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乳頭温泉郷 湯めぐり旅 in秋田(5)

数年前に来たとき、湯めぐり号はハイエースのようなワゴン車だった気がする。それが小さめのバスにアップデートされていた。バスの頭には湯桶がちょこんと乗っていて、各宿の温泉と山並みがラッピングされている。ハイエースより断然それっぽい。でもこの窓に貼られた山並みラッピングが、車窓からの風景を見えなくしていた。個人的にはせっかくの景色を楽しみたいと思ったが、UVカットか何かの要望でもあったのだろうか。

鶴の湯から乗る客は多かったが、途中下車で皆いなくなり、貸切になった。運転手さんの後ろに移動する。運「どごから来たの?」私「東京です」友「東京ですけど、この子は秋田出身です」運「今年から孫六は冬の営業やってねよ」私「ええええええええ!本当ですか?」運「やる気ねんだ」私「すがだねー、なもかもなんね(訳:まじかぁ、どうしようもないな)」

実は、孫六温泉が休業していることをこの時初めて知った。せっかく湯めぐり帳を購入したのに、入れる温泉が五つしかないではないか。いや、五つもあれば十分だが。でも楽しみにしていただけに、ショックだった。川のせせらぎを聞きながら入る雪見露天に友人を案内したかった。乳頭温泉郷が初めての友人はそもそも孫六を知らないので、きょとんとしていた。

蟹場温泉に到着した。受付で湯めぐり帳を渡しスタンプを押してもらう。ここは、男女別の内湯と混浴露天がある。私「露天は今誰かいますか」受「いますよ」私「じゃあ内風呂に入ろう」受「廊下の向こうに、女性専用の露天、木のお風呂、石のお風呂の3つがあります」

女性専用露天は私たちの貸切だった。浴槽に湯の花が咲いて、気をつけないと滑りそうだ。温泉に身を浸し「はああああ〜」と幸せなため息をつくと、友人が笑う。目の前は雪に覆われた林で、鹿やうさぎが跳ねていそうだった。しかし湯が熱く、私は長く入っていられず友人より先に上がった。

どうせまた風呂に入ると適当に服を着て廊下に出ると、ご高齢の女性とその娘と思われる中年女性の二人組に出会った。「こんにちは。私たちは木のお風呂に入ってきて、これから石のお風呂に入るところなんですよ」「そうですか、私たちはこれから木のお風呂に入ります」こんな気遣いのあいさつを交わして次の風呂に行く。扉を開けると、なみなみとたたえられた湯に窓の光が反射して、浴室いっぱいに湯気が立ち込めていた。湯に迎えられたような気持ちになる。先ほどの露天よりはややぬるく、熱めが好きな友人は湯の出るところに、ぬるめが好きな私は離れたところに落ちついた。

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