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『切り取られた美談』

『切り取られた美談』【超短編小説 065】

皆さんは「桃太郎」というお話をご存知だろうか?有名な昔話なので知らない人はいないと思う。その「桃太郎」にまつわる新しい事実が発見されたのでお伝えしよう。

まず「桃太郎」についてざっくり説明すると、川上から流れてきた桃を拾って家でお爺さんとお婆さんがその桃を割ると中から男の赤ん坊が出てきて、桃太郎と名付ける。大きくなった桃太郎はきび団子を持って鬼ヶ島にキジとイヌとサルを従えて鬼退治に行き、鬼を懲らしめて宝物を持って帰るというお話。

概ねこの話は事実である。しかし大事なことが今回の発見で明らかになった。実は川から桃が流れて来たのは特定の一箇所だけではなく、日本全国にあるおよそ3万本の川で流れて来ていたことが新たに分かったのである。

日本全国で同時多発的に流れて来た桃は、すべてに男の赤ん坊が入っていて、すべての子がすくすく育ち、そしてすべての子がキジとイヌとサルを従えて鬼ヶ島に向かった。

一方、鬼ヶ島には数百人の島民である鬼たちが住んでいた。そこへおよそ3万人の桃太郎と3万羽のキジと3万頭のイヌと3万匹のサルが押し寄せて鬼たちを一網打尽にしたのである。

数の差で圧倒的に不利であると早々に気が付いた鬼の大将は桃太郎たちが上陸する前に白旗を上げていたが、桃太郎たちは勢いを止めることなく鬼たちをコテンパンに打ち負かす。鬼の中にはその時の恐怖でトラウマになり精神を病んでしまった鬼もいた。

鬼を倒した桃太郎たちは、今度は宝の奪い合いを始めて、桃太郎同士で揉めていたらしい。

実際は多数の桃太郎達が正義の名のもとに少数の鬼達を必要以上に懲らしめて、宝物を奪った。というお話だったのだ。

今、みんなが知っている「桃太郎」のお話は、この真実の話の一部分を切り取って美談にしたのである。

切り取られたワンシーンに夢中になっていると、視界から外れた世界で起きている真実に気付かない事があるから、気を付けよう。

鬼が島01

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