の両隣には、本当は他の役員も写っているんです。何よりも金野子社長は、ご家族を大切にして、とても奥様を愛していらっしゃる誠実な方でした。もしかしたら、自殺ではなくて殺されたのかもしれません。」

半沢田君は一呼吸おいてまた喋り始めた
「両太ももさん、お願いです金野子社長の無実を晴らしてください。うちの銀行としても大打撃をくらって大変なんです。」

「半沢田君、本音が出ましたね。ですが、いいでしょう、この事件、解決してあげましょう。じつは、その写真、わたくしが撮ったのです。まさかこんな使われ方をするとはね。」

「ええっ」とのけぞる半沢田君。
半沢田君の驚く顔は、わたくしの大好物である。

「仕事の決まり事ゆえ、本人のいないところで情報を漏らすことはできません、さっそく黒幕の所へ行きましょう。」

タクシーを降りると、さっそくわたくしの大好物を拝見することができた。

「両太ももさん、ここはっ。金野子社長のご自宅じゃないですかっ。なんで?」

明日の葬儀の準備のため門は開かれていたが、呼び鈴を鳴らすと喪主である奥様の金野子美千代が対応してくれた。
客室に案内してもらい、奥様の向かい側にわたくしと半沢田君の3人でソファーに座った。

「お久しぶりでございます。奥様、この度はお悔やみを申し上げます。」
わたくしと同時に半沢田君も会釈をした。

「奥様と両太ももさんがお知り合いだったとは、驚きました。」
半沢田君が言う。

女中が紅茶と茶菓子を丁寧に運んでくれた。

「明日の葬儀の用意で、立て込んでおりまして、申し訳ございません。手短でお願いいたします。」

わたくしは軽くうなずき話を始めた
「それでは、さっそくですが、今回のご主人を死に至らしめた騒動、いや事件の真相をお聞かせ願います。」

「探偵さん、主人がいなくなり、真相が闇の中となってしましました。私も何を信じてよいのか分からずに今に至っております。会社の内部調査によると、主人の失脚を狙う人間が不倫をリークして、しかも日本大印刷と繋がっていた、なんてことも耳に入ってまいりました。子供たちも同じくショックを受けております。私からお話しできることは何もございません。」

わたくしは間を置かず聞いた
「奥様、週刊誌にリークなさったのは、奥様ではございませんか?奥様が数カ月前にわたくしの探偵事務所に<ご主人の浮気調査>を依頼なさり、わたくしが提出した報告書に添付した写真のうちの一枚が週刊誌に掲載された写真と同様のものでした。」

半沢田君は言葉もなく驚いている。

「探偵さん、ひどいことをおっしゃいますね。確かに似ている写真はあったかもしれませんが、同じ写真を他の誰かが撮っていてもおかしくないですよね。私がリークして何になるというのでしょうか。」

「奥様、わたくし両太ももには信念がございます、

それは「依頼人を知らずして、依頼内容を満たすことはできない」です。
つまり、わたくしは奥様のことも同時に調べておりました。
ご主人は仕事にも家庭にも奥様にも熱心な愛情深い方でした。もちろん不倫などの行為はございませんでした。どうしてそんなご主人の不倫調査を依頼したのだろうか?疑問だったのです。しかし、奥様、あなたを調べていくうちにわかったのです。不倫をしていたのは、奥様でした、しかも日本大印刷の社長と。」

金野子美千代は何も言えずに黙っている。わたくしは続けた
「ご主人は、本当に奥様を愛しておりました。そして、奥様の不倫のことも知っていました。あの料亭でご主人は日本大印刷の社長と二人だけの時間を作っています。そして日本大印刷の社長に奥様との関係を終わらせてほしいと頭を下げていたのです。それも一度や二度ではないそうです。このことは不倫相手と疑われていた女将が話してくれました。」

半沢田君は泣いていた、声を出さずうつむきながら泣いていた。

金野子美千代は、手つかずの紅茶カップを睨みながらつぶやくように話し始めた。「だから、あの人が別れたいって言い始めたんだ。あいつ(主人)が余計な事をするから。私の大切なものを奪おうとするから、あいつの大切なものを奪って、もう余計な口出しができないようにしてやりたいと思って、偽情報をリークしたんだよ。失脚させて別れてやろうと思ったんだよ。死ぬとは思ってなかったけれどね。」
「でもね、私がどんな人間であろうと、真相は闇の中なんだよ、探偵さん。私の不倫が世間にバレても、「主人の不貞行為がつらかった」って言えばそれですむこと。
今更、真相も何もない。凹版印刷の社長は不倫の疑いで会社にも家族にも迷惑かけて、自責の念に駆られて自殺した。それでお終いでしょう?」

わたくしは一枚の写真を取り出しテーブルに置いた
「奥様、それほど不倫相手を愛してしまったのですね、悪魔に心を売ってでも彼のことが大切だったんですね。この写真を見てください。あなたが日本大印刷の社長とふたりの愛の巣であるマンションに入っていく写真です。二人とも笑顔で手には高級ワインを持っている。撮影日は、ご主人が自殺する2日前です。金野子社長が苦悩して憔悴しきっているときに、あなたはこの有様だ。世間になんて説明するんですか。」
「この写真と、女将の証言があれば世間の風向きも変わるでしょう。そしてあなたは終わる。おそらく日本大印刷の社長も。」

わたくしは続けた、
「ご主人は、奥様が公表した「会社社員への遺言」と別に、「奥様に宛てた遺言」の2通用意してあったと、警視庁の仲間から聞いております。それを公表してください。奥様を愛していたご主人の遺言におそらく奥様への怒りは無いでしょう、あなたを貶める言葉は無いはずです。
しかし、無実を知らしめる言葉がそこに有ると思います。ですから世間に公表して、遺言と奥様の言葉で無実を証明してあげてください。」

わたくしは、被っていた筒状の黒タイツをあごの下まで下ろし絶対領域を露わにして、さらに話を続けた、「金野子美千代、あなたは被害者でもあるのです。幼少期から母子家庭で育ち母親の極度の偏愛に応えてきたあなたは、人生の選択のすべてを母親に捧げ、自分自身を殺して生きてきた。そんなあなたは、愛されれば愛されるほど、その愛がプレッシャーになり、挙句の果てには相手を憎み、他者に依存しなくては心のバランスが取れなくなってしまったのです。あなたにとって愛は凶器でしかなかった。ご主人の愛に潰されないように、一生懸命、偽って生きてきたんですね。不倫相手という逃げ場を作ってまで。」

とうとう、金野子美千代は声をあげて泣き崩れた。

わたくしは大きく深呼吸をしてから言いました、
「80デニールのタイツ越しでも、わたくしには、すべてお見通しですよ。」

両太もも探偵全身

決め言葉の後、さらにわたくしは続けた、
「奥様、あなたを苦しめる愛はもう、なくなりました。どうか自由になってください。」

放心状態の半沢田君を連れて、わたくし達は、部屋を後にした。

数日後、メディアは一斉に金野子社長のもう一つの遺言の内容を取上げた。
遺書の内容は、妻を幸せにしてあげられなかったことへの謝罪とこれからの幸せを願う、妻への思いを綴った愛の手紙であった。
世間の風向きは変わった。金野子社長の功績を称え、家族との愛に満ちた日々の思い出に人々は感動し、多くの花束が玄関先に捧げられた。

あれから、一週間後。

「醜聞は広がり易く、消えにくいですが、美談は花火の如し、あっという間に消えてしまうのですね。」わたくしは新聞を読みながら、そうつぶやいて、

(  エンディングを選択してください。

A、大好きなプリンを一口食べた。

B、あっついコーヒーを一口飲んだ。

(Aを選択↓)
大好きなプリンを一口食べた。新聞の株式欄には、うなぎ登りで復活した凹版印刷の株価に印が付けてある。「半沢田君からの事件解決の報酬は無いが、株の利益で良しとしましょう。」と独り言を言って、窓越しに初夏の空へ目をやった。

(Bを選択↓)
あっついコーヒーを一口飲んだ。そしてふと、デスクに置いてある写真に目をやる。わたくしと妻と赤ちゃんの三人が写った写真。わたくしに家族がいた頃の遠い昔の写真。子供の名前は「美千代」。美千代にわたくしの記憶は無いが、わたくしはずっと美千代を見守っていた。ふたりの再開がこんな形になるとは思わなかった。「どうか幸せになってくれ」とわたくしはつぶやいて、写真の美千代を人差し指で優しく撫でた。


『物語はいかがでしたか?どっぷりとつかってもらえましたか?クラスのみんながどのエンディングを選んだか一緒に配る表に〇してください。よろしくおねがいします。上中里 京太』

京太くん渾身の物語は、残念ながらクラスのお友達にはあまり理解してもらえませんでした。小学校4年生にはちょっと難しかったのかなぁ。がっくりと、うなだれているいる京太くんも、ポカンとしているお友達もなんだか可愛いですね。

結果は、プリンが好きだからという理由で「A」のほうが多かったそうです。


《最後まで読んで下さり有難うございます。いろいろな悪ふざけが目に余りますが、ギャグ小説だと思って、やさしい目で楽しんで頂けたら幸いです。ごめんなさい。》

僕の行動原理はネガティブなものが多く、だからアウトプットする物も暗いものが多いいです。それでも「いいね」やコメントを頂けるだけで幸せです。力になります。本当に有難うございます。