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雪に咲く一本のバラ

君のおかげで僕はスキーが上手くなったよ。
でも、いつも見てくれていた君はもういない。

君はその名の通り雪が好きで、毎年冬になると僕をスキーに連れ回した。

「ボードをやる人がいない方が安全でしょ!」

君はそう言って、スノーボードのできないスキー場にしか行かなかった。

そこは子供が多くて僕は少し恥ずかしかった。

君と出会うまでスキーとは無縁だった僕は、慣れるまでスキーが嫌いだった。

「板をハの字にしたら止まれるからねー。」

君はそれだけ言って凄いスピードで去っていった。

初めてスキーをする僕はそんなアドバイスだけで滑れるはずもなく、すぐに転んだ。

「どうやって立つんだよ。」
途方に暮れていたとき、君は戻って来てくれた。

「放って行くなよ。」
そう言おうとしたつもりが、君が戻って来てくれたことが嬉しくて、僕は怒れなかった。

それから君は自分のペースで滑っては、転んだ僕のところに何回も戻って来てくれた。

僕はなんとか君に追いつこうと必死で滑っていた。

何年か経った頃、スキーが少し上手くなった僕は、スノーボードをやりたいからと君をスノーボードも出来るスキー場に連れ出した。

スノーボードの方がカッコいいな。
ただの思いつきだった。
君が、スノーボードも出来るスキー場を避けていたことなんて頭になかった。

スキー場に着くと、君はいつも通り楽しそうに滑っていた。

僕はスノーボードの習得に夢中で、君のことをあまり見ていなかった。

なんか騒がしいな。

「事故があったらしい。」
「スキーの子とスノボの子がぶつかったって。」

周りの人のざわめきで僕は状況を把握した。

僕は必死に君を探した。
何も知らず、楽しそうに滑っている君を無理矢理想像しながら。
きっと大丈夫だと、自分に言い聞かせながら。

一番居て欲しくない場所に君はいた。
君はそこで美しく眠っていた。
真っ白な雪の中で真っ赤に染まる君。
その光景が信じられず、呆然と立っていることしか出来なかった。



君が居なくなって何年かが経った。
もうスキーなんてやらないと思ってた。
でも君の好きなこの場所なら、また君に会えるような気がした。
君とよく来たスキー専用のスキー場に、やっと来れるようになった。

君は、リフトに乗ると僕との会話より、落ちているストックの本数を数えることに夢中だったね。

「12本落ちてるよ!!」
「私達も落としたら16本になるね!」

そう言って笑っていた君が、今ではすごく懐かしい。

リフトに乗ると君の楽しそうな姿を思い出す。

君との思い出を振り返りながら、数えてみたら14本あった。
きっと君が落としに来たんだね。



そのスキー場には真っ赤なバラが咲いていた。
その日の終わりに落ちていたストックは16本だったという。