東スポnote編集長 森中航さん&タビオ靴下屋事業部 田口裕貴さんに聞く、「noteとTwitterの相乗効果」をねらったコミュニケーション戦略とは?
noteとTwitter。SNSのツールとして使われてはいても、機能や文化はまったく違います。企業アカウントは、この2つのツールをどのように使っていくべきでしょうか?
今回は、WebメディアとしてSNSを使いこなす東スポnote編集長 森中 航さんと、企業アカウントを運営するタビオ株式会社の田口裕貴さんにお話を聞き、note、Twitterそれぞれの活用法のみならず、組み合わせた際の相乗効果について探っていきます。
▼イベントのアーカイブはこちらでご覧になれます。
デジタルシフトでフォロワーが6倍に増えた
東スポTwitter
——まずはSNSの利用状況についてお教えください。東スポnoteの森中さん、いかがですか?
森中 東スポは2020年7月にデジタルシフトを行ないました。それまではTwitterアカウントが10個もなくて、担当も明確に定まっておらず、SNSに対してまったくリーチを考えていなかったんです。
そこで、野球、プロレス、競馬といった分野ごとのアカウントのほか、記者個人のアカウントを増やしました。プロレス解説をしている先輩に頭を下げてお願いしたりしましたね。東スポの公式アカウントがこれら各アカウントをリツイートすることで、写真や楽しい話題が並ぶなどタイムラインがバラエティーに溢れるようになりました。堅いニュースフィードとして見られないように、意識的にやっています。
ほかにも、noteやVoicy、TikTokなども始めました。「なんで東スポがこれやってるの?」と思われるかもしれませんが、あらゆるところにきっかけを作って、どんなSNSでも東スポという情報に触れられる場所を増やしたいということです。結果、Twitterのフォロワー数も当初5万人だったのが30万人弱まで増えています。
——一方でタビオの田口さんはいかがでしょう? Twitterとインスタがメインというイメージですか?
“属人化”まで考え進化したタビオのSNS戦略
田口 そうですね。Twitterとインスタがメイン、補助的にnoteとYou Tubeがあるというかたちです。インスタはスタッフがこだわってやっていますね。ちなみに「タビオ」がどちらかというと百貨店ブランドで、「靴下屋」がファッションビルやイオンモールさんに出ているブランドになります。
Twitterは今だいたい6万人くらいのフォロワーさんがいます。増やす施策としては、フォローやRTをしていただく懸賞系で、ツイートはうざいくらいに(笑)、1日30投稿くらい、多い時は50くらいしていますね。フォロワーさんが減る危険性もありますが、それでも発信し続けて、知っていただきたい情報や「これって反応あるの?」という観測気球的な内容になっています。
フォロワーさんが増えて注目が集まってくるとメッセージも伝わりやすくなって、バズるとネット媒体さんに取り上げられて記事になるということが、ここ2年くらい多くなってきている感じです。
——「媒体に取り上げられる」とサラッとおっしゃいますが、田口さんがうまいからだと思います。メディアに取り上げてもらうために意識されていることはありますか?
田口 取り上げてもらおうというよりは、僕がユーザーだったらこれはシェアするだろうなという基準でやっています。(宣伝をしているのではなくて)基本的にはユーザーがそれを知って、「あ、トクした」という気持ちになってもらえれば成功。ついでに売れればいいなという。その人の生活が豊かになればアカウントに対するポジティブな気持ちも増えて投稿もよく見てもらえる……ということは、僕が紹介したものを買ってくれる率がちょっと上がる。
noteの活用法としては、「属人化」を進めています。これは僕よりも、社内の「ゆうなって」と「ひなたぼっこ —Tabieギフトサイトの中の人」の2人がうまく使っていて、noteさんの「今日の注目記事」にも選んでいただいたりもしています。会社のメッセージというよりは、この2人を好きになってくださいみたいな感じでやっているんです。誰から買うか? の「誰」をしっかり作りましょうという感じですね。
——個人や部署のキャラが出る場所としてnoteが使われているということですね。このあたりの使い分けは企業によってパターンが違ってくると思いますが、東スポさんはTwitterとnoteはどのように役割分担をされていますか?
森中 情報発信としてはTwitterがメインで、noteは文字数も多くて長く読んでもらえる特性があると思っています。noteはもともと、「文庫本を作ろうか?」というところからスタートしました。東スポWebはニュースサイトなので、流れが速すぎるんですね。今起きていること一色になっていきます。さらにランキングなども表示され、目移りする空間でもあります。noteはそういう空間とは別で、過去のものを引っ張り出すのは面白いんじゃないかということで、ここに文庫本を置いたらどうなるんだろうという実験的な部分がすごくあるんですよね。
自社の採用情報を“ネタ”として
素早くnoteで記事作成→Twitterで拡散
——ここからは、手応えを感じた投稿や企画を深掘りしていきたいと思います。東スポさんの『東京スポーツ新聞社 新卒・中途社員募集 マジで短い6日間! どうしてこうなった』を、スライドを使っていただいて……。
森中 会社の採用に関する記事は書きたいけれど、紙面に載せるようなものではないというところで、じゃあnoteに書いてTwitterで回してみようとやってみました。noteでこうしたオウンドメディア的な使い方は想定していなかったのですが、結果、Twitterでバズって他媒体さんに取材していただいたりもしました。これは自分で言うのも何ですが、見出しがよかったですね。ネットのノリみたいなものもすごく意識しました。他の企業アカウントさんも拡散を手伝ってくださり、結果4月からは面白い子がいっぱい来ることになりました。
田口 いやもう、(タイトルが)うまいですよね。
森中 この記事は偶然の産物で、本当に「あと6日」という段階で社員が知って、社員も知らないような採用計画ってどうなんだ、広める気あるんですか? という話を人事担当に聞きに行きました(笑)。だから数時間で作ったんです。やるならタイムリーにということです。結果、SNSを使うとこんなにも変わるんだということになりました。
——仕込みではないと。バズる企画というのはこういうハプニングからも生まれるものですよね。森中さんが狙っていたからでもありますが。さて次は田口さんの事例です。『1足1000円の靴下は高すぎるのか〜』というものですね。
世間の認識に意見表明。
その後、細心の注意でフォローを
田口 Twitterで、高いものはもっと安くしたほうがいいみたいな議論がちょっと見えまして。靴下のジャンルは価格競争で破壊されてしまった業界なんです。私達は(価格を)維持する、もしくは上げるということに専念しますということを表明したほうがいいなと思って書いたんです。
——勇気のいるTweetでしたね。
田口 最初は正直、怖いなと思いました。だからだいぶん気も使って、リプライやリツイートのチェックは3日間くらいして、勘違いされていると思ったらすぐにリプライなどで説明をしました。こうしたことを小まめにやっていましたね。
——現在は4.4万のいいねがついています。Twitterは臨界点を超えるとおすすめにも出てくるので、さらに伸びますね。結果、内輪のコミュニティから出ていって炎上することもありますが、これはうまく使われているパターンですね。では、また東スポさんの事例を見ていきたいと思います。
メインコンテンツにはならない
周辺情報の深掘りをnoteで
森中 そもそもnoteの中でウマ娘の記事が非常によく読まれていたので、紙面でやりたくてファミマさんのコラボ取材に行ったのですが、取材前にはコラボメニューも食べるわけです。今までであれば、企画に関するインタビューですから食べた話=食レポはどこにも書かなかったんですよ。でもせっかく全部食べたし、noteであればコンテンツになるだろうと。そのnoteの記事をTwitterで「後日紙面やWebでニュースとしても出します」と宣伝しました。イメージとしてはメディアをクロスさせたんです。
取材でよくあるのが、商品を売っている会社に行くと「これも一緒に扱ってほしいんですけれども」と言われることです。しかし別のネタで取材しているので、どうしても紹介できないという事態が起きます。明らかに広告になってしまう場合もありますし。けれどnoteに裏話は全部載せますという形でやれば、将来的に新しいタイアップのような、広告・販促にもつながるんじゃないかと思いました。
——これはメディアならではの事例ですね。冒頭で仰った東スポさん全体のデジタルトランスフォーメーションのチャレンジのひとつだと思います。また、別ネタで予告をしておいてから重要な情報を出すというのは参考になりますね。次は、ほのぼのした事例としてTabioギフトサイトの中の人、ひなたぼっこさんが書いたものを紹介してください。
売らんかなではない、同じ目線で
「これいいですね」と言ってみる
田口 これはコロナ禍に入社したスタッフが書いた記事です。彼女は店頭に立つ時間もなくて、デジタルの仕事しかできていないわけですが「だからこそ逆に、ちょっとフラットにいきたい」ということを、彼女はよく言っています。僕たちはどうしても売ろうというマインドが出てしまいますが、彼女の場合は同じ目線に立って、「これ好きですよね? これ、いいですね、私も好きなんです」と言って、それで終わりくらいな、ヘタに売らないということを極力意識しています。お客様とフラットな立場で話し合えるのがnoteのいいところですね。よくも悪くも素人感が出ている。
森中 でもタイトルを見ると玄人ですね! 写真の置き方もうまい。
——若い人が自分の友達に見てもらいたいという感じで、自然体でやるほうが案外伸びるのかもしれないですね。
さいごに、「最初はこういうところから入ってみると、ネット上のコミュニケーションがやりやすいんじゃないか」という、今日からやれることを一言ずつお願いできますでしょうか?
森中 1年半くらいやっていますが、続けることが大事だと思います。僕は早起きも苦手だし、何回も心が折れそうになったのですが(笑)、「意地でもTwitterやる!」みたいな。続けるには努力ではなくてやれる仕組みにしたほうがいいと思うのですが。あとは、Twitterは毎日見ている人が出てくると、何度も通ってしまう居酒屋ような、馴染んできたな、みたいな感覚になり、その人に話しかけて「はじめまして」ということもあります。なので、続けていただくのが一番いいと思います。
田口 僕の中で失敗もメチャクチャあったんですけれども、今始めるとしたら絶対noteを活用するなと思います。いや、本当です(笑)。その理由は、結局いろいろやってみた結果、うちの会社だったらお客様はこれを待っているとか、うちの会社ならこれを言うなというのが、noteの中だと見つけることができるからです。アウトプットして軸を固めるには、noteは便利だなと思います。今もしイチからやりなおすんだったら、僕は間違いなくnoteを選択しています。そのあとにTwitterをやりますね。
——ありがとうございます。確かにそうですね。自分がなにがしたいのかを、一回記事に書き出してみると、実はそこにヒントがある。頭の中を一回文章にしてみると、自分はこんなことを考えていたんだというのがよく分かるということですね。
今回のイベントは以上になります。お二人とも、ありがとうございました。
登壇者紹介
森中航さん
東スポnote編集長
「東京スポーツ」編集局デジタルメディア室記者。事件や経済、特集記事などスポーツ以外を取材。2021年2月にnote開設を命じられ、ひとりなのに東スポnote編集長となり、先輩と後輩を巻き込み奮闘中。
田口裕貴さん
タビオ 靴下屋事業部
タビオ株式会社に営業職として入社。靴下屋の営業職を経てECサイトにおける広告運用・SNS運用を経て2017年10月より企画室。2020年より靴下屋事業部 SNS担当。