見出し画像

不健全な夜のススメ

過去の思い出はただ美しくて、
今この現在はまだ何色なのかすらわからない。

会社で働き、多くの時間を仕事に費やす日々の中で、やりたいことが山ほどあって、やれないことも山ほどあって、それでも時間は有限で、やれなかったことを過去に求めたりなんかして、…あぁ不健全だねぇなんて思う。

もっと音楽を聴けばよかったし、もっと本を読んで、映画を見て、感情なんかぐちゃぐちゃにしてやればよかった。深夜の得も言えぬ高鳴りに身を任せて、バカみたいな文章を書いて、あなたに会えてよかったなんてポエムを書き殴ればよかった。黒歴史は骨を強くする、って誰かが言ってた。

一息ついた夜のひとときに、過去からいろんな後悔を引っ張り出してきて、感傷に耽る。心の棚の奥に大事にしまった本を取り出し、あの日の音楽をひとり、イヤホンで聴く。

この時間は何も生みやしない。ただただ不健全だ。

わかっている。それでも必要なのだ。いや、必要であると言いたいだけ。大好きだったあの頃は、いつかの身を裂くような後悔は無駄じゃなかったと、それらは今の自分を作り出した、良くも悪くも大切な時間だったのだと、そう自分に言い聞かせたい。そのための時間だ。

だから僕らは、過去を綺麗にするための、
そんな不健全な夜を過ごしてしまう。何度だって。

でもそれがいいんじゃないか。この不健全さこそが、ジタバタしながらも生きてきた証のように思える。「死」を前にしてみて改めて「生」を感じるように、あらゆる痛みの前に、自分だけの人生を肌に感じる。

僕らはそんな哀れな生き物だ。

思い出はどんどん綺麗になる。そしてこの現実は何色かもわからない。でもいつか、この無駄な夜のように今日を思い出して、少し意味を見出してあげたい。

…とはいえ、今日という日が思い出せないほどに、ただただ平凡であることが何よりも幸せなことなのだけれど。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?