見出し画像

高知でしか会ったことのない珍しい苗字

僕は生まれてから高校卒業までの18年間、高知県で過ごしてきた。

高知県はご存じの通り陸の孤島である。
他県に行くには険しい四国山地を越えるか、荒れた海を渡るしかない。

そんな他地域との往来が少ない地域だからこそ、珍しい苗字が多く残っていたりする。

今回は僕が18年の高知県生活で出会い、その後県外ではまだ出会ったことのない、珍しい苗字を紹介していこうと思う。



二神(ふたがみ)

高校の古文のおじちゃん教師がこの苗字だった。
生涯孤独を貫いている頑固じじいといった感じで、古文の説明は絶望的に分かりにくく、非常に怒りっぽい先生であった。
また、織り交ぜてくる体験談が絶妙に面白くない。
飼っている犬に「いぬ」という名前を付けた話や、海に潜って岩に頭をぶつけて死にかけた話を、下手くそな絵を描きながら話してくれたのが印象的だ。

高2の時、隣のクラスの授業中に倒れてそのまま亡くなった。
授業が始まってすぐに「ちょっと休む」と言って教壇に座り、そのまま横になって意識を失ったらしい。
老衰というような年齢でもないので、当時は生徒の中で他殺説なども囁かれ、学校中が騒然となったことを覚えている。
だがそんなのは学生特有の誇大妄想に過ぎず、持病もあったし夏の暑い時期なので体に負担が掛かり心臓発作が起きてしまったのではないかということで処理された気がする。

顔がウミガメに似ていて、個人的にはどこか憎めない先生であった。
だが、その性格と年齢ゆえに生徒からはあまりよく思われていなかったらしい。
寝てる生徒を叩いたりしていたし、昔の先生特有のプリントを配る際にまず指を舐めて湿らすという癖が気持ち悪がられていた。
教師内ではそこそこの大御所だったらしいが、昔ながらの先生なのでパワハラ体質だったであろうことは想像に難くない。
そりゃ他殺説も出るわ。

でも僕は嫌いじゃないよ。ウミガメに似ててかわいいし。


明神(みょうじん)

こちらも高校の教師。科目はたしか化学だ。
僕は文系なので授業を受けたことがないが、わかりにくい授業をすることで有名だった。
二神先生よりは少し若いが、ひょろっとしたおじちゃんの先生であった。
うちの高校では二神先生と並んで「ダブルゴッド」なんて呼ばれたりもしたが、二神という苗字とダブルゴッドが干渉するのでそこまで浸透しなかった。

ちなみに、二神先生と明神先生は犬猿の仲だったらしい。
それに関係するかは分からないが、過去には後輩の女性教師の処遇を巡って大喧嘩したとかなんとか。
今になって思えば、きっといろいろ大人の情事があったのだろう。

もちろん、生徒の中でまことしやかに囁かれていた二神先生他殺説で、犯人候補に真っ先に上がっていたのはこの先生である。
化学の教師なので薬品を使って、プリント配布の際に指を舐める癖を利用して殺したのではないかという説だ。
ただ、その時間は別の学年を教えるために別棟にいたらしいのでアリバイはあったし、そもそも二神先生の死因が毒殺ではないのだが。

二神先生が亡くなった次の年、明神先生は学校を去った。
何か不祥事を起こしたというような噂を聞いたこともあるが、真相は闇の中だ。


五百蔵(いおろい)

高校の後輩にこんな苗字の子がいた。
喋ったことはないが、美少女で有名だった。
部活動でもいつも表彰されていたし、学業の成績も優秀だったそうだ。
歯並びがあまりよろしくないところが抜け感があり逆に良かった。
やはり何事も完璧すぎてはダメなのだ。完璧に見えて実は…という弱点に男は弱いのである。
高2の時の担任とは遠い親戚?のような関係だと聞いたことがある。
人口の少ない高知県では学校内に血族がいることなど日常茶飯事なのだ。


浜渦(はまうず)

僕が高1時に担任だった若い女性教師の苗字。
本人ではないかと思うほどに、にゃんこスターの女の方に非常に似ていた。
高1の途中くらいで妊娠が発覚し、直後に出産・育児休暇に突入したので担任も変更。そのまま卒業までほとんど言葉を交わすことはなかった。

ちなみに、五百蔵さんの入っていた部活の顧問が浜渦先生であった。
部活名を出すと特定されかねないので出さないでおこう。

上記の通りかなり若い先生で、僕のクラスの担任になった時で3年目とかだった気がする。
そんなんだから、女子生徒とは姉妹のように仲良くなっていたし、にゃんこスターの顔はたまにめちゃくちゃ性癖に刺さる人がいるようで、男子生徒にはたまに熱狂的なファンがいた。
部活の関係もあり結婚指輪はしていなかったため、妊娠の報告で不意打ちを食らい数日寝込んだ男子生徒がいたとかいなかったとか。

ただし、男子生徒への当たりはなぜかやけに厳しかった。
噂によると過去に男性関連のトラウマがあるらしい。
結婚相手はよく結婚できたなと思う。


近森(ちかもり)

高校の同級生で、何気にずっと同じクラスだった。めちゃくちゃ賢くてスポーツもできるという逸材。
文系科目の成績が異常で、国語はずっと学年トップの成績だったような気がする。
それでもって顔のポテンシャルもそこそこ高かったと認識している。
しかし、ガードの硬さ故か恋愛関連の話題は全く聞いたことがなかったし、男子と話しているところすらほとんど見たことがなかった。

ちなみに、近森と聞くと高知市民は真っ先に病院を思い浮かべるが、その病院の経営者の血族とかなんとかという噂もあった。本人は否定していたが。

この子は優秀がゆえに二神先生にもすごく気に入られていて、難しい問題を生徒を当てて答えさせるときは大体近森を当てていたし、プリントを配るのを手伝わせるという雑用までさせていた。二神先生の舐めたプリントをである。

だが彼女はできた子で、嫌な顔一つ見せずにプリントも配っていた。本心では結構嫌だったらしいが。



入交(いりまじり)

中学校の同級生がこの苗字で、何度かクラスが一緒だったがあまり話したことはない。
中学のクラスに一人は絶対いる変なやつで、よく問題を起こしていた。

東北の震災の時に1人1枚被災者にメッセージカードを書こうという行事があった。
その時、入交は当時流行っていた芸人のネタを取って
「冷やし中華始めました」
と書いた。

これが担任にバレて大炎上。
当たり前である。中学生とはいえ許されるような悪ふざけではない。
帰りのホームルームでクラス全員が拘束され、教壇の前でめちゃくちゃに怒られるという地獄のような時間が発生した。

これは見ている僕らにとっても、違う意味で地獄だった。
担任が入交に、「お前がなんて書いたか、自分の口で言ってみろ!」と言ったのだ。

自分の言葉の重みを感じさせる正しい教育だったとは思うが、
ブチギレた担任の作り出したピリつく雰囲気の中、入交が半泣きの消え入りそうな声で
「冷やし中華…始めました…」
と言ったときの、あの面白さは、他に例えようがない。

不謹慎だが、絶対に笑ってはいけないという緊張感と、そのフレーズの場違いさ、入交の消え入りそうな声、全ての要素が複雑に、それでいて力強く手を組んで僕の笑いのツボを刺激してくる。
周りを見るとみんな机に突っ伏している。中には体を小刻みに震わせている人もいる。

なんとか耐えきり、別のことを考えて気を紛らわす。
そういえば浜渦先生は育休からそのまま寿退社するらしい。もうこの学校には戻ってきたくなかったのだろうか。寂しいな。

そうこうしているともう部活の始まる時間だ。
合法的に練習に遅れられることに少し喜びを感じていたら、再び地獄の門が開かれる。

「お前がなんて書いたか、もう一回言ってみろ!」
「冷やし中華…始めました…」

もう我慢の限界だった。
僕は勢いよく机に突っ伏して、咳をするふりをして漏れ出る声を誤魔化す。

担任は入交の説教に集中していてこちらは気を留めていなかったようだ。
助かった。



千光士(せんこうし)

高校の女子バスケ部に所属していた1つ下の後輩。
かっこいいと思う名字ランキング6位。1位は…氷室

僕は当時結構モテていたようで、
自慢じゃないが、この子は僕のファンだった。
僕に彼女がいると知りつつバレンタインのチョコを毎年くれていたし、体育祭の後にも毎年ツーショット写真をせがまれた。

この子はかなりのメンヘラ気質らしく、噂によるとTwitterにリストカットの写真を上げてはすぐに消しているらしい。
クラスの男子からもいじめに近い扱いを受けているらしく、それなのに担任の二神は見て見ぬふりという状態らしい。

そんなんなので取り扱いには細心の注意を払っていたのだが、n回目の告白を僕が断ったあと、ついに不登校になってしまったようだ。

幸いなことに死んではいない。
何ヶ月後かに県外の学校に転校したようだ。
僕が高3くらいの時には彼氏とのラブラブな写真をTwitterによく投稿していた。
幸せになってくれて僕も嬉しかったが、なんか負けた気がした。
高知にもちょくちょく戻ってきているようで、学校にも顔を出していたようだが、僕はなんだか気まずくて、告白されて以降一度も会っていない。



大体本当の僕の中高時代の話。
多少の脚色は、実話を土台に二神先生他殺ルートのミステリーを書こうとした残骸である。
いつかちゃんと書き上げてみたい。



※この話は事実が多分に含まれていますが、一応フィクションです。
実在の人物や団体や事件とはほとんど関係ありません。ほとんど。
個人が特定できないように名前やエピソードは多少いじっています。多少。
あと、死者をけなす意図は全くありません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?