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#エッセイ 記事まとめ

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2022年7月の記事一覧

二本の万年筆

万年筆が好きだ。 仕事ではボールペンを使うけれど、署名をする時は万年筆を使う。 手紙も必ず万年筆で書く。 万年筆を手にすると、ほんの少し背筋が伸びる。 そしてなぜか、字が上手に書ける気がするのだ。 ペン先が紙を削って、ボールペンとは違う音を立てる、その音も好きだ。 だから、いつも静かな部屋で手紙を書く。 相手を思いながら。 万年筆は、叔父が使っているのを見たのが最初だ。 初めて見た時に、カッコイイなと思った。 ペン先が金色で尖っていて、スルスルと紙の上を動くさまが、

あなたは今、おいくつですか?

毎日書き続けたラブレターいらっしゃいませ。 bar bossaへようこそ。 僕、23歳の頃、今の妻と付き合ってもらうために、1ヶ月くらいの間毎日妻にラブレターを書いたんですね。そのラブレターで、「僕はいずれすごい作家になるから、あなたが僕と一緒になれば、あなたは将来、貯金通帳の数字が増えていくのを見るだけの生活になる」って宣言したんです。 結局は、バーをやりながら書こうということになって、妻と2人でバーを始めたのですが、毎日忙しくて何にも書けなかったんですね。そしたら妻が

私が頑固系ラーメン屋大将だった頃。 #KUKUMU

小学4年生の、夏休みを目前としたある昼下がり。 母が私を台所に呼びつけた。そしてしっかりと目を合わせて言う。 「あなたに大切な役割を任せてもいいかな」 「たいせつな、役割」 なに?  問うと、母は重々しく頷いた。 「夏休みの間、りりこにお昼ごはんを用意してもらいたいの」 弟と自分の二人分、ラーメンを作ってくれない? そう言って母は、私にインスタントラーメンの作り方を教えてくれた。 *** 少し前から、母はパートで働き出していた。 みっつ年下の弟が小学校に入学し、

すべての飲み会に参加してみた結果、どれも冒険そのものだった。

プロローグ 飲み会があるときに必ず考える「行く」か「行かない」か。これはRPGの選択画面と似たようなもので、行けば「何かあるかもしれない」し、行かなければ「何もない」。 これから語る3つのエピソードは、僕が成人してからの約7年間、飲み会という名の冒険にぜんぶ「行く」を選択したことで得られた、経験値についての話だ。 ◇ 苦手のレッテルを貼っていた大学の同級生 Aくんと、ふたりきりで飲みに行ってみた。 大学の講義で顔を合わすことの多かったAくんと僕は、当時それほど話すことが

エスプレッソとイタリア人と中学生の僕

数週間前に通訳として、イタリア人数人がチームで仕事するのを側で観察したときのこと。仕事が煮詰まってきたとき、リーダーが一番若いメンバーにエスプレッソを持ってくるように指示した。カプセルをマシンにセットして、人数分のエスプレッソが出来上がる。それを持ってお互いに小さく乾杯して、エスプレッソをぐいと飲んで仕事に戻る姿が、強く記憶に残っている。 僕がはじめてエスプレッソを飲んだのは5年前の、中学3年生の冬だった。自由が丘にある塾で、同じクラスだった当時高校1年生の先輩と一緒に、授