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金融機関の新メディア戦略━━SMBC日興証券が他社を巻き込み、noteコンテストを開催したわけ

最近、企業がSNSやプラットフォームをオウンドメディアとして利用し、自社の情報発信をする動きが増えています。このようなオウンドメディア戦略は、主に生活者向けの製品を提供するメーカー企業に多い取り組みです。では、金融機関は、どのようなメディア戦略が可能でしょうか。

SMBC日興証券株式会社(以下、SMBC日興証券)の運営するメディア「Money for Good」は、noteで「推したい会社」というテーマで、推している会社やその製品・サービスの魅力についての投稿コンテストを実施しました。

コンテストを通じて、金融機関も、工夫次第で生活者ともっとつながることができると確信した、同社の伊藤いとう直子なおこさん。その真意とはーー?本企画を推進した伊藤さんに詳しくお話を聞きました。


コンテストは“目指す世界観”をつくるための第一歩

——SMBC日興証券はnoteでオウンドメディア「Money for Good」を展開していますね。まずはどんなメディアなのか、教えてください。

伊藤さん 「Money for Good」は社会をよくするお金の循環を共につくるため、様々な情報をお届けするメディアです。

こんにち、SDGs(持続可能な開発目標)というワードを聞かない日はありません。持続可能な社会の実現のために頑張っている人や企業を応援したいという想いから、立ち上げたのが「Money for Good」になります。

——なぜnoteでオウンドメディアを立ち上げたのですか?

伊藤さん 一から自社でオウンドメディアを立ち上げるよりも、既に利用者が多く集まっているnoteを使うことで、素早い立ち上げを図ることができるのではと考えました。

Money for Good / SMBC日興証券株式会社
Nikko Open Innovation Lab 副部長の伊藤直子さん

——「Money for Good」ではメディアを立ち上げた後、「推したい会社」というテーマを掲げ、noteで投稿コンテストも実施しました。コンテスト開催の意図を教えてください。

伊藤さん 「Money for Good」では、個人が企業などを応援するための「お金の使い方」を発信しています。お金を使う対象のひとつと言える「推し企業」への想いを生活者に語ってもらい、ゆくゆくはコミュニティーを形成していきたい。その世界観をつくるための一歩として、クリエイターの方々とご一緒したいと考え、コンテストの開催に至りました。加えてコンテストを通じて、自社メディアの認知度を高めたいという目的もありましたね。

賛同企業を巻き込む異例のコンテスト。投稿テーマに込めた想い

——自社のファン拡大やコミュニティーづくりの施策は一般的によくありますが、「推したい会社」というテーマで、応援対象を企業全般にしたのは大変ユニークですね。

伊藤さん 当社は証券会社です。お金を使って企業に「投資」することも、企業を応援するひとつの手段だということを、多くの人にアピールしたいと考えていました。

ただ投資は、なかなかハードルの高い印象をもたれることもあります。どのようなテーマであれば読者が会社への投資を身近に感じ、共感してもらえるかを考えた結果、たどり着いたのが「推したい会社」というテーマでした。

——自社でなく「他社を推す記事を募集する」という点に関して、社内で反対意見などはありませんでしたか?

伊藤さん 全くありませんでした。私たち証券会社にとって、お客様は個人の方だけでなく、事業会社や機関投資家も含まれます。他社を応援しサポートすることは、むしろ証券会社本来の姿だと言えますから。

——記事の審査では、賛同企業3社に加わってもらうなど、他社を巻き込んだコンテストだったのも特徴的です。なぜ他社も巻き込んで、審査をされたのでしょうか?

伊藤さん 「Money for Good」のコンセプトの一つとして「共創」、つまり共に創るを掲げています。そのため、もともと他社とコラボしたいと考えていました。持続可能な社会をつくるためには1人、1社の力でどうにかなるものではありません。

また多様な視点を取り入れることも大切で、例えばサステナブル・ラボ株式会社(賛同企業の1社で、企業のESG/SDGs貢献度を可視化した、国内最大級の非財務データバンク)であれば数値を使った「見える化」など、各社が異なった観点で記事を選ぶことができました。

実際に行われた審査会の様子

推す人と推された企業を「つなぐ」、新たな化学反応

——23年7~8月にnoteで記事を募集し、993件の応募がありました。9月に審査を実施し、13本が入賞しましたね。多くの作品を読まれた感想はいかがですか?

伊藤さん 全ての作品を拝読しましたが、それぞれに作者の強い想いが込められており、感動して涙が出るほどでした。

——社外からの反響はいかがでしたか?

伊藤さん SNSでは多くの方からポジティブな反応をいただき、大変うれしく思いました。特に「推したい会社」としての記事が、実際に推されている会社側に届き、ご本人たちから反応を得られたのは良かったです。

——例えば、酸素ボンベの管理を通じて母親の命を長年守ってくれている帝人ファーマ株式会社への感謝をつづって入賞した「母の呼吸をつないでくれる人たち」の記事。この記事は、帝人ファーマのX(旧Twitter)公式アカウントによってシェアされ、企業側からも「患者さんやそのご家族に寄り添う会社でありたいと改めて感じました」とのコメントがありましたね。

伊藤さん 私たち証券会社の本質は、人とお金、企業と企業、企業と投資家などをつなぐことです。今回クリエイターさんたちと企業を、SNSを通じてつなぎ、新たな化学反応も起こせたのがうれしかったですね。「つなぐ」というのは、やはり私たちの仕事のキーワードだと痛感しました。

フォロワー数が増加。企画へのポジティブな反応も

——SMBC日興証券のnoteやSNSアカウントへの影響はありましたか?

伊藤さん 実際にフォロワー数は伸びました。かなり硬いテーマのコンテストでしたが、クリエイターさんたちにも積極的に投稿していただいて、数値的にも満足のいく結果が得られたと思います。またSNSで「いい企画だね」と評価する声もいただいて、胸が熱くなりました。

コンテスト開始前は「この商品が好き」「あのブランドが好き」といった内容の記事が多くなるのでは、といった懸念もありました。実施してみると、推している企業の経営理念やサステナビリティにまで言及している記事がとても多かったです。企業の社会的価値創出に対して、書き手の関心が高まっていると知ることができたのも収穫でした。

——例えば、グランプリを受賞した「ワーママの味方 子どもの発熱で困ったときの『マザーネット』」は、病児保育を手掛ける同社サービスの具体的な強みや感謝の想いを、働く母親の視点から丁寧につづっていますよね。他にも老人性難聴、環境に配慮した歯ブラシなど、社会性の高い企業の製品・サービスを評価する記事が多く寄せられました。

伊藤さん 社会的価値を生み出す企業に注目し、投資することが、その企業を応援する手段のひとつだと発信してくれた記事も多くあり、本当に期待していた以上の成果だったと思います。

コンテストは企業が個人とつながるひとつの手段

——今回のコンテストで特に工夫した点はありますか?

伊藤さん noteの「Money for Good」アカウントで、応募作品をピックアップして、度々ご紹介したことです。当社はコンプライアンスがかなり厳しいのですが、それでもクリエイターさんとの相互コミュニケーションを活性化させたいという願いから、この取り組みを実施しました。クリエイターさんからもSNSなどで「応募作をしっかり読んで、評価してもらえた」との喜びの声をいただきました。

——今後、他の企業もSMBC日興証券の取り組みを参考にして、noteで同様のコンテストを行う動きが出てくると思います。そういった企業の方々に向けて、何かアドバイスはありますか?

伊藤さん 今回、金融機関も、工夫次第でもっと生活者とつながることが可能になると実感できました。特にユーザーのリアルな声を聞く機会が少ない企業は、コンテストを試してみるとよいのではないでしょうか。

BtoB企業など、直接の顧客でない個人向けにPRのリソースをかけるのは難しいと思います。自社メディアを活用した集客も容易ではないでしょう。しかし、今回のようなコンテストは、個人を取り込み、企業の認知度を高める効果的な手段になると感じました。

——最後に「Money for Good」のnoteアカウントを活用して、これからやっていきたい取り組みがあれば、教えてください。

伊藤さん 今後もnoteを通じて、社会的課題に関心を集められるようなコミュニティーをつくりたいと思っています。今回のコンテストのように「会社を推す人」と「推された会社」をつなげるような活動を続けていきたいですし、企業間のコラボレーションや個人と企業をつなげる取り組みをさらに広げていきたいと思っています。

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