見出し画像

シン・MaaS:マネタイズが難しいMaaSの突破口を考える

こんにちは。某会社にてMaaS(Mobility as a Service)に関する事業を推進をしています。

こちらの記事では、交通の革命と言われているMaaSをテーマに投稿したいと思います。

運行事業者の救世主となるイノベーションと期待され華々しく登場したMaaSですが、他のas a Serviceのビジネスモデルとは違い、行政や当事者達の間にある特殊な思い込みがあると感じています。

この思い込みのせいでMaaSが持つ本来のポテンシャルを発揮できず、幻想と化す状況に陥っていると感じています。

マネタイズが難しいと言われる「MaaS」の突破口について興味のある人に読んでほしいと思います。

交通サービスは誰が提供すると便利か

皆さんが、どこかに出かけたいと思ったときに最初に訪れる場所はどこでしょうか?

通学通勤、休日を問わず、マイカーを除けば、通常は鉄道などの駅となり、そこで切符を買って移動する、という行動が当たり前になっているのではないかと思います。

ここでひとつ、無意識に諦めている感情がないでしょうか。
鉄道やバスのサービスはめちゃくちゃ使いにくい、、、でもこれしかないから仕方がない、と。

交通系の会社が提供するサービスなどは解説サイトを調べないと使えないレベルではないでしょうか。

鉄道などの窓口業務は手続きが多く煩わしいし、業者毎にサービスが異なっていることが多いと思います。

・・・まるでここは役所ですかと憤る体験をされた方も多いと思います。

移動することは人間の本能のため、交通サービスへの需要が極端になくなることはないと思います。

ただし、2020年からのコロナ禍で、一時期ではあるものの、最大20〜30%程度の利用低下が実際に発生しました。

リモートワーク等の普及により、移動需要が完全にもとに戻ることがないと言われている中、元々の移動需要には本能に基づかないものも多く含まれていたのかと思います。 

現在の岩盤規制で守られた事業構造によって運行事業者が提供しているサービスと、ユーザーニーズとの間に歪みが発生していると推測できます。

多くの人は、どこかに移動する際に、仕方なく運行事業者のサービスを利用しているのではないでしょうか。

ただ、よく考えると、移動とは手段であって、本来の目的ではないはずです。

本来の移動の目的は買い物や観光などであって、その目的を担う事業会社のサービスをユーザーは利用したいと思っているはずです。

例えばAppleやユニクロなど、運行事業者ではないリテール企業やIT企業などが、まるで運行事業者のように交通サービスを本業のサービスの中に取り込んで提供してくれると、ユーザーにとっては使いやすいサービスになるのではないでしょうか。

交通サービスを利用したい時、駅の窓口に行ったり、運行事業者のホームページで手続きする必要がない世界です。

旅行、買い物、外食などに行こうと思った時、必ず移動が伴います。

普段から使っているサービスで交通サービスをシームレスに利用できたら、ユーザーにとっても便利ですし、事業会社にとっても新たな顧客接点が生まれることになります。

しかし、非運行事業者である事業会社が交通サービスを独自に展開するのは非常にハードルが高いです。そのため、これを実現するには新しいビジネスモデルが必要になります。

その答えが、運行機能のアズアサービス化になります。

アズアサービスで生まれ変わる交通サービス:シン・MaaS

誰もが交通サービスを提供できる世の中へ

非運行事業者が交通サービスを提供することには大きく3つのハードルがあります。

1. 膨大な初期導入コスト
交通サービスを提供するには、鉄道、バス、路線、運行管理システムなど多大な物理的なハードウェアへの投資が必要となります。サービス開始のために必要なシステムを構築するには多大なコストが必要となります。

2. 人的リソース
運行事業者は、運転士やメンテナンス人員などを確保する必要がありますが、多くは国家資格が必要となります。運行事業計画や運行計画などを策定する知識も必要になります。専門知識の習得やスペシャリストの育成に多くの時間が必要となります。

3. 法的規制
運行事業は高い安全性が求められる特殊性から事業者申請が必要となり承認を得るハードルがあります。また、他の交通系の事業者や住民との協議も必要で各地域の運輸局と調整が必要となり、誰でも手軽に始められる事業ではありません。

これらのハードルをすべてクリアするのは相当の体力が必要なので、運行事業者でない事業会社が運行事業者と協業し、自社サービスの一部のように交通サービスを提供するMaaSに期待が高まります。

MaaSのビジネスモデル

MaaS論文の影響

ところで、MaaSといえばフィンランドが発祥とされており、例えばMaaS Global社のwhimなどに代表されるMaaSオペレーター事業がMaaSの代名詞となっています。

MaaSオペレーターは、鉄道、バス、タクシー、シェアサイクルなど、複数の運行事業者を束ねてモビリティの一気通貫の予約や決済を実現するサービス事業者を指します。

提供されるサービスのイメージとしてはGoogle mapやYahoo乗換検索の経路検索サービスが近く、そのまま決済まで出来るようなサービスを目指しています。

このコンセプトは、2014年にフィンランドのSonja Heikkila氏が修士論文で提案した内容がベースとなっており、マイカーから公共交通へのシフトを促し、持続可能なモビリティ社会を実現するという高らかなビジョンを持っています。

実現すれば(今が不便すぎるので)便利になることは間違いなさそうで、国内外の様々なプレーヤーがMaaSオペレーターを目指して活動を行っています。

ただ、このMaaSオペレーター事業は以下の理由から実現が難しいと考えられます。

1. MaaSオペレータの収入源は決済手数料が主となるが、都市の移動総量を簡単に増やすのは困難で、各社がMaaSオペレーターに支払える額は僅かとなる

2. MaaSオペレータがサービスを提供するためには複数の運行事業者や行政等の多くのステークホルダーの同意を取る必要がある

3. エンドユーザーの自家用車のメンテナンスなどに対するコスト意識は過小評価される傾向があり、移動手段に対するユーザーの意識を変えるハードルが高い

要するに、ただ単に繋いだだけではビジネス化は難しいということです。

MaaSオペレーター事業が困難なことが見えてきたため、海外では実際に撤退する企業も現れています。

ただ、高い期待のもと始まったMaaSブームは多くの関係者が絡んでいることもあり、MaaSは手を変え品を変え、もはや曲解とも言える状態に陥っているように思います。

自動車メーカーが自動運転やAIなどの技術を採用しただけでMaaSと呼んだり、運行事業者が誰が使うのかわからない自社サービスを始めただけでMaaSと呼ぶなど、単に何らかのサービスを始めることがMaaS(サービス事業)として認定されるケースが多いように感じます。

これは、行政がMaaSというマジックワードにとりつかれており、MaaSとして提供されるものに多くの補助金が割り当てられる構造上の問題も拍車をかけていると思われます。

本来のMaaSの魅力は、自社でハードウェアや人材リソースを抱えたりする必要がなく、非運行事業者である事業会社が手軽に自社サービスと組み合わせた交通サービスを提供できること、にあるはずです。

MaaSオペレーターはこのコンセプトの一部の事業に過ぎません。

MaaSの高らかなビジョンを実現する方法の一つに過ぎないとも考えられます。

シン・MaaSで実現できる移動体験

では、アズアサービスであるMaaSによって非運行事業者である事業会社はどのようなサービスを提供できるのでしょうか?

例えばMaaSを活用し、以下のような顧客体験を実現できるようになると考えられます。

エンドユーザー向けのケース

移動手段の検索や予約について、自社アプリと運行事業者のサービス間を行き来する必要がなくなり、ユーザーにシームレスな体験を提供できます。

リテール企業などであれば、自社ブランドの交通サービスを提供するモビリティを企画運営したり、自社店舗を経由できるお得な定期券を発行したりするサービスも考えられます。

事業会社にとっても、交通サービスという新たな切り口による顧客接点の創出や、販売機会損失の低減などメリットが生まれます。


企業向けのケース 

B2B向けのMaaSでは次のようなアイデアも考えられます。

課題 
多くの企業では、通勤手当や出張時の運賃の経費処理を行っているが、申請や管理が面倒。通勤定期券を持たないといけない。

解決案 
運賃の決済機能がついたICカードとして社員証を従業員に提供し、社員証で交通サービスを利用できるようにする

  • 従業員は定期券の購入や出張時の申請をする必要がなくなる

  • 社員証だけで移動ができるようになる

  • 通勤手当や運賃の経費処理を自動化でき、管理部門の処理を簡素化できる

運行事業者が決済機能と改札機能をAPIでオープン化することで達成できます。磁気券廃止の流れなど、実現の土壌はできてきていると考えられます。

まとめ

いまだ一般には認知度が低く、コンセプトが凝り固まってしまっているMaaSですが、アズアサービスの概念として見直し、誰もが交通サービスを提供できる世界を実現するアイデアとして受け止めることで、MaaS事業を活性化することができると考えます。

MaaSにより交通サービスを様々な事業会社が提供することで、交通サービスは知らない間にいつの間にか利用しているものとなり、ユーザーの交通サービスの利用に対する心理的障壁を軽減する効果も期待できます。

移動需要が喚起され、街が活性化される、渋滞等の社会問題も緩和される、まさにMaaSが目指すビジョンがここにあります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?