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マーケティングにAIを実装する_ハーバードビジネスレビュー

 この記事は、ダイヤモンド社が発行するビジネス誌”ハーバードビジネスレビュー”の特集を取り上げて、ざっくりと紹介するものです。2021年9月号は「マーケティングにAIを実装する」というテーマでした。中でも「AIへの投資を利益につなげる方法」という論文を中心に取り上げていきます。

「マーケティング✖️AI」のポテンシャルは高いけれど・・

 特集を通じて、マーケティングにAIを取り入れて大きな成果を出している事例がたくさん紹介されています。しかし、実はある調査によると、AIに投資した企業のうち、その成果として事業利益を得たと答えた企業は40%しかないという結果になりました。AIに投資をしたけれど、半分以上の企業は思うように成果に結びついていないのです。

 どうしてAIへの投資を成果に結びつけることが難しいのか?結論を言うと、AIの導入を成果に結びつけるのが難しい理由は、

「AIの技術がどんなに発達しても、それを使うのが人間だから」

残念ながら、人間側がAIというツールをなかなか使いこなせないのです。どういうことでしょうか?もう少し丁寧に見ていきましょう。

筆者は色々な事例を調べ、具体例と共に、よくある失敗の原因を3つ紹介しています。

 ある大手電気通信会社でマーケターらが顧客の解約を減らそうとして、どの顧客が最も解約しそうかについて、人工知能(AI)を使って判断することに決めた。AIの予測を武器に、解約リスクの高い顧客を中心にプロモーションを仕掛け、解約を思いとどまらせようというのである。しかしこのリテンション(顧客維持)キャンペーンにもかかわらず、多くの顧客が解約してしまった。なぜか。 

1.問いが間違っている

 上の通信会社の例では「解約しそうな顧客」をAIを用いて明らかにしました。彼らに対してキャンペーンを打った結果、あまり効果は上がりませんでした。キャンペーンを受けたかどうかに関わらず、何らかの事情で解約する人はいます。本当に知りたいのは「プロモーションに反応して解約を思いとどまる可能性が高いのは誰か」や「プロモーションの予算をどのように配分するのが効果的か」というような問いでした。AIで導き出す問いの立て方が甘かったのです。

2.「AIの正確性を上げる=業績アップ」ではない

 2つ目の失敗の原因として、AIの正確性を向上させることが必ずしも業績アップにつながらないという点があります。例えば、ある消費財企業は、販売量予測システムのエラー比率を25%から17%に下げることに成功しました。しかしその結果、会社の業績は下がりました。なぜなら低利益率製品の正確性が増した一方で、高利益製品の正確性が落ちていたからです。全体として予測システムのエラー率は下がりましたが、利益も下がってしまいました。このような罠に気づかず予測の正確性の数値を追い求めてしまう事は、よくある落とし穴です。

3.AIの予測を意思決定に活かせていない

 AIを使い、正確な予測ができるようになったとしても、その結果が意思決定に活かされておらず、従来通りのプロセスで意思決定が行われているのであれば、表に出てくる結果は当然ながら今までと変わりません。極端な例を言うと、AIが進歩して1時間ごとに数値を予測できるようになっても、今まで通り1週間ごとの定例会議で物事を決定していたら、せっかくのAIの予測も力を発揮できないのです。

注意すべきは”マーケティング部とデータサイエンティストの間の溝”だ

 上の3点のような落とし穴にはまる、よくある根本原因は、多くの場合にマーケティング部とデータサイエンティストの間のコミュニケーションに溝があることです。マーケティング部門は、テクノロジーを完全に理解していません。また、自分たちの無知をなかなか晒したがらないため、技術に対して質問をすることができません。一方のデータサイエンティストはビジネスを完全に理解していません。また、技術がわからない相手に、技術でできることをうまく説明することができません。結果として両者の間に認識のギャップが発生し、現場に本当に必要とされているものとは違う形のAIが出来上がってしまうのです。

落とし穴を頭に入れて、みんなで協力して避けよう

 どこに落とし穴があるかがわかったら、しっかり見定め、落ちないように十分に注意しましょう。

 間違った問いを立てることを避けるには、遠回りに思えても、現在のプロセスを書き出して、マーケティング部とデータサイエンティストの間で認識を丁寧に揃えることが効果的です。例えばマーケティング部が、関連する作業プロセスを全て書き出すことにより、初めてデータサイエンティストが全体のビジネスの流れを理解できることがあります。このような一見遠回りと思えるアプローチも、結果を出すためには時に重要です。AI開発を進める前に、自分たちが設定した問いが本当に正しいのか、十分に検討しましょう。

 通信会社の事例では、プロモーションしてもしなくても解約してしまうような、説得可能性のない顧客に対してオファーを送ると「無駄遣い」になります。一方で、オファー次第で解約を取りやめる、説得可能性のある顧客にオファーを送らず、解約されてしまったら「チャンスの逸失」になります。無駄遣いとチャンスの逸失、どちらをより重視したらいいのでしょうか?

 この事例の場合は、説得可能性のない顧客へのオファーにかかるコストよりも、高価値の顧客を失うコストの方が大きいため、結論としては多少無駄遣いがあっても、説得見込みがありそうな顧客にやや広めにオファーを送ることが正解でした。このような計算はそれぞれのビジネス特有の事情があり、時に複雑です。適応しようとしているビジネスの全体像をよく理解した上で判断するようにしましょう。

 最後に、AIを取り入れたら、その結果をきちんと意思決定に反映できているか冷静に検討しましょう。できていないのならば、意思決定のプロセスも時代に合わせて見直しましょう。せっかくのAIによる予測も、使わなけれは宝の持ち腐れです。

目指すのは完璧ではなく、継続的改善だ

 AIを導入したからといって、急に全てがうまくいくわけではありません。今まで見てきたような落とし穴にはまらないように、関係者でレビューをし、丁寧に進めましょう。最初から完璧を目指すのではなく、継続的に改善していくことが大事です。自分たちのビジネスにきちんと合う形でAIを実装してこそ、大きな成果を出すことができるのです。

特集のかんそう

 数年前、AIが仕事を奪うという論調がよく聞かれました。その背景としては、AIをよくわからないけれど何でもできる何かすごいものと捉え、自分たちの仕事を奪う脅威だと、警戒する思いがあったと思います。もちろん、人がやっていた仕事がAIに置き換わる場面はあると思います。ただし、今回の論文を見ても、一足飛びにAIが多くの仕事を奪うというのはちょっと違うように思えました。AIをビジネスに実装するには、まだまだ使う側の人間が頭を捻らないといけない部分があり、人間の出番はまだありそうです。AIはあくまでツールだということですね。

 事業部のマーケティングチームとデータサイエンティストの間の溝の話は、実際にAIを自社のビジネスに実装することを考えると、しみじみする落とし穴だと感じました。論文は主にアメリカ企業を念頭に書かれているものですが、日本企業の場合は自社でデータサイエンティストを抱えている会社は少なく、外部の企業に外注する場合も多いと思いますので、現場が本当に必要なAIアルゴリズムを開発するために、ビジネスのプロセスを丁寧に理解し、コミュニケーションすることはより重要になりそうです。

 特集には、AI導入の成功例も多く取り上げられています。使いこなせれば、業務プロセスの大きな改善や、イノベーションにつながる可能性が広がっているので、AIを取り扱う場合には、紹介されているような落とし穴にはまらないように気をつけたいですね。

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