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<映画レビュー>ケイコ 目を澄ませて
2013年までに4戦を戦った元プロボクサー・小笠原恵子の自伝「負けないで!」が原案の本作。監督は「Playback」でデビューし、「きみの鳥はうたえる」で注目を集めた三宅唱。ケイコ役は「愛がなんだ」でテルコを演じた岸井ゆきのである。
あらすじは以下のとおり。
生まれつきの聴覚障害を持ち、両耳とも聞こえないケイコは、アルバイトをこなす傍らプロボクサーとしてリングに立つ。昭和の遺構のような古いボクシングジムで信頼するトレーナー及びジムの会長の指導の下、日々鍛錬を重ねていた彼女だが、試合を見た母親からの心配と、周囲からの期待の中でボクシングに対する気持ちが揺れ動き始める。そんな中、ケイコはジムの閉鎖を知らされることとなるが…
本作を見て、彼女の「熱」の持ち方が印象に残った。
熱がある体調の悪い時は勿論、身体が心についていかない際の微妙な不調子まで。
身体は熱いのに心は冷めていて、アンマッチな心身に戸惑う様子からは鑑賞者側でも、もどかしさを覚える。
新しいジムでも同様に冷えた心を、対照的に会長との2人での練習、林や松本との練習では信頼しきった温かな心情が見て取れる。
そしてラストのシーンでは、彼女は力強く再び燃えるのだ。
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また本作を見るにあたって、音の在り方について触れないわけにはいかないだろう。
轟轟とした川の音、道路を走る車の音、重いゴングの音、劈くようなストップウォッチの音、ジムで練習生に掛けられる怒鳴り声。
鑑賞者には際立つ環境音はしかし、ケイコには聞こえない。
喧騒の中で1人静かさを身に纏っている彼女の佇まい。
この対比は映画館での鑑賞体験ならではの効果だと思うので、これを味わえただけでも劇場で見る価値がある。
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ケイコの目の演技は言わずもがな、感情の表し方の豊かさに言葉を失う。
だって、「はい。」しか彼女の台詞はないのに、
ケイコのイライラしている気配を感じてこちら側もピリついたり、
結構笑い上戸な一面を見て心底ほっこりしたのだ。
普段のバーバルコミュニケーションの何倍も心情が振り回される。
彼女が「見て」いる世界の豊かさに比べて、
私のいる言葉に頼った世界は貧しくないだろうか?と自省せざるを得ない。
日常における音の存在を再認識するとともに、
映画で彼女の中にある熱を「見た」ことは、ケイコが「見て」いる世界を垣間見れたような体験だったように思う。
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ところで、序盤に佐藤緋美と中原ナナがカップル役で登場してきて、
ムーンライトシャドウに引き続き、ここでも!とテンションが上がったことを記しておきたい。
本当に、優しく誰かに寄り添う雰囲気の邦画と相性がぴったり。これからも注目したい。
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