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感染症病棟〜新型コロナウイルスが変えたもの〜⑫

面会禁止


毎日の業務に疲弊していた頃
祖母が入院したと叔母から連絡があった。


祖母はここ数年、何度も入退院を繰り返したが
今回は厳しい状況であると説明を受けたそうだ。


(最期…会えるだろうか)
その頃の新型コロナウイルスの感染状況はやや落ち着いていた。
そのため、病院によっては時短での面会を許可しているところもあった。

「叔母さん、面会って制限あるの?」そう尋ねると
叔母は言い出しにくそうにこう告げた。

「…あのさ、ぽろっと言っちゃったのよ。夕ちゃんが看護師でコロナ対応もしてること。そしたら面会はちょっと…て言われちゃって…ほんとごめんね。だから何あっても子ども世代だけにしてくれって…。」そう言われた。

「わかった。仕方ないね。連絡ありがとう。」と言って電話を切った。


電話を切って、ふと考えた。
新型コロナウイルスが猛威を振るってから
当たり前のように患者家族に面会制限を伝えてきたけれど
こんな気持ちだったのかと。

新型コロナウイルスさえなければという悔しい気持ちと
最期の時くらい融通効かないものかなという悲しい気持ちが交錯していた。


看護師として、病院の決まりとして
感染拡大を防ぐためには当然制限が必要と思っているのだが

その一方で
1人の人間として最期の時くらい、会いたい人に会わせてあげたいなという気持ちが働いた。


矛盾しているかもしれない。

だが、その人の人生ということを考えた時に
果たしてこれでいいのだろうかと悩んだ。

情けないことにこの立場に直面して
そのことに気づいたのだ。


業務に追われて大切なことを見失ってる気がすると感じた瞬間だった。


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