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懐かしさと恨めしさ

春は嫌いだ。別れの季節だから。
それなのになぜ春の匂いに懐かしさを感じ、気分が高揚してしまうのだろう。


3年前の今日、君は突然別れを告げた。
「遠距離恋愛できる自信がない。」
と申し訳なさそうに言った。

その日は高校の卒業式だった。
君は、やりたいことを見つけたから県外の大学へ進学すると言った。
なかなか言い出せなくてずっと僕に嘘をついていたらしい。

それもそのはずだ。
僕はやりたいこともないままテキトーに大学を受けた挙句、滑り止めの大学しか受からなかったのだから。

てっきり僕は君も地元の大学に行くと思ってた。
だから現実を受け止めるのに少し時間がかかった。

「遠距離でも大丈夫だよ。」

そう言おうと思ったが、僕は何も言えなかった。
君を安心させることはできないと思った。
君はモテるから、すぐに僕なんかより良い人が見つかるだろうと思ってしまった。

もう決めていたからなのか、僕に愛想を尽かしたのか、君はその場を去って行った。

それ以降、僕らは一切連絡を取っていない。

でも春の匂いを嗅ぐと、君のことを思い出す。
一緒に登下校したこと。一緒に出かけたこと。
些細なことで喧嘩したこと。

懐かしさですごく良い気持ちになる。
でもやっぱり春は別れの季節だから嫌いだ。
僕が春を許すことは永遠に来ないのだろう。