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超短編小説 029

『Bacteria』

私達はとても非力な存在でした。生まれた環境に育ちそこで死ぬだけの存在でした。

しかし私達には高度な知識があったので、私達が生活している環境の外に、もっと広い世界があることを知っていました。

外の世界を知る為に私達は移動する事を決めました。まずは自然界にある無機物を加工して乗り物を作りました。今までと比べると飛躍的に移動できて、世界が広がったのですが、外側の世界はもっともっと広いのでした。

次に私達は巨大な建造物を外の世界に作って、そこで生活したり移動したりしましたが、やはり外の世界はまだまだ大きかったのです。無限の彼方への移動は一世代で成せる業ではありませんでした。

移動の為の乗り物を、無機物で作っていては、やれることには限界があることを知った私達は、持続してエネルギーを作り出せて、私達と近い知識を搭載した乗り物を有機物で作りました。有機物であったので、強度と鮮度が必要になりました。

その乗り物は自らエネルギーの素を補給して、腐らないように摂取した養分を乗り物全体に届かせるポンプを付けて隅々まで配管を張りめぐらました。補給した物を吸収するシステムと、養分以外の毒素を分解するシステム、不用物を排出するシステムも取り付けました。

この世界はエネルギーにもなり毒にもなる物質に覆われているので、その物質を取り込むシステムと、それぞれのシステムを繋ぐ司令塔を作りました。司令塔の近くに、外の様子をうかがえるカメラを2基と集音器を2基、スピーカー1基、世界を覆っている物質の取込みと排出が可能なシステムを1基取り付けました。

司令塔は頑丈なカバーで覆い、カバーと同じ材料で乗り物の支えを組み立てました。そして、その支えの周りに動く為に必要な、伸び縮みする器官を貼り付けて、その上を中身を守る組織と外皮で覆いました。

この乗り物の凄いところは自ら成長して、乗り物同士による繁殖もできる事です。ですから私達も乗り物から降りることなく繁栄していくことが出来るのです。

この様々なシステムを備えた、一体型の乗り物の最高傑作が、私達バクテリアが生み出した“人間”という有機体なのです。


【あとがき】
この物語を読んで頂き有難うございます。

『人間が“作られた物”だとしたら一体誰が作ったのだろうか』と考えた時、1番最初に浮かんだのは、神、宇宙人など、自分たちより大きな未知の存在でした。しかし、実は既存の小さな存在に作られていたとしてもおかしく無いのではないかと考えた時、人間のプライドがそれを受け入れるのは難しいであろうと思いながら、物語を作りました。

また、人間の意識や自我の発生についてはまだまだ研究段階ですが、意識や自我が何者かにコントロールされている可能性は十分あり、それは、やはり人間を作った存在の仕業だと考えるとまた受け入れ難いが面白い仮説であると思いました。

この物語に登場する“私達”はバクテリア(細菌)です。胎児にも腸内細菌が存在するという研究もなされていますが、人間と細菌の関係はとても面白いのです。人間の体を構成する細胞は数十兆ほどに対して、体内に生息している細菌の細胞数は100兆を超えるといわれています。もはや人間と細菌の優位順位は、人間の持っているイメージと逆なのです。

生物分類においても細菌界と動物界に分けられており、読んで字の如く人間は“動く物”勝手な解釈ですが“移動する物”なのです。細菌の乗り物として作られたと考えることもできます。細菌の歴史も古く、細菌の存在が今の地球環境を作ったのです。

人間は他の生物の、特に脳を有しない生物に対して高度な知識、意識の存在を認めることは無いでしょう。しかし細菌が意志を持って細菌同士で手を取り合えば、人間を作ること、人間を進化させることは可能なのではないでしょうか。

目をつぶって感じてみて下さい。
自分の体の中の100兆個の声を。意識を。

そして、この物語がノンフィクションなのかフィクションなのかは、あなたに決めて頂きたい。

宜しくお願い致します。

※決してすぐに細菌の画像を検索しないで下さい。なんだか気分が悪くなります。

《最後まで読んで下さり有難うございます。》

僕の行動原理はネガティブなものが多く、だからアウトプットする物も暗いものが多いいです。それでも「いいね」やコメントを頂けるだけで幸せです。力になります。本当に有難うございます。