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24歳、トイレに隠れる。

研究室にパソコンの充電器を置いて行った。別の授業のためにパソコンが必要だったのだが、充電もまあまあ残っていたので、まあいいかと思って研究室に置きっぱなしにして、部屋を出た。

授業が終わった。この先生の授業の後は毎回放心状態になる。30分呆けて、1時間意味もなく勉強をした。課題はもちろん置いてけぼりだ。そろそろ帰るか。でもパソコンの充電器を研究室に置いてる。取りに戻らないと。

研究室へ向かうと、部屋の明かりがついている。同室の友人が中で勉強しているらしい。

私は部屋に入らず、図書館へ行った。別に入ればいいじゃないか。友達なんだから。「こんにちは」と言って充電器をとって帰ればよい。
簡単に言うな。私は先日、その友人と共に受ける授業をさぼっているのだ。
別に、それで関係が悪くなるほど深い間柄でも、ライバルでもない。ただの友達くらいなのだが。

なんでだろう。入れない。怖いのだ。
結局1時間ほど図書館で本を読んでいた。課題はやっていない。

研究室にもどる。もう夜も更けた。学生もぽつぽつとまばらだ。
まだいた。ああ。私は室からはなれ、近くのトイレに駆け込み、個室のカギを閉めた。

お前は何歳だ。今年で24歳になります。なにやってんの?いやもう、本当におっしゃる通り。何をやっているんでしょう。私は。
個室で、静かにドアの開く音を待つ。15分もすれば、彼も帰宅するだろう。

小学生かお前は。小学生はトイレに隠れるなんて馬鹿な真似はしない。
じゃあお前は何なんだ。24歳です。みじめで哀れだ。

トイレにこもり、扉の開く音が聞こえた。少し時間をおいてから、ゆっくりと扉を開きトイレを出る。部屋の前に立つと、明かりは消えている。帰ったのだ。お疲れ様でした。

研究室に入る。机の上に、充電器がぽつんと置かれている。充電器を拾い上げ、自分の情けなさを恥じる。俺は何をやっているのだ。トイレにかくれるて、情けなくて、笑いが込み上げてきた。こんなことをずっと繰り返しているうちに歳を重ねてしまった。また重ねるぞ。同じ失敗も、年齢も。トイレに隠れる50代なんて、いや、それはもう面白いか?怖いか?グロテスクだな。藤子AかFの、ずっと甘やかされた引きこもりが社会に出る短編みたいな怖さがある。

ああ、すごく怖い。とってもグロテスクだ。


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