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乳頭温泉郷 湯めぐり旅 in秋田(3)

二月のある木曜日。何重にもかけたアラームの音で一泊二日の旅がはじまった。ノーメイクのままタクシーをつかまえ、朝5:40発の羽田空港行きリムジンバスに乗る。車内に目を走らせると、2列シートの片側はすべて埋まっていて、となりに荷物を置いている人が多い。荷物のない痩せた男性の隣に座り、空港までの小一時間、身を縮めてぼんやりと東京タワーや湾岸の景色を眺めた。

羽田空港に着き、逆方向の電車に乗って待ち合わせに少し遅れた友人と無事に落ち合う。JALカウンターで特殊チケットを発券してもらい、手荷物検査場を通過して搭乗口へ向かう。平日朝の秋田空港行きは、飲み物のサービスを二回受けるような乗客の数だった。

秋田空港上空にさしかかると、「濃霧のため着陸できず上空で三十分まで待機する」というアナウンスがあった。三十分待機しても霧が晴れず着陸できない場合は、羽田空港に引き返すという。窓の下をのぞくと、同じ景色が何度も現れて、旋回しながら上空待機していることを実感した。私は太平山の神様と鳥海山の神様に「どうか霧を吹き飛ばして着陸できるようにしてください。願いを叶えて頂いたら旅のことを文章にまとめます」と安っぽい交換条件で祈った。そうして私たちは、三十分遅れで秋田空港に着陸できた。余談だが、秋田空港は雪よりも霧に弱く、夏でも発着できないことがあった記憶がある。

予定より遅れての到着だったものの、エアポートライナーの発車時刻まで多少の時間があったため、空港内のコンビニで朝食を調達することにした。せっかくなので地元たけや製パンの「粒あんグッディ」も買う。空港の外に出ると想像よりずっと暖かく、万全の防寒対策をしてきた私たちは拍子抜けした。

エアポートライナーは小型ワゴンで乗客は七人だった。運転手が、角館、田沢湖、乳頭温泉郷でそれぞれ下車することを説明し、友人が「訛っている!」とうれしそうにしていた。


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