台風の翌朝に感じる日常は、いつものそれとちょっと違う

台風がきた翌朝の街の雰囲気がなんとなく好きだ。

ここでいう台風はもちろん甚大な被害をもたらすようなものではなく、小型で雨風はそこそこの強さのものだ。これまで自分は台風によって特筆するようななにかしらの影響を受けたことがないし、今回もまたそうだったからこうやって思えているということは重々承知している。毎年台風によってなにかしらの被害を被っている人がいるにもかかわらず、こんなテーマで書くのはいかがなものかと思う人がいるかもしれないが、もしかしたらあの街の雰囲気を理解してくれる人がいるかもしれないと思って書いてみることにする。


私はいま、ベトナム中部の街・ダナンに住んでいる。
ダナンはいま、乾季の真っ只中。体感気温は40度を超えているんじゃないかというくらい暑く快晴な日が多い。コロナウィルス第二波の影響で1ヶ月ほど続いたロックダウンがやっと先週に緩和され、段々と街も日常の雰囲気を取り戻しているところだ。


そんな9月18日、ベトナム中部に台風がやってきた。

私にとっては、ベトナムで経験する初めての台風である。それまでじりじりと肌を焼くように太陽が照りつける暑い日が続いていたが、前々日から風は少し冷たくなり、前日には雨が降り始めた。
当日は明け方からぽつぽつと降り始めた雨は時間が経つにつれ強くなり、時々雷の音もとどろかすようになった。そうかと思えば、昼前にはまた雨脚は弱くなり少しだけ空が明るくなる。

ーああ、台風の天気だ。


ダナン、もといベトナムはバイク社会で、ベトナム人は雨の日も風の日もバイクで移動する。私はバイクの免許を取得するタイミングを逃し続け、いまは自転車で生活をしている。もちろんバイクの方が便利だが、正直なにがなんでも乗り換えたいという気にはなっていない。ダナンは舗装されている道も多いので自転車でどこまででも行けてしまうし、のんびりとした空気が漂うビーチリゾートの街中を自転車でのんびり進んでいく時間がなんとも贅沢に感じられ結構気に入っているのだ。

そんなわけで私は雨の日も風の日も自転車で移動する。運がいいことに仕事終わりの時間には雨はあまり強くなかった。いつもとはちょっとだけ雰囲気の違う道を雨脚が強くなる前に…とスピードを上げて帰宅する。いつも路上で魚や野菜を売っているおばちゃんの姿はなく、道沿いに置かれている大きなゴミ箱はどこかへ移動され、木々の枝は丁寧に切り落とされていた。街が非日常への備えをしていた。


天気予報ではその台風は9月18日の夕方頃にダナンに近づくはずだったが、予報が正確でないのか、少しスピードを速めたのか、台風は未明から朝にかけてダナンにやってきた。前日は疲労困憊で夜9時頃には寝てしまったのだが、夜中に強い雨の音で目が覚め、その後も何度か雨音で起こされた。
朝7時、仕事のために起床。外はざぁーざぁー降りの雷雨だったが、会社からは前日の段階でリモートワークの指示があったので問題はない。ぼーっと起きぬけに窓の外を眺めてみる。何度も何度もピカっと空が光って、数秒後、街に轟音が響いていた。

いつも通り電気をつけられたことに驚いたが、朝ごはんを食べ終わり歯を磨いていると突然部屋は暗くなった。窓の外は文字通りの暴風雨で、大量の水が窓ガラスに打ち付けている。まるで洗車をしている車のなかから窓の外を眺めているような気分だった。

午前10時になると雨はパタッとやんだので台風の目に入ったのかと思ったが、雨が再び降り始めることはなかった。昼ごろには電気も復旧し、そのまま何事もなく一日が終わった。



そんな台風の日から一夜明けた今日9月19日は土曜日だ。
台風一過とは言えないが、ものすごい量の雨が打ちつけられていた窓からは、時折日差しがさしこんでくる。今日も朝6時頃からいつもどおり、人々の会話や通りを抜けるバイクの音が聞こえてきた。

用事を済ませるために今日は朝一で街へ出掛けた。パティオまで広げられたローカルカフェはにぎわい、おばちゃんは道端でバインミーの屋台の準備をし、どこかに片付けられていたゴミ箱はもとの場所に戻ってなんともいえない臭いを発していた。


ー日常だ

でもいつもどおりの日常なのかといえば、実はちょっとだけ違う。
なんだか街全体が少し気だるく、みんなスロースタートな雰囲気なのだ。


この「ちょっぴり気だるい朝」が私はこのうえなく好きなのだ。
いつもの街の風景とは、ほんの少し違うだけ空気感。
そして、ゆっくり、ゆっくりといつもの街の日常に戻っていく時間。
…台風が過ぎ去った次の日はいつもこんなことを思う。


信号待ちをしながら空を見上げると、トンボが2匹飛んでいた。
ダナンでは台風が2つ通り過ぎると雨季が始まると言われているらしい。
季節の変わり目は、もう目の前まできている。


用事を済ませ、チキンカツサンドが入った、お気に入りのベーカリーの袋を自転車にぶら下げて家に戻ってきた。いま、私はジンジャーティーの湯気がゆらゆら揺れるカップに時折手を添えながら、このnoteを書いている。
さぁ書き上げたらランチにしよう。


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09/22追記
今回の台風はダナンからはそれましたが、同じくベトナム中部の都市フエあたりに上陸し、予想進路と異なるため別都市ではあまり準備をしていなかったためか、とても被害があったようです。
お見舞い申し上げると共に、被害にあわれた方々が一日も早く元の生活に戻れるようお祈りしています。

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