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一寸文學

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本
ふと撮った風景に、ふと生まれた物語を添えてみました。※この物語はフィクションです。登場する人物は架空であり、実在のものとは関係ありません。多少過激な表現もございますがお許しくださ… もっと読む
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涙の跡

「ここにいて」と私がどんなに望んでも、勝手に日は沈み、勝手に日は昇る。隠れている間に何をしていたのかなんて、誰も問い詰めたりはしない。「きっと、他の誰かを照らしていたんでしょ」って、当たり前のように受け入れている。再び、あなたが顔を見せて朝が来る。多くの人はその光を浴びて喜ぶけれど、私は違った。「汚らわしい」「あなたの顔など二度と見たくなかった」それでも勝手にあなたは私の頬を照らす。ひと筋の涙が跡になる。
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一寸文學　「変わらないもの」

“私が波打ち際に立てば必ず海は私の足元に戯れてくる。「可愛い奴め」”早苗は押し寄せては引いて行く波に向かって呟いた。子供の頃は波のような変わらない繰り返しが好きだった。安心感を与えてくれた。しかし今は同じことの繰り返しの毎日に辟易していた。“波も私と同じ気持ちだったら切ないな。”早苗は寂しい気持ちになった、なぜなら波と早苗は同じでは無いと知っていたからである。波は変わらないものである。だが、自分はただ、変われないだけだったのだ。変わりたくても変わる勇気が無くて仕方なく変わらないものになっていたのである。
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一寸文學「歴史を刻むもの」

歴史を刻むものとは何だろう。光太郎は考えた。この巨大な廃墟は、かつて宿舎だった木造の建物。いずれ解体されたら跡形もなくなり、人々の記憶から消えてしまえば無になる。そして歴史から消えるのだろう。人間には墓がある。墓石に刻まれた名前が生きた証となる。しかし墓石に刻まれた名前だけでは自分が何者なのかは分からない。人生のストーリーは残らないのだ。巨大でなくてもいい、小さくても自分の歴史を残したいと光太郎は思った。
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『宗一』回想録

いつも『一寸文學』をご覧いただき誠に有難うございます。感謝です。今回は登場人物『宗一』の回想録となっております。もし、まだご覧になっておられない方はこちらからどうぞ　→　『一寸文學　其ノ壱』

宗一は苦しみに蓋をするべきは“幸せな思い出”ではなく、“苦しみが生み出す感情や時間”であると考えていました。
宗一が自分をベランダから突き落とした母に精一杯手を伸ばしたのは、助けて欲しかったのでは無く、幼心

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『一寸文學』について（後編）

みなさま、こんにちは。
いつも『一寸文學』をご覧いただき誠に有難うございます。感謝です。
もし、まだご覧になっておられない方はこちらからどうぞ
→https://note.com/naohisa/m/m920f9ea14875

『一寸文學』の『宗一』『塔子』『真一』『耕太』『綾乃』の章が無事、
完結致しました。皆様いかがでしたでしょうか。

『一寸文學』について（前編）では、『一寸文學』が続きも

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一寸文學　其ノ十四

激しく形を変えながら流れる雲と、激流を乗り越えて今は穏やかに流れる川、そのふたつがひと筋の陽光に照らされて同じように輝いた刹那。その瞬間に自分達は同一なのだと存在の意味を理解してひとつになったのでした。耕太は松ぼっくりによる戦いに満足していた、相手に笑われて馬鹿にされたが、母の言いつけを守り、警察官である父の顔に泥を塗らずにすむのだ。はやく帰って母と父に今日の話をしたかった、この武勇伝を笑顔で褒めてくれるであろう塔子と宗一の姿を思い浮かべながら耕太は真っ直ぐに帰るのであった。雲ひとつない空の下を。
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一寸文學　其ノ十三

「一緒に暮らそう」宗一の告白は簡素であった。昼間の仕事に出かけるために駅に向かっていた塔子、信号待ちで背後からすっと横に並んだ直後の告白。塔子は不機嫌に言った「こんな空の日に縁起が悪いわ」ふたりは鱗雲が嫌いだった。ベランダから落とされて地面に打ち付けられ意識が無くなる寸前に見上げた空、高校生の時、血だらけの姿で警察署に連行される車の中から見た空、共に鱗雲だったのだ。「今日が最悪な空ならばこれ以下は無いよ」そう言うと宗一は塔子の手を優しく握りしめた。信号は青に変わり、鱗雲の隙間から陽の光が射し始めていた。
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一寸文學　其ノ十二

宗一は、だらしなく店のソファーに横になり自分の膝の上でただただ呼吸のみをしている綾乃に優しく説いた。本当の「苦しみ」とは解放される類のものでは無いのです。忘却と新しい記憶の上蓋でただ閉じ込められているだけなのですから、いずれどこからともなく滲み出て来る、言わば「来る滲み」と言うものなのです。この店でホステスとして働く綾乃に会った最初の時から宗一は綾乃のその滲みに気付いていた。また同じように綾乃も宗一のそれを感じていたのであった。「僕にはあなたの苦しみが必要なのです。塔子さん」宗一は綾乃の本名を口にした。
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一寸文學　其ノ十一

口紅が落ちたその膨らみの血の気の失せた白々しさはさも真実を今にも吐き出しそうに見えた。綾乃は言った、わたしは不安も悲しみも怒りも絶望も別々に感じることはない、それらはいつもひとつの塊となって心臓が口から出て来るような吐き気とともに爆発するのだと。その爆発により何人もの人間を殺しかけ、高校生の時に同級生の彼の背中をハサミで滅多刺しにした過去を告白した。愛されていたと感じていた父を失ったことと、酷く子供に無関心な母との生活で、美しい外面の下には人間に牙を剥く捨て猫がいるのだと宗一は悟った。
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一寸文學　其ノ十

宗一は4歳の時に養子になったのである。警察官の義父と優しい義母そして5つ違いの妹と４人で不自由無く育った。幸せを手に入れたのだと誰もが言ってくれるであろう、だがどうしても脳裏から剥がれることの無いものが、性を売って働く母との荒んだ生活と一人の寂しさと無理心中の際の母の狂気と恐怖であった。最後の母の姿は、宗一の肩に果物ナイフを突き刺し、ベランダから我が子を落とす母、放り出され、堕ちながら見た泣き叫ぶ母の姿だった。宗一は一生懸命手を伸ばした、それでも母の手を掴みたかったのである。母はそのあと焼身自殺をした。
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『一寸文學』について（前編）

みなさま、こんにちは。(。。)ｎ
いつも『一寸文學』をご覧いただき誠に有難うございます。感謝です。

創作以外での投稿は、初めてですので不思議と緊張いたしますが、
『一寸文學』の創作を進めていくにあたり、初めて経験したことを記録するとともに、ご覧くださっている皆様とこの記録を共有して『一寸文學』をより楽しんで頂ければと考え投稿いたしました。

それではさっそく、『一寸文學』のコンセプトは、「ふと撮

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一寸文學　其ノ九

塔子は決して男を愛する事ができなかったのではなく愛する事を許されなかっただけなのである。塔子の愛の形はいわゆる奇形である、しっかりとした構造は持たず日ごと時間ごとに形状を変え、ときには糧になりときには毒になりときには狂気となるので、そこらへんにいる人間には到底受け入れ難い愛であったのです。しかし積木のように重ねた男との関係を、一瞬で破壊してしまう塔子の狂気に最も苦しめられているのは塔子自身に他ならないのである。高校生で精神科に通いはじめた塔子は自分と自分の間で無限に膨らむ不安を抱えて生きているのであった。
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一寸文學　其ノ八

真一は自分の眼から流れた涙をまだ理解できてはいなかった。塔子の自分に対する依存と剥き出しの感情は異常だったのだ、それから身を守るために逃げたのに。私は精神科医で塔子の担当医だった、愛して助けて守ってやるはずが何もできなかった。自分を過信していたのだろう、理想を掲げても完全な形などありえなかったのだ。塔子は雲のように形や色を変え私を飲み込もうとしたのだ。私にとってそれは愛ではなく狂気でしかなかった。つまり私は自分の甘さに涙したのだった。
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一寸文學　其ノ七

離婚後、初めて実家に帰った。実家と言ってもわたしは住んだことのない居心地の悪い2LDKのマンション。母はどこかに出かける準備をしていて真一との離婚について何も無い、責めることも無ければ気遣う言葉も無い。昔からそうだった。父が家から出って行った時もわたしはひとりで不安と闘っていたのを思い出した。新しい住所と新しい職場の連絡先のメモを置いて塔子は静かに鉄の玄関ドアを開けて家を出た。錆びた音を立てながらゆっくりとドアが閉まる。