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生物多様性の恩恵は、失われてはじめて気づくもの| エシカルフードインタビュー 藤田香さん

こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」公式note担当の東樹です。

今回は、ラボの活動に有識者として参画されている、東北大学大学院生命科学研究科教授の藤田香さんへのインタビューをお届けします。SDGsやESGをベースにした企業の生物多様性・自然資本経営や地方創生がご専門の藤田さんに、「生物多様性と食」のつながりについて、お話を伺いました。

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藤田香さん(東北大学大学院生命科学研究科教授、サステナビリティの編集プロデューサー)
北アルプスの麓で魚がおいしい富山県魚津市の出身。生物多様性や自然資本、地方創生、SDGsとビジネスや金融などをテーマに東北大学で教育や研究に従事している。東京大学理学部物理学科卒。日経BPに入社し、ナショナルジオグラフィック日本版副編集長などを経て、サステナビリティの経営誌「日経ESG」のシニアエディターを務める。故郷の富山でも大学で教鞭をとっている。環境省中央環境審議会委員、ネイチャーポジティブ経済研究会委員。

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ー 最初に、藤田さんが「Tカードみんなのエシカルフードラボ」に参加された理由をお聞かせください。

私は、雑誌の編集者・記者として、「企業はどのように生物多様性に配慮するべきか」というテーマを長らく追っています。そうした中で、「生物多様性に配慮した食品」に興味を持ち、気候変動や食品ロスといった問題を踏まえての「サステナブルな食のあり方」にまで関心が及ぶようになりました。

私自身はこれまで「エシカルフード」という言葉は使ってきませんでした。「エシカルフード」というと、「フェアトレード食品」など一部のテーマに限定されてしまうように思えたんです。なので「サステナブルフード」と呼んだ方がしっくりくるんですね。

ただ、ラボリーダーの瀧田さんとお話をしたところ、ラボで取り扱うのは狭義の「エシカルフード」で想起されるテーマだけではなく「サステナブルな食」そのものであることがわかりました。「サステナブルな食」をCCCという大企業が中心となって消費者に普及させていく、というのは面白い取り組みであり、いい機会だと思ったので参加しました。

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ー 藤田さんが追っていらっしゃる「生物多様性」とは、どのようなテーマなのでしょうか?

ラボで扱うのが「エシカルフード」なので、食品会社にとっての生物多様性の話をしたいと思います。

食品会社はものづくりをしますが、その過程で排気や排水、廃棄がありますよね。ものづくりは、生態系のネットワークに影響を及ぼします。もちろん各社は環境基準を満たし、法規制を守りながら操業しています。

こうした製造段階や後工程だけではなく、現在「生物多様性と企業」というテーマにおいて重要視されているのは、調達段階、すなわちサプライチェーンの上流部分です。日本は自給率が低いので原材料を海外から輸入している比率が高いのですが、海外で原材料を生産する時にどれだけ生態系への負荷があるのか、ということが問題になります。

たとえば、使用している企業が多い原材料の一つ「パーム油」の問題があります。パーム油は、様々な生き物が暮らす熱帯雨林を切り開いて農園をつくる、という問題をはらみながら調達されています。

サプライチェーンの最上流に目を向けると、消費者が知らないところで生物多様性が損なわれていることがわかります。そこに配慮しながら企業は調達する必要があり、そうした取り組みをしている企業も増えつつあります。それは、食品会社に限らず、エネルギー関連企業や自動車会社などでも同じです。企業と生物多様性は、どのような業種でも密接に関係しているんです。

ー 生物多様性が損なわれると、サプライチェーンの最下流にいる消費者にはどのような影響があると考えられますか?

マレーシアやインドネシアでは、パーム油を調達するために森林を切り開き、アブラヤシ農園を開発したことで、オランウータンが生息地を奪われています。ですが、マレーシアやインドネシアの人々にとって、オランウータンがいることがいいことなのかはよくわかりません。それよりも、経済的に豊かになった方がいいという考え方をする人もいるでしょう。ましてや、日本の消費者は、直接的な被害は何も感じていないかもしれません。

ですが、普段私たちは、土砂崩れの防止や気候調節など、生態系が与えてくれる様々な恩恵を見えないところで受けています。それで暮らしが成り立っているということに、生物多様性が失われて初めて気づくんです。

頻繁に水害が発生したり、土壌が流出したりして作物の生産が不安定になると、企業の持続的な原材料の調達は難しくなります。調達が不安定になれば製品を作りにくくなりますし、品質を保って安定的に製品を提供することが難しくなります。結果、消費者はその製品を買いにくくなりますよね。

そうした状況の裏には、知られざる生物多様性の問題がある、ということです。オランウータンがいなくなることによる消費者への直接的な被害はないかもしれませんが、生物多様性が損なわれることで、商品価格が変動し、品質のよいものを安定的に買うことができなくなり、やがては食べられなくなるという問題にもつながっていきます。

また、この問題は「生産地で暮らす人々が被害を受けているということを、私たち消費者がどう感じるべきか」という話でもあります。地球人口は、これから100億人になろうとしています。そうすると、食べられる人と食べられない人が出てきます。生産地の自然から搾取し、そこで暮らす人々の人権を侵害しながら、先進国の富める人たちだけが食べ続けていてもいいのでしょうか。消費者はそういうことも知る必要がありますよね。

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ー 企業の活動が生物多様性にどのような影響を及ぼしているか、消費者が知る術はありますか?

最近は、パッケージに原産地を記載している食品会社も多いですね。QRコードを読み取ると、農家さんの顔がわかるようなパッケージもあります。また、レインフォレスト・アライアンス認証マークがついた食品も増えてきています。レインフォレスト・アライアンス認証マークがついていると、基準に従って森林を守るなどの配慮がされている食品であることがわかります。

アンテナを立てていれば情報を得ることができます。生物多様性などの問題に関心のある方は、まず買ってきた商品のパッケージをよく見てみてください。産地はどこなのか、どのような認証を取得しているのか。そういった情報を参考にしながら、食品を選んでいけるといいですね。

一方、関心がない消費者には、今回の「Tカードみんなのエシカルフードラボ」が検討しているスコアを付与するという取り組みは有効な気がします。スコアがたまることで、自分が知らずにサステナブルな食品を選んでいたことに気づくきっかけになります。

ー 「生物多様性」の問題に関心を持ってもらうためには、世の中に対してどのようなコミュニケーションが必要だとお考えですか?

現在の食品業界では、先進的な企業が「トレーサビリティ」の管理に力を入れています。ブロックチェーン技術で情報を書き込んでいき、それを消費者がQRコードから参照できるようにしている企業もあります。

また、国も同様の動きをしており、たとえば、2022年12月までに施行されることが決まっている「水産流通適正化法」では、魚がどこで獲られてどのように流通してきたか、漁獲番号をつけて遡れるようにしようと試みています。背景には、違法漁業の増加があります。

そのようなサプライチェーンの情報を、誰もが気軽に見られるといいですよね。「生物多様性への配慮」という面ももちろんですが、より広く関心を持ってもらうには、生産者さんの個性が光ることが重要だと思っています。どのような想いで生産し、そこにはどういった苦労があったのか。生産者さん自身の物語を知れる仕組みがあれば、共感が広がっていくはずです。

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■ Tカードみんなのエシカルフードラボ

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