見出し画像

抑圧を超えて紡がれるリトアニアの歌と踊り:無形文化遺産100周年に考える文化の継承


2024年6月29日から7月6日まで
リトアニアでは、ユネスコの無形文化遺産に登録
されている4年に1度の『歌と踊りの祭典』が
開催された。

1924年に開催された第1回目から
100周年ということで私の住むヴィリニュスでは
美しい歌声、伝統衣装に身を包んだ
リトアニア人の踊りで終日活気に満ちていた。

リトアニア人の歌と踊りを見ているだけで
心が震えるほどの感動を覚えた。

一方で、より詳細に考えてみると
リトアニアを含むバルト三国 にとって
1990年の独立まで、
この光景が当たり前では無かったことを
忘れてはならないと感じた。

50年以上ソ連による占領では、
言語、歌や踊り、文化芸術など多岐に渡り
抑圧にさらされていた。

つまり、ソ連からの圧政に直面した占領時代、
リトアニアをはじめバルト三国において、
それぞれの独自文化の消滅の危機にあった。

彼らは、大国の弾圧に歌と踊りで対抗し
文化を次の世代に歌と踊りを通じて
継承していった。

この祭典の最終日は、リトアニアに訪れた父
と彼の友人と3人でパレードを見ていた。

父の友人が
“みんな幸せそうだね。日本のお祭りでこんなに幸せそうに踊っているかな。”

とおっしゃっていたことが脳裏に浮かぶ。

バルト三国にとって、今があることが
決して当たり前ではない。

リトアニアの国旗に含まれる赤色は、
独立までに流した先祖の血を表現している。

だからこそ、大国の弾圧・圧政への対抗手段として
自由と独立に向けた市民運動として
歌と踊りを通じて、アイデンティティを表現し
文化を守り抜いたのだと痛感した。

歌と踊りは、平和的な・政治運動・市民運動の手段として用いられ独立を勝ち取った
『歌と革命』・『人間鎖の輪』に
派生したのだと揺るぎない確信を得た。

『歌と革命』・『人間鎖の輪』
1989年8月23日、バルト三国の住民約200万人が手をつなぎ、3共和国を結ぶ約600kmの人間の鎖を形成した。これは、ソ連からの独立を求める運動の一環として行われたデモンストレーションで、バルト三国の共通の歴史的運命を訴えるもので「バルトの道・人間鎖の輪」と呼ばれる。
バルトの道の際には、参加者が歌いながら行進し、ロウソクを持って民族の歌を歌った。この「歌の革命」と呼ばれる出来事は、音楽と歌が独立運動の原動力となったことを示している。
歌は、バルト三国の人々に勇気と希望を与え、民族の絆を強めるものとなった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%88%E3%81%AE%E9%81%93
Wikipediaより抜粋
バルトの道のモニュメント。ケディミナス塔の博物館にて

ソ連からの圧政に苦しみ、壮絶な時代だった1940~1990年まで
彼らは、禁じられた民謡を自由と独立の願いを込めて表現していた。

この祭典において、リトアニア人の老若男女全世代が参加していたことは、歌と踊りが
圧政を乗り越える最強の市民運動だったことを
記憶に刻み続ける
ためだったのではないか。

そして、いまのリトアニアの歌や踊りが継承されている過程は、様々な国でどのように文化が受け継がれてきたかを考えるきっかけになった。

リトアニアをはじめとするバルト三国では、
つい数十年前まで自由に自国の文化を楽しむことができなかった世代が今も生きている。

彼らの経験が、現在の『歌と踊りの祭典』の規模の大きさや感動的な雰囲気に強く影響していると考えた。

かつて抑圧されていた文化を、今こそ思う存分に表現できる喜びが、
祭典の壮大さとなって表れている。

彼らの笑顔で歌い・踊っている姿を見て、そう感じずらにはいられない。

一方で日本の文化の継承はどうだろうか。

昨今では、一部の伝統文化が高齢化や人手不足などの外的要因で継承していく難しさはあれど、
第二次世界大戦以降では
他国からの抑圧に晒されてはいない。

少なくとも、私は当たり前のように、
言語、食、仏教、教育、エンターテイメントなど日本の独自文化を自動ドアのように当たり前に触れる機会があった。

リトアニアの歌と祭典から
母国の文化に触れられる事が
どれほど尊い事を改めて感じた。

日本人の多くは、母国の文化との接点が当たり前である特権階級だ。

いま世界の様々な地域で紛争などの外的要因で母国の文化の接点の断絶に陥っている方々がいる。

例えば、私がインターン先で関わっているNGOで
支援をしているウクライナ人シングルマザーは、
3歳の息子がリトアニアで母国ウクライナの文化に触れられないことに強い危機意識を持った。

彼女は、その解決策としてオンライン書店を起業し、リトアニアにいるウクライナ人向けの絵本販売を通じて幼児の文化学習する機会を提供している。

他国の文化と接するとき、これらが過去からどのように継承されてきたのかを学ぶことが
いまの不安定な国際情勢化で大事なことだ。

なぜなら、過去から文化継承の過程を知ることは、
その文化を尊く、そして異文化を身近に感じる
きっかけになるかもしれないからだ。

この視点は、昨今の紛争の多発、政治的な問題など自分で変えられないことではななく
自分次第で理解度、物事の視点が
深まる(変えられる事象)である。

文化継承の尊さに想いを馳せると同時に
平和の灯は、武力ではなく市民運動で勝ち取るものだと心に刻むきっかけになった『歌と踊りの祭典』だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?