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新入社員のオンボーディングと離職防止 ~コーチングとインストラクショナルデザインの専門家による架空対談 その15~

続いては、大企業で人材育成の担当をしている方が挙手をし、質問を行うようです。
なんでも、新入社員の採用と育成、離職の防止で苦戦しているようで、その当たりのヒントにしたいようですね。

大企業の人材育成担当者から「オンボーディング」の質問:

「皆様方の討論は、自社の人材育成のヒントとなりました。ありがとうございました。皆さんに伺いたいのですが、採用からオンボーディングのプロセスで、社員を一人前にするためにどのようなアプローチが効果的か、特にインストラクショナルデザインとコーチングの観点から、ヒントをいただければと思います。」

IDによるオンボーディングプログラムの提案:

鈴木先生は、IDの観点でオンボーディングのプログラムを提案します。
「採用からオンボーディングまでのプロセスは、企業文化に新しい社員を迅速かつ効果的に適応させるための重要なステップです。この段階でのインストラクショナルデザイン(ID)の活用は、非常に有効です。まず、IDのADDIEモデルを活用して、新入社員が企業の価値観、期待される行動、業務に必要なスキルを段階的に学べるようにカリキュラムを設計します。

具体的には、オンボーディングプログラムを次のように構成することを提案します:

  1. 初期フェーズ(導入期): 基本的な企業情報や業務プロセスを理解するための基礎的な学習プログラムを提供します。この段階では、ガニェの9教授事象を参考に、注意を引き、関連性を示し、自信を持たせるアプローチを重視します。

  2. 中期フェーズ(実践期): 新入社員が実際の業務に取り組み始める際、メリルの第一原理を活用したタスク中心の学習が効果的です。実際の業務タスクをシナリオとして用意し、問題解決を通じて実践的なスキルを身に付けさせます。

  3. 後期フェーズ(評価・適応期): 最後に、学習成果を評価し、業務への適応度を確認します。この段階では、フィードバックと改善のサイクルを取り入れ、継続的な学びを促進します。また、研修終了後もフォローアップ研修を実施し、さらなる成長をサポートする仕組みを整えることが重要です。」

オンボーディングにおけるコーチングの活用:

佐藤先生は、オンボーディングのプロセスにおけるコーチングの影響について解説を行います。
「オンボーディングのプロセスでは、コーチングを取り入れることで、新入社員が自分自身の目標や期待を明確にし、業務に自信を持って取り組むことができるようになります。採用直後からコーチングセッションを定期的に行い、次のようなポイントに焦点を当てることを提案します:

  1. 初期セッション: 新入社員が自分のキャリア目標や企業での役割に対する期待を明確にするためのサポートを行います。ここでは、GROWモデルを活用し、目標(Goal)、現実(Reality)、選択肢(Options)、意志(Will)を整理し、具体的なアクションプランを設定します。

  2. 定期的なチェックイン: 業務が進むにつれ、新入社員が直面する課題や疑問に対して、コーチがサポートを提供します。これは、学んだことを実際の業務にどう適用するかを確認するプロセスであり、社員が自信を持って業務を遂行できるようにするために非常に重要です。

  3. 自己評価とフィードバック: 新入社員が自分の進捗を評価し、フィードバックを基に次のステップを計画することを促します。このプロセスを通じて、新入社員は自分の成長を実感し、モチベーションを維持しやすくなります。」

高橋純一さんの総括と補足:

「鈴木先生、佐藤先生、それぞれの視点から非常に具体的なアプローチを提案していただきました。オンボーディングのプロセスにおいて、IDとコーチングの融合が特に効果的であることがよく分かります。新入社員が企業文化に迅速に適応し、業務において一人前になるためには、学習と実践の両方が重要です。

具体的なヒントとしては、IDを活用して段階的な学習プログラムを提供しつつ、コーチングによって個々の進捗や課題に対応することで、個別の成長をサポートすることが鍵になります。また、社員が自己評価を行い、その結果を基に行動を調整できるようにすることが、持続的な成長を支える重要な要素となるでしょう。

このアプローチは、新入社員が短期間で企業に適応し、価値を創造できるようにするための効果的な手段であり、結果として企業全体のパフォーマンス向上に貢献するはずです。」

この回答では、鈴木先生がインストラクショナルデザインを活用した段階的なオンボーディングプログラムの設計を提案し、佐藤先生がコーチングを通じた個別対応の重要性を強調しました。高橋さんは、これらのアプローチを統合することで、新入社員が短期間で企業に適応し、一人前になるための具体的な手段を示しています。

大企業の人材育成担当者からの「守破離」についての質問:

質問者が、3名の話を受けて、納得したような微妙な表情で質問を続けます。
「企業における人材育成は『守破離』の考え方に基づいて行われるべきだと考えています。つまり、入社直後はティーチングが必須であり、徐々にコンサルティングに移行し、最終的にはコーチングを核にしたエンパワーメントを目指すアプローチが重要だと考えます。この点について、インストラクショナルデザインやコーチングの観点からどのように捉えるべきか、ご意見を伺いたいです。」

「守破離」についてIDの観点での整理:

鈴木先生は、『守破離』に関しての持論を述べます。
「『守破離』という概念は、日本の伝統的な教育や武道で使われる非常に有効なフレームワークであり、人材育成にも適用できる考え方です。インストラクショナルデザインの観点から、このアプローチを分解してみると、次のように捉えることができます。

  1. 守(ティーチング): 初期段階では、新入社員が基本的な知識やスキルを習得するためのティーチングが重要です。この段階では、インストラクショナルデザインを用いて、体系的かつ効果的な学習プログラムを提供することが求められます。具体的には、ガニェの9教授事象やADDIEモデルを活用し、基本的な業務プロセスや企業文化を学ぶためのカリキュラムを設計します。

  2. 破(コンサルティング): 次の段階では、社員が基本を習得した後、応用力を身に付けるフェーズに移行します。この段階では、メリルのIDの第一原理を用いたタスク中心の学習が有効です。社員が自ら問題を解決し、個別のケースに応じてアプローチを調整できるよう、コンサルティング的な支援を行います。ここでのインストラクショナルデザインは、柔軟性を持たせたプログラムを設計し、社員が自ら考え、行動する力を養うことを目的とします。」

  3. 離(コーチングとエンパワーメント): 最終的に、社員が独自のスタイルを確立し、自律的に行動できるようになる段階では、コーチングが重要な役割を果たします。インストラクショナルデザインの枠を超え、社員が自己の目標を設定し、それを達成するための支援を行うコーチングに移行することで、エンパワーメントを推進します。ここでは、GROWモデルやSMART目標設定モデルが効果的に機能し、社員が企業のビジョンに沿って独自の価値を創出できるようになります。」

破と離の段階におけるコーチングの活用:

佐藤先生も『守破離』についてコーチングの観点でポイントを整理します。
「『守破離』のフレームワークは、コーチングのプロセスとも非常に親和性が高いと考えます。特に、守の段階では、ティーチングが主体となり、具体的な知識やスキルを伝えることが求められますが、これが終わった後に、徐々にコーチング要素を取り入れることが重要です。

  1. 破の段階(コンサルティング): この段階では、社員が得た知識やスキルを実際の業務でどう適用するかについて、コンサルティング的なアプローチが効果的です。コーチングでは、クライアントが直面する具体的な課題に対して、選択肢を提示しながらも、最終的にはクライアントが自ら意思決定を行うことを支援します。ここで、コンサルティングとコーチングが交わるポイントがあり、コーチがアドバイスを提供しつつ、クライアントが独自の解決策を見出せるように導きます。

  2. 離の段階(エンパワーメント): 最終的に、社員が自立的に行動できるようになる段階では、コーチングを通じてエンパワーメントを図ることが最も重要です。ここで、社員は自己の目標に責任を持ち、それを達成するための行動を自主的に取るようになります。この段階では、コーチングが核となり、社員が自己の力を最大限に発揮できる環境を作り出します。結果として、企業全体のパフォーマンスが向上し、持続的な成長が可能になります。」

高橋純一さんの総括:

「お二人の見解から、『守破離』のフレームワークが人材育成において非常に有効であり、特にインストラクショナルデザインとコーチングがそれぞれの段階で異なる役割を果たすことが明確になりました。守の段階では、体系的なティーチングによる基礎の構築が不可欠であり、破の段階では、応用力と自律性を育むためのコンサルティング的なアプローチが重要です。そして、離の段階では、コーチングを通じてエンパワーメントを推進し、社員が自己の力で成果を出すことが求められます。

このアプローチは、社員の成長を段階的に支援し、最終的には企業の目標達成に向けて自発的に貢献できる人材を育成するための非常に効果的な方法です。『守破離』の考え方を企業の人材育成戦略に組み込むことで、組織全体の成長を持続的に支える人材を育てることができると確信しています。」

この質疑応答では、「守破離」という日本の伝統的な教育フレームワークを企業の人材育成に適用する方法について、鈴木先生はインストラクショナルデザインの視点から、佐藤先生はコーチングの視点から、それぞれの段階における具体的なアプローチを提案しました。高橋さんは、このフレームワークが持つ効果を総括し、企業の人材育成戦略において重要な役割を果たすことを強調しています。

大企業の人材育成担当者の感想:

「鈴木先生、佐藤先生、高橋先生、それぞれの視点から非常に具体的かつ実践的なアドバイスをいただき、ありがとうございます。『守破離』というフレームワークに対する私の考え方が、インストラクショナルデザインとコーチングという異なるアプローチを通じて深まり、また確信を持つことができました。

特に、守の段階でのティーチングを体系化し、破の段階でのコンサルティング的支援、そして離の段階でのコーチングを通じたエンパワーメントのプロセスを明確にすることで、社員が段階的に成長し、最終的には自律的に行動できるようになるという流れが非常に腑に落ちました。

また、これらの段階を通じて、社員一人ひとりが持つポテンシャルを最大限に引き出すことができるという点についても、大いに共感しています。今後、私たちの人材育成プログラムにおいて、このアプローチを取り入れていきたいと考えています。特に、新入社員のオンボーディングプロセスや中堅社員のリーダーシップ育成において、今回のアドバイスを活かし、より効果的な育成プログラムを設計していきたいと思います。

今回の対談を通じて得られた知見は、我々が直面する人材育成の課題を解決するための重要な指針となり、非常に有意義なものとなりました。本当にありがとうございました。」

この想定では、人材育成担当者は、鈴木先生、佐藤先生、高橋先生の具体的なアドバイスに深く共感し、『守破離』のフレームワークに基づく人材育成戦略が、インストラクショナルデザインとコーチングのアプローチを通じてさらに効果的になることを理解しています。担当者は、今回の対談で得られた知見を実際のプログラム設計に活かす意欲を持ち、非常に前向きな感想を抱いています。

【登場人物や対談内容については、すべてフィクションです】

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