映画『撤退』(2007年)のザックリとしたあらすじと見どころ
映画『撤退』は、
2005年のイスラエルのガザ撤退を着想にしたヒューマンドラマです。
監督はイスラエル出身のアモス・ギタイ。この土地の地政学的背景をふまえて鑑賞したい1本です。
キャスト
・ジュリエット・ビノシュ(アンナ)
フランス在住のユダヤ人
・リロン・レヴォ(ウリ)
イスラエル警察の幹部警察官 アンナの亡父の養子
・ジャンヌ・モロー(フランソワーヌ)
亡父の遺言を管理する弁護士
映画『撤退』の見どころと感想
フランスのアヴィニオン。父を亡くしたばかりのアンナのもとに父の養子でイスラエル人のウリが葬儀に参列するためやって来きます。久々の再会に心躍らせるアンナ。
滞りなく葬儀を終えた2人は遺産整理のため弁護士のもとへ。そこでアンナは、20年前にイスラエルで出産したまま手放した娘を亡父が支援していたことを知らされます。
遺産処理のために娘の暮らすイスラエルのガザ地区に向かう決意をするアンナ。
しかし、その頃ガザ地区ではイスラエル人入植者の”撤退”が進んでおりー。
評)人種とは民族とは 複雑な歴史背景にも思索を広げながら
とにかくこの地区の地政学的背景の理解なくしては、この映画の意味がわからん、ということでザックリとした解説を加えておきます。
紀元前1000年頃にイスラエルを建国したが、やがて故郷を追われ、キリスト教徒の迫害にあうという歴史を持つユダヤ人。そんなユダヤ人が、19世紀に入って自分たちの国を作ろうとイスラエルに帰還(シオニスト運動)。が、そこはすでにイスラム教徒のパレスチナ人が住んでいた。
そして第2次世界大戦のさなか、ヒトラーやスターリンによる迫害を逃れるために多くのユダヤ人がイスラエルに流入。当時、パレスチナを統治していたイギリスは戦後発足したばかりの国連に仲裁を丸投げ。第1次中東戦争が勃発し、イスラエルが勝利。国土の多くがユダヤ人の領土となり、これによって多くのパレスチナ難民が発生した。
そして第3次中東戦争の結果、ヨルダン川西岸とこの映画の舞台でもある「ガザ地区」の2か所はパレスチナ人居住地に。しかし、そこにイスラエルは政治的な目論見をもってユダヤ人入植者を送り込んだ。
両国の衝突が繰り返されるなか2004年にイスラエル政府はガザ地区からの「撤退」を決定(←この映画の背景です)
しかし、パレスチナにとってイスラエルのガザ地区からの「撤退」でめでたしめでたしとはならず、イスラエルは同地区に対し封鎖政策をとっており、食料や燃料の流入制限し、いまだ紛争が絶えない。
長々と背景を書きましたが、この映画はイスラエル(ユダヤ人)とパレスチナ(アラブ人)の対立ではなく、ユダヤ人同士の葛藤の話です。
「ガザ撤退は和平のため」「同じユダヤ人」という建前のもと、パレスチナを自分の国として入植してきた人々(ユダヤ人)から家や財産、宗教的象徴まで奪い、破壊していくユダヤ人。その複雑な民族性はスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ミュンヘン』(2005年)にも描かれています。
が、こうした地政学的背景をザックリ知っただけでは、この映画が討ったえようとする「人間における”人種とは何か”」についてピンとこないのも正直なところ(ドキュメント風に見せる冒頭の列車の男女のシーンは象徴的)
どこまで遡っても日本人であることが揺らがない自分のルーツ。ほぼ日本人しかいない社会の中で生活してきた民族感覚の偏狭さにあらためて気づかされました。
映画的な見どころは主演のジュリエット・ビノシュ。父の死にもどこかフワフワした前半から一転、ガザでの現実に直面するアンナの変化をグラデーションで見せていくビノシュのまさに力技です。
映画『撤退』 イスラエルーパレスチナの問題をふまえて、ぜひ。
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