恋綴り(ショートストーリー)

「ふーちゃん、最近なんか変わったよね。なんだろう……なんか遅く来た反抗期って感じ」

話そうと思ってたわけでもないのに、思わず私の口からでた話題だった。

男子の反抗期っていつ頃なの? という同僚の愛梨の問いに「分からないけど大体中学頃じゃないの? もう24だよ?」と返す。

「でも颯太くんて、私初めて見た印象チャラいしなんかすかしてるし近寄りがたしって感じだったよ。それでいてちょっと陽キャってところがなんかちょっと苦手なの」

……言ってくれるね。内心穏やかでない私の気持ちを煽るように愛梨は喋り続ける。

「理人くんとは部署が同じだから仲良いみたいだけどね。颯太くんと二人で大人気だよ。タイプでどっち派で分かれるみたい」

……違う。本当は大体みんな理人くんが好きなんだ。似たような身長で違うタイプのイケメンだから皆盛り上がってるだけ。それに正確に言うと、ふーちゃんの顔はイケメンじゃない。

勝手に理人くんのお飾り扱いにしないで?

ふーちゃんは誰よりも優しいんだから。

私はふーちゃんに救われた。ふーちゃんだけだった。今回の、世界中で広まったこの悪しきウィルスに怯えながら出社しないといけなくて、本当に心が折れそうでどんどん気持ちもダークになって、他人に呪いの言葉を吐き出しそうだったときに「俺らのためにありがとうな」って言ってくれたのは。

まるで張りつめた糸にゆとりを持たせてくれたみたいな。冷えた心にお湯を注いでくれたみたいな。

なのにふーちゃん、上部だけでレッテル貼られて私が悔しい。

「颯太くん、下ネタ女性の前では少し控えたら? 引かれるかもよ。モテたいんでしょ?」

と、私がアドバイスしても、

「そうやって固いこと言うの子供っぽいね。いいじゃねーかよ? 場の盛り上がる空気ってに合わせてるだけだよ。それに女の子にエロを全く出さないなんて! そっちが失礼かなってさ(笑)」

なんて、ふーちゃんはたまに昭和の男みたいなこと言う。このご時世では女性軽視と言われてしまう。本当はもし彼女がいたら凄い優しいんだろうって分かってるけれど。ふーちゃんにとって女性は絶対守るもので、絶対的に自分に甘えてもらいたいんだ、きっと。

ふーちゃんに恋愛対象に思ってもらえるにはどうしたらいいかなって考える。そう、あの女(ヒト)みたいに。今年の夏も海に行くのかな?

私はちょっとツラい。ふーちゃんがあんなに分かりやすくモテモテの美人でスタイル良くて、地位もあってとにかく男性に人気の女性好きなのは、なんか納得いかない。

ふーちゃんは、繊細で少し変わり者で、取り柄と言ったら例えばおっぱいが大きいことっていう感じの女の子を好きでいてほしい。私の願望。

私はどっちにも当てはまらないんだけど。

去年の冬、バレンタインのチョコをあげた。チョコがおまけのような感じ。メインは消耗品としては高価なボディーソープ。ネットや口コミで、他にも高級ティッシュとかルームフレグランスとか念入りに探して、香りもこれだ!っていうの探して。試しに自分でも使ってみたんだよ。

消耗品に拘ったのは重く思われないため……。消耗品でも印象に残るものにしたかったの。香りを思い出すような、でも使い終わっても忘れないような。同時に私のことも思い出してほしいな、って。

私が愛梨に聞いたのは、ふーちゃんが何個か貰ってたチョコを見つめながら、

「……これ、全部本命だと思っていいの……?」

って言ってたことらしくて凄く笑った。

私たちには「あー、もう申し訳ない。気を使ってもらっちゃって」なんて言ってたくせに。

ふーちゃん、やっぱり凄い喜んで、友達とかにも話したでしょ。こういうのって良いよね~!ってニヤつきながら。私の名前は言わなかっただろうけど。

ふーちゃんが、なかなかあの女(ヒト)に想いを伝えないなら私は想いをはっきり伝えるよ。

例え、見つめていられる期間があと一ヶ月でも。ふーちゃんが東京離れても夢応援するし。

だからお願い、私のそばにいて。あなたが好きだから。



















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