「フランス人ってさ…」や「若いヤツは」「だから女性は」等の言い方にみる、マーケティングでのペルソナ設定のリスク。
<前説>
仕事を通じて、様々な機会で、様々な企業や様々な人たちのマーケティングに触れることがあります。
マーケティング論とかブランド論とかコミュニケーション論とかは相変わらず、というかますます百家争鳴状態で、「それは理論じゃなくて単なる考え方じゃない?」とか「それってあの話を難しく不思議な言葉で置き換えただけじゃない?」とか思ったりすることも多々。
また、実際のマーケティング戦略に接したり見聞きしたりした際にも、「確かにあのフレームワークには則っていて、一見いかにもちゃんとしているように見えるけど、空いたマスを埋めているだけで何にも心に響いてこない」=「仏作って魂入れず」なこともあり。
そんなことに遭遇した時の思いを、備忘録としてつらつらと書いていきます。
※なお、今後も含め、記述内容に関しては、後から色々考えて追加・削除など変更する場合もありますが、その際には変更前の記述と、変更した理由も記していくこととしますので、ご了承ください。
1. マーケティングにおけるペルソナの設定とは
企業が商品やサービスを開発・販売する際、そのターゲットとする人たちを調査などから規定します。
かつては、ビデオリサーチ社が個人視聴率の区分として用いていたF1、M2といった年齢層(例:F1=女性20−34才、M2=男性35−49才)を流用して、「この商品はF1層に受けるようなデザインにしました」といったような使われ方もしていたりしたこともありました。(ああ、懐かしい…)
さすがに今はそこまでアバウトではないものの、
・デモグラフィック(属性):性別、年齢層、職業、家族構成など
・サイコグラフィック(心理的):ライフスタイル、好み、価値観など
を組み合わせた形で設定することが大勢です。
で、そのターゲットにコミュニケーションをしたりキャンペーンを企画するために、対象となる商品やサービスを「どこで認知し、興味を持ってもらい、検索し、検討し、購買し、使用後にそれを他の人にどうやって伝え、また再購入しているか」、という『カスタマージャーニー・マップ』(「行動履歴+その時々の感情」のマップ化)を作成し、それを元にコミュニケーションプランやUX(ユーザーエクスペリエンス)を考えたりする手法があります。
※下記はインプレスのWeb担当者フォーラム「カスタマージャーニーマップとは? UX向上を達成する7つの事例と作成方法」より:図をクリックするとリンク元に飛びます
このカスタマージャーニーマップを作成する際に行うのが、「ペルソナ」作りです。ペルソナとは、「ターゲットを実際にいる人のように設定した架空の人物像」のことで、性別や年代、職業、ライフスタイル、価値観など、その日常生活やその行動の背景を想像できるようにするのが良しとされています。様々な調査などから得た情報を元に作成するのが通例です。
※なお、ペルソナはカスタマージャーニーだけではなく、コンテンツを作ったり、その他キャンペーンなどのプランを考えたり、マーケティング戦略・戦術を関係者に共有・説明する際にも「ターゲットはこんな人」とイメージしやすくするために使われたりもします。
具体的には、以下のようなものです。(翔泳社のMarkezine「『はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ』著者が語るマップ作成のポイントは」(2018.10)より、イラストをクリックするとリンク先に)
※「よりイメージしやすいようにリアルの写真をつけた方がより良い」という意見もあります
ただ、このペルソナ、調査を元にして作成するとは言いつつ、
・「性格や価値観などデータ化しにくい質的な要素も記していく」ということと、
・「色々な調査がある中から選んでいく」ということや
・「(人物像として設定するために)この項目も作ったけどそれに該当する調査結果がないのでエイヤっ、で書き込んでしまう」ことから、
結果として何らかのバイアスのかかったものとなってしまうことが多々あります。
また、データ化できるものを入れ込む際にも、項目に当てはめるときに平均値を取ってしまうと、本来の個々人の差を反映しないものとなってしまいます。
しかも、自分たちの商品・サービスを購買してくれる人の描写、ということで、
・「きっとこう思って・考えてくれるだろう」
・「きっとこう行動してくれるだろう」
という希望や理想を無意識のうちに盛り込んでしまうことも多く、結果それらを元にしたコミュニケーション・キャンペーンプランやコンテンツを作っても、実態とかけ離れてしまっているためピントのずれたものとなってしまう、という状況が起きてしまうリスクがあるのです。
2. 「限られた情報から全体像をイメージするリスク」はペルソナ設定だけじゃない
でもこの「限られた情報や自分でそうだという思い(込み)から考えた人物像判断のリスク」、って何もペルソナ設定に限った話ではないんじゃないか、とこの間ふと思いました。
「アメリカ人って〜」「オッサン連中に言っても〜」「やっぱり男って〜」というようなある集団の特性に対する表現、メディアやネット上でよく見聞きし、私も思わず使いそうになることがあるのですが、でもそれって、(「平均年収」や「自宅でのリモートワーク率」など量的データではない質的なものは)自分の体験や見聞きした一部の情報だけをもとにした拡大解釈・決めつけ、だと。テレビのコメンテーター等の「私たち国民は」という言い方とかもそうですね。
私が以前の会社の北米オフィス(大都市ではなく地方)で勤務していた際、ある会議に出て、そこには国籍でいうとアメリカ人とフランス人(それぞれ複数)、そして日本人の私が出席していました。
で、結構議論がヒートアップした会議が終わった後、会議室から戻る途中にアメリカ人の同僚たちが「まったくフランス人ってさ…」という話を(私にも)したのです。あれ、って思って、
「以前何度かフランス本社(フランスの大都市ではなく地方にある)に行ったときに感じたんだけど、本社の人たちってかなり素朴で素直な人もいたり、色々なんだよね。」と私は説明し、
「ちなみにもしも誰か他の国の人が『アメリカ人ってさ…』と、例えばあなたと、ニューヨークのウォール街に勤務している人たちとを一緒くたにされて言われても別にいいや、って思う?」と質問をしたら、
「確かにそうだ、私もニューヨークの連中と一緒になんかされたくないな」と同意してくれたのでした。
※もちろん上記において、私は「ニューヨークの〜」という一般化をしてしまってはいるのですが、少なくとも私が実際に会った個別のフランス人達のことに納得し、その点において「拡大解釈・決めつけのリスク」を理解してくれたという話です。
3. ペルソナではなく、n=1の人物像を。拡大解釈ではなく、事実の積み重ねを。
ではペルソナのようにターゲットの人物像を設定することはやめた方がいい、ということかというと、それではカスタマージャーニーも作れないし、マーケティングに詳しくない社内外の関係者に「ターゲットはどんな人?」をわかりやすくイメージさせることもできなくなります。
なので、でき得ることは、ターゲットに当てはまる実際の人に可能な限り多くインタビューなどの質的調査をし、それぞれの人物のプロフィール・購買行動とその背景などを学び、もっとも代表的と思われるパターンの数人それぞれを(まとめずに、個人が特定できる情報を抜いた形で)ターゲット像の例として使う、ということです。
可能な限りのインタビューには、時間も根気も精神力も必要ですが(費用に関しては自社サイトへのメンバー登録者やSNS等で募集した方々へのオンラインでのインタビューを加える手法もあるので昔に比べればまだ工夫の余地はあります)、その先にある貴重な情報を得ることによって確率の高く切れ味のある戦略・戦術を作成・実行するために、冷たい水の中を震えながら登っていきましょう。ファイト!
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