見出し画像

アニマルウェルフェアの「アニマル」とは|「エシカルフード基準」づくりの裏側 vol.5

こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」公式note担当の東樹です。

エシカルフードの有識者12名と対話を重ね、2022年3月30日にラボが発表した「エシカルフード基準」。約1年かけて、「エシカルフード」を定義し、「どの食品がエシカルなのか」を示すための基準を策定しました。

国内において先進的な取り組みと言える基準の策定にあたって、運営面ではどのような課題や工夫があったのでしょうか。ラボの運営事務局の皆さんに「基準づくりの裏側」をお聞きしていきます。

今回は、ラボリーダーであるCCCMK ホールディングス株式会社の瀧田さんと、株式会社フューチャーセッションズの有福さん・芝池さんへのインタビューをお届けします。基準を策定するにあたって、検討が難しかったテーマの一つが「アニマルウェルフェア」だったと言います。対話の中で、どのような論点が生まれたのか、詳しく伺います。

・・・

「動物」の定義とは

ー 「エシカルフード基準」には、「アニマルウェルフェア」をどのように取り込みましたか?

(有福)
基準の項目として、「動物の権利」「動物実験」「工業的畜産または集約的畜産」を設けています。

(瀧田)
ベースにあるのは、動物の5つの権利です。

1. 飢えと渇きからの⾃由
2. 不快からの⾃由
3. 痛み・傷害・病気からの⾃由
4. 正常な⾏動を表現する⾃由
5. 恐怖や抑圧からの⾃由

「エシカルフード基準」より

この権利に則ると、工業的畜産や集約的畜産は避けた方がよいのですが、日本においてそれはなかなか現実的ではないかもしれない、という話も対話の中では出ました。

まだ基準に落とし込めていないのは、野生動物のことです。ラボでは、ジビエの利活用についても深く議論をしました。この時の議論は、強く印象に残っています。

議論を経て、「アニマルウェルフェアの"アニマル"とは、どこまでが対象となるのだろうか」ということについて、もやもやを抱えるようにもなりました。一般的には、家畜などの四足動物が対象という風に捉えられていると思うのですが、世界ではイカやタコなど、四足動物以外も対象とする動きもあります。元々欧米では、クジラやイルカを特別に保護したりもしていますよね。

(芝池)
「エシカル」という言葉と同様、「アニマルウェルフェア」も外来語であるところに難しさがあるのかもしれません。日本の中で自然発生的に生まれてきたというより、海外で、特に欧米でその必要性が叫ばれてきて、日本も「追いつかなきゃ!」という考えから議論を始めている状態だと思います。

だからこそ、アニマルウェルフェアを論じる時にどこまでを動物とするか、という範囲は、欧米の感覚と、日本人が持っている感覚との間にギャップがある気もしています。日本人には「命をいただきます」という価値観があって、すべてに感謝をする文化なので、四足動物だから他と区別する、知性があるから他と区別する、みたいな考え方はあまりしないのではないでしょうか。

事務局では、アニマルウェルフェアについて考える中で、「ここで言う動物の範囲ってどこまでなんだろう」という話を何度もしました。欧米の価値観では、「痛みを感じるのか」「知性があるのか」といった、人間と近しい動物を対象範囲にしているような印象を受けることがあって、そこについて疑問を感じ、事務局内で議論を重ねたことを覚えています。

芝池さん

(瀧田)
実際に、採点する企業さんの側から問われたこともあります。「エシカルフード基準」は企業さんが自己採点をする形になっているのですが、たとえば、お魚を扱う企業さんは、お魚を対象にしてアニマルウェルフェアに関する項目の採点を行なっていました。

「エシカルフード基準」は、イギリスの「Ethical Consumer」をベースにしているので、基本的には、欧州の考え方を踏襲した項目になっています。ですが、「動物」を具体的に定義しているわけではないので、その対象範囲は受け取る側によって様々なのだ、ということに改めて直面しました。

ー 「アニマルウェルフェア」を定義する以前に、「アニマル」の定義にも難しさがあるのですね。

(有福)
そうですね。ラボが扱うのは「エシカルフード」なので、「食べ物になる畜産に絞る」といった定義はできるかと思います。食べ物以外まで話を広げると、「動物園がよくない」といった議論がされていたりして、どんどん論点がズレていってしまいます。

瀧田さんの話にもありましたが、では、食につながるという理由から畜産に絞ろうとなった時に、魚はどうするのか?ということが次の論点ですよね。科学の進歩によって、動物にも痛覚がある、昆虫や植物にもある、ということが言われるようになりました。痛覚を感じるのであれば、魚も対象になるのか?などのテーマは、ラボの中だけではなく社会的にもっと議論がなされてもいいように思います。

有福さん

(瀧田)
昨年、品川エトワール女子高等学校でも、エシカルフードに関する対話を行ないました。

その時に、一人の高校生が言っていたことが印象に残っています。彼女は、「そのうち私たちが昆虫を当たり前のように食べるようになったら、昆虫1匹あたりの飼育面積なんかも、きっと決めていくんですよね」という話をしていたんです。確かに、昆虫食が当たり前になれば、昆虫も食べ物につながる「アニマル」と言えかもしれませんし、難しいですよね。

(有福)
自分自身は、食べるものを動物、昆虫、植物、魚とわけて考えることはあまりしないので、動物にだけ特別な権利があることは不思議に思えます。権利を主張するのであれば、すべてに権利があるよ、という方が感覚的にわかるんです。

アニマルウェルフェアについては、動物はかわいそうだからとか、守られる対象としての見え方になってしまうことに違和感があります。あらゆるものの権利を尊重していくのがエシカルの理想像だとすると、昆虫や植物にも権利があるという考え方の方がしっくりきます。そういった意味では、アニマルウェルフェアは発展途上の概念だとも思っています。

(芝池)
やはり、どこまでを動物として捉えるか、に幅があるということが難しさですね。私自身は、生きとし生けるものすべてが「動物」なんじゃないかと思っています。

日本ではどう考えていくか?という議論はまだ発展途上で、「動物」の定義について何かを参照したくても、文献もなかなか見つけられない状態でした。また、欧州ではどういったところまで議論がされているのか、情報を知りたいと感じました。

(瀧田)
この1年ぐらいの間に、イギリスでは「感覚を持っているエビ、カニ、タコを生きたまま茹でてはいけない」という発信がされていたりします。海の世界にも、そういった発想が広がっているようです。

そういった情報をもっと知りたいですし、従来の欧米的なアニマルウェルフェアの考え方を自分のものとして持っているような国の方々と日本人とで、対話もしてみたいです。 

瀧田さん

・・・

■ Tカードみんなのエシカルフードラボ

■ 公式Twitterでは、「エシカルフード」に関する情報を発信中!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?