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マンガ編集者・佐渡島庸平さんに聞く。SNSで漫画家のフォロワーをふやし、ヒット作をつくる方法とは

noteで不定期開催しているイベント、「noteとTwitterでつくる新しい企業コミュニケーション」。

今回のゲストは、クリエイターのエージェント業を営む株式会社コルク代表・佐渡島庸平さどしまようへいさんです。

『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』などのメガヒット作を世に送り出してきた編集者の佐渡島さん。コルクではSNSをどのようにつかい、ビジネスに生かしているのか、うかがいました。

個人アカウント開設で、
まずはコルクの認知を得る

ーー編集者は、「自分の役割は “ 縁の下の力持ち ” だから、みずからは情報発信をしない」という方が、いまだに多いように思います。佐渡島さんも、講談社で編集者をされていたときは、Twitterのアカウントを持っていなかったそうですね。

佐渡島 そうですね。自分のアカウントは持たず、『宇宙兄弟』のアカウントでTwitterをやっていました。

株式会社コルク 代表取締役社長
佐渡島庸平さん

佐渡島 Webと違って雑誌は、作品を掲載できるページ数がごく限られています。作家は貴重な誌面を得るために熾烈しれつに競いあっていて、編集者はその「場(誌面)」を整えるのが仕事です。

なのに、編集者自身が誌面を埋めていたら。たとえそれが小さなスペースだったとしても、作家はしらけてしまいますよね。だから、みずから発信する編集者が、少ないんだと思います。

私は、コルクを創業してから、個人のTwitterアカウントをはじめました。

佐渡島さんのTwitterアカウント

佐渡島 会社の知名度があるほうが社員は働きやすいでしょうし、社員の家族も「自分の身内はこういうひとと仕事をしているんだ」とわかったほうが、安心できると思ったからです。

フォロワー、見るべきは「数」ではなく「中身」

ーー佐渡島さんのTwitterフォロワー数は、いま(2023年1月17日現在)7.2万人ですね。

佐渡島 少なくはないけど、凄く多いわけでもないですよね。僕は、フォロワーをふやそうとは思っていないんですよ。

というのも、起業家の佐藤航陽さとうかつあきさんが僕に言ってくれたことがあって。

佐渡島 佐藤さんは以前、タイムバンクというネットサービスを提供していました。そのサービスは、あるひとが各種SNSのアカウントを登録すると、登録したひとのWeb上での影響力を偏差値として出してくれるんですね。

佐藤さんはその事業をとおして、「(アイドルやクリエイターのようなインフルエンサーだけでなく、彼らをプロデュースする)プロデューサーが、世の中にいかに多大な影響を与えているかがわかった」とおっしゃっていました。

世界的なプロデューサーでも、フォロワー数はそれほど多くない場合がほとんど。でも、そうしたプロデューサーは、数百万人ものフォロワーがいるような著名なインフルエンサーから、フォローされている。だから、影響力が大きいと言うんです。

僕のフォロワー7.2万人の中にも、そうした著名なインフルエンサーが何人もいます。

ーーフォロワーをふやすことよりも、どういうひとがフォローしてくれているかのほうが、大事だということですね。

佐渡島 そうです。YouTubeの動画も、同じ考え方でつくっています。

佐渡島 YouTubeで一般的に人気があるのは、「はじめてマンガを描いてみた」とか、「10分で絵が上手くなる方法」とか、(初心者向けのもの)なんですよね。

でも僕の動画では、創作を相当やってきたひとしかおもしろいと思わないような、わかりづらいことばかり話しています(笑)。

ーー確かに、佐渡島さんがYouTubeで取り上げている内容は、レベルが高い印象がありますね。わかるひとにだけわかればいいというような。

佐渡島 僕のYouTubeをよく観ていて、僕と一緒に仕事をしたいと言ってくれる漫画家さんは、僕と相性がいい。そういう方とは、すごく深い仕事ができることが多いんですよね。

姿をかえた “ 縁の下の力持ち ” 

ーーTwitterは、具体的にどのようなつかい方をされているんでしょうか。

佐渡島  #コルクラボマンガ専科 というマンガの学校を運営しているんですが、そこで活用しています。

マンガ専科は1期6ヶ月制で、1期あたり50人〜60人在籍しています。僕は、生徒さんが運営しているアカウントの投稿を毎日読んで、「いいね」をつけて回るんです。

その中でも、さらに「いいね」の数が伸びそうなものは、リツイートします。すると、1000とか2000ぐらい「いいね」がもらえるので、今度は引用リツイートをするんです。

ーー3段ロケット方式なんですね(笑)。

佐渡島 さらにそのあと、1回目のリツイートを消して、もう1回リツイートするんですよ(笑)。

佐渡島 そうすると、1万「いいね」とかになるんです。1万「いいね」になると、今度は「ねとらぼ」などのメディアが、そのマンガをそのままつかって記事にしてくれます。

......という感じで、いまの時代の “ 縁の下の力持ち (マンガ編集者)” って、漫画家のフォロワーをふやせるひとのことだと思うんですよね。

マンガ専科に入っているひとが「#マンガ専科」をつけてツイートすると、専科にいる漫画家50人〜60人がお互いにリツイートやコメントをし合ったり、「いいね」をつけ合ったりします。

さらに僕やコルクのほかの編集者が積極的に「いいね」やリツイートなどをすることで、たとえば僕のリツイートを見た(佐渡島さんのフォロワーである)著名人が反応してくれることもあります。

ーー佐渡島さんはTwitterを、コミュニティの盛り上がり経由で、メディアに注目してもらう場所としてつかっているんですね。

佐渡島 編集者は、(サッカーでたとえると)パスを渡すのが仕事。世間に向かってゴールを決めるのは、作家ですから。

ーーTwitterでみんなでリツイートし合って盛り上げるのが、ひとつの勝ちパターンになってきたと。

佐渡島 そうだと思いますよ。

マンガ専科の50〜60人が、1日に2〜3回ずつ投稿して一緒にわちゃわちゃしているだけで、世間からは「むっちゃ盛り上がってるな」っていうふうに見えるんです。そうすると、“ 結構売れている雑誌 ” みたいな雰囲気になるんですね。

それと、コルクでは、1000以上の「いいね」がついたアカウントをサクッと見られる一覧にしてメディアに公開しています。

佐渡島 メディアの方がその一覧を見て、「このひとにインタビューしてもいいですか」と問い合わせてきてくれることもありますね。

バズは偶然で十分、本当に価値があるものとは

ーーSNSは本来、双方向のコミュニケーションの場。だから企業は、メディアに広告を打つのとは違う価値観で、SNSを運営しないといけないですよね。しかし、従前のやり方や考えから抜け出せていない企業が、多いように感じます。

佐渡島 会社や上司は、バズを求めてきますよね。

バズるのはいいことですよ。でも、バズは偶然に起こるものだけで十分だと、僕は思いますね。

たとえば飲食店を経営しているとして。その店が客から信頼されるのは、味が安定していたり、時代に合わせて味を微調整する進化を10年、20年と続けていたりするからだと思うんです。そして、いつも決まった日時に営業していることも、大事です。

SNSも同じです。

SNSやYouTubeでは、自分たちがふだんやっている本質的なことを記事や動画などで、毎日のように繰り返しつぶやくことが重要です。そうすることで、見てくれているひとたちの中に、その会社への信頼感が醸成されていくからです。

記事や動画を1年、2年、3年と投稿し続け、コンテンツを貯めていけば、自然と自分たちを信頼してくれるひとが集ってきます。

ーー『ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である 』という本もありますね。

佐渡島 むかしは、瞬間的に世間の話題を集めることで「このひと、本物かも」と、人びとを勘違いさせることができました。

でもいまは、過去のトラッキングが自由にできるので、そのひとがこれまでにどのくらい発信をしてきたのか、同じことをただ繰り返し言っているだけのひとなのかが、すぐにわかってしまうんです。

ーー佐渡島さんは自身のYouTubeで、凄く広い振り幅でいろんな話をされています。佐渡島さんにたくさんの引き出しがあるからこそ、できることです。

これは、企業の発信にも当てはまりますよね。たとえば、こだわりのまんじゅうをつくっている企業なら、まんじゅうに関するストーリーをいっぱい語れるはずです。

佐渡島 今日は天候がこうだから、まんじゅうの柔らかさはこれぐらいだ、とか。そういうことをずっとしゃべっているだけで、「この店のまんじゅう、おいしいんじゃないか?」って(評判に)なる可能性だって十分にあります。

ーー過去のトラッキングができるからこそ、商品開発に関するストーリーや、商品への秘めた思いをSNSで語り続けることに意味があるんですね。大事なのは、1個1個のストーリーがバズるかどうかではなく。

言葉は「正しい」ではなく「いい加減」で

ーー企業の発信を人びとに届くものにするために、企業は何をすればいいのでしょうか。

佐渡島 言葉をていねいにつかうこと。これに尽きると思います。企業の言葉も、ていねいに本心で選んだものであれば、たとえそれが立派な言葉でなくてもちゃんと客に届くんですよ。

子どもの手紙が親を感動させることがあるように、正しく選ばれた言葉はひとの心を射抜くんです。

佐渡島 でも、多くのひとは、会社の人格になったとたんに社内や世間から責められない「正しい言葉」をつかおうとしてしまいます。自分の心を見ないで、正しい言葉を探してしまう。

でもそうではなくて、法人という「人格」の本音を語るのに見合った「いい(良い)加減な言葉」を見つけることが大事なんです。

ーー企業がつかう、パンフレットや教科書的な「正しい」言葉には、法人格の心が入っていないから、ひとには届かないということですね。

どうすれば、「いい加減な言葉」を見つけることができるのでしょうか。

佐渡島 会社もひとも、格好つけないこと。コルクの行動指針は「さらけだす」なんですが、Twitterって、自分と他人のコミュニケーションの「さらけ出し」なんですよ。

コルクのHP「企業情報」より

佐渡島 Twitterでは、告知をするのではなく、相手とどういうコミュニケーションをするかが重要です。

たとえば、いま僕が徳力さんと話すとき、「刺すような一言を言うぞ!」なんてことは、まったく考えていません。だけど、ちゃんと会話をしているから、自然とそれが出てくるんです。

そのすべての会話(言葉)は、徳力さんによって引きだしてもらっているものなんですよ。

ーーこの対談の中で、視聴者の心に刺さるような言葉がいっぱい出てきましたが、佐渡島さんは1個1個狙ってバットを振っていたわけではなくて。相手とのキャッチボールの過程で、刺さる言葉が生まれてきたということですね。

佐渡島 そうです。だからいま、企業の担当者がSNS運営のためにやらなければならないのは、プロのコンテンツの編集者やライターを連れてくること。そして、バズらなくてもOKなひとをSNSに出すことです。たとえば、社長のnoteだったら、バズる必要はないですよね。

社長がnoteをやり続けて、記事が貯まっていけば、社外の方々からの信頼につながります。また、社内の人間にとっては、ストックされたコンテンツが “ 資産 ” になります。

ティール組織において、「コミュニケーションは資産」だと言われますが、社内コミュニケーションの大元となるコンテンツ(記事)をストックしていくことは、資産を貯めていくことになるんですよ。

※ティール組織とは
上下関係がなく、フラットな組織。メンバーそれぞれが、組織の社会的な使命や目的を深く理解しており、必要に応じて自分で意思決定と行動ができる。

深いコミュニケーションをしたいときやコンテンツをストックしたいときには、noteのような文字メディアほど強いものはないんですよ。マネーフォワードさんがnoteでやっている社内報は、すごくいいですよね。

ーーマネーフォワードさんは公式の記事だけでなく、社員の記事が混じって掲載されています。だから立体感があるし、会社の文化が見えるんですよね。

記事が採用に役立つこともあれば、顧客が「こんなにたのしそうな会社のサービスなら、安心してつかえるな」と思ってくれることもあるそうです。

佐渡島 会社って、多面的ですよね。客がどの面から接してくるかはわからないので、いろんなタイプの記事をしっかり残していくことは、すごく価値あることだと思います。

ーーそこでさらに、プロの編集者を入れた記事をメインコンテンツとして置ければ、トップのコンテンツの高さも出てくると。

佐渡島 そうですね。それに、プロの編集者とライターが社員にインタビューして週1で記事を出したとしても、企業のマーケティング費や社内報を紙に印刷する費用から考えると、むちゃくちゃ安いですから。

努力不要のルーティンが資産を生む

ーー最後に、視聴者のみなさんがすぐに実践できるようなヒントをいただいて締めさせていただければと思います。

佐渡島 努力しなくてできることをやるのが、1番いいと思います。バズりたいと思っていると、ついひと工夫しちゃうけど、それだと疲れてる日はやらなくなっちゃうんですよ。

だから、毎日1食分だけSNSに写真をあげるとか、会社に行くたびに自分の机の写真をアップするとか。ルーティンにできることをやる。

そうやって続けていると、日によっては工夫できるときもあります。

ーー毎回工夫しようと思うと、3日坊主になりがち。だから、最低ラインを続けるようにするといいということですね。

佐渡島 最低ラインを、「本当に最低なライン」にすると、いいと思います。

ーー自分がたのしく、負担なく続けられるライン。佐渡島さんが言うように「本当に、本当に続けられる最低ライン」というのは重要だと思います。みなさん、頑張りすぎないでくださいね。

本日はありがとうございました。

※敬称略

登壇者プロフィール
佐渡島庸平さん
株式会社コルク 代表取締役社長 編集者

1979年生まれ。東京大学卒業後、講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)など、数々のヒット漫画の編集を担当する。2012年に退社し、作家のエージェント会社「株式会社コルク」を設立。

モデレーター 
徳力 基彦
noteプロデューサー

▼当イベントのアーカイブ動画は以下よりご視聴いただけます

interviewed by 徳力基彦 text by いとうめぐみ

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