さとざき幸

SatozakiYuki. 絵とことば。 (現実と夢をはんぶんずつ織り交ぜています。)…

さとざき幸

SatozakiYuki. 絵とことば。 (現実と夢をはんぶんずつ織り交ぜています。) https://potofu.me/nothingblues

最近の記事

星空の話

イルミネーションが苦手だ。 それはたぶん、だいぶ昔からずっとそう。 小説や漫画にもよくある展開のひとつに、恋人たちがクリスマスにイルミネーションを見に行く、というものがある。そんな話を見るたび、うんうんそうね、と読み進めつつ、心の中ではちょっぴり違和感を覚えてしまう。 わたしなら、イルミネーションよりも夜景がいいし、夜景よりもずっとずっと、星が見たい。個人的な好みの問題だろうけれど。 満天の星を見たことがある。小学生の頃の話だ。 ある日帰宅したら、父が唐突に「星を見に

    • 冬の桜の話

      桜の木が好きだ。 花ではなく、葉でもさくらんぼでもなく、桜の木。 桜が好き、というのは、日本人として珍しくない。 でも、桜の木が好き、というひとは、あまり見ないような気がする。 元々、桜そのものも、人並みに好きだった。 咲けば歓声を上げたし、散れば悲しかった。門の横、学校の校庭の周り、川辺。桜は本当に身近な木だった。 高校生の頃、母と二人で車に乗って、大きな公園によく足を運んでいた。平日の昼間、人のいない広い公園を、飽きるまで散歩した。 その公園の、遠い丘の上に、木が並

      • 蜻蛉の羽の話

        こどもの頃、綺麗な羽を拾った。 虫の羽だ。 とんでもなく薄くって、力を込めずとも呆気なく割れてしまいそうなものだった。透き通った羽は虹色に光っていて、信じられないほど細かく緻密な網目模様をしていた。 それは、たぶん、とんぼの羽だった。(いや、もしかすると、蝉の羽だったのかもしれない。もうはっきりとは思い出せない) ほんとうに綺麗で、日に透かしたり、目に近づけて向こう側を覗いてみたりと、しばらく飽きずに眺めていた。形も欠けがなく、実に美しいものだった。機械的なラインには見

        • 駐車場と青空の話

          立体駐車場の、灰色の柱の向こうに、広い青空が見えていた。響いていた靴の音、乾いたコンクリートの香り。そんな景色ばかり、いくつも覚えている。 ――――― 人混みが怖くて、駅をまともに歩けなかった。 中学生の頃の話だ。 駅も繁華街もデパートも、あの頃はとても怖かった。 そうなる少し前から、中学校には行けなくなっていた。 なんとか行けた高校は、通信制だった。 平日にも時間があったから、よく母に連れられて、遠くのショッピングモールに行った。 1時間も車に乗るのに、買うのはく

          緑の窓の話

          窓が好きだ。 できれば、空と緑の見える窓。他はどんな景色でも構わないし、どんな方角を向いていてもいい。 いま暮らしている部屋は、建物の角に位置していて、2つの窓からは緑と空と街がよく見える。最近は、朝日が少しまぶしい。緑がどんどん、春から初夏へ向けて濃い色になっていく。毎日窓を開け放って、季節と光をたっぷり味わう。 前に住んでいた部屋は、同じように角だったのだけれど、とことん光の差さない北向きだった。でも、静かなその部屋は、いつもひんやりと涼しくて、微かに山の匂いがする。

          緑の窓の話