見出し画像

『ペンギン・ハイウェイ』森見登美彦 ファンタジーが苦手な人にも届く夏の物語 

2018年夏にアニメが劇場公開された映画『ペンギン・ハイウェイ』の原作。

森見登美彦氏の小説は、これまでにも『夜は短し歩けよ乙女』や『四畳半神話大系』『有頂天家族』など多くのがアニメ化されていますが、アニメをほとんど見ない私は、「あー、またね……」くらいのものでした。

が! この『ペンギン・ハイウェイ』は、自室の一角で増殖し続ける積読軍団の一員であることに気づいてしまったのです。デビュー作の『太陽の塔』以来、一時はずいぶん登美彦氏にハマった私も、あるときから買っても読まずに積読、という大変申し訳ない状態にー。

劇場アニメのTVCMを見るかぎりは「どファンタジー」。苦手な匂いしかしないのだけれど、これも何かの縁。積読軍団を1冊でもやっつけていかなければならないので、夏休み気分で読んでみました。

『ペンギン・ハイウェイ』は少年の成長小説

街に突如として現れた「ペンギン」と次々に起こる不思議な出来事。

小学校4年生のアオヤマ少年は、謎めいた「おねえさん」に恋心を抱きつつも、それが「恋」であることがまだわからぬまま「ペンギン」の謎、そして「おねえさん」を研究し始める。

ペンギンはどこからやってきたのだろう。おねえさんとペンギンにはどんな関係があるのだろう。ファンタジーものが苦手な私には、正直この話の世界観がしっくりきません。森見作品と言えば『四畳半ー』のような独特のオモチロミのある文体が特徴的なのですが、この『ペンギン・ハイウェイ』は、それが薄い。

主人公は「少年」であり、あの『四畳半ー』の大学生たちのように腐れてはいない。ところどころに「詭弁」の片鱗を見せはするものの、あの腐れ大学生に比べれば全然カワイイものです。本の帯に「森見登美彦氏、新境地へ!」とあるので、あえてオモチロさを封印して新境地に挑んだのでしょうか!?

私はなぜファンタジーが苦手なのだろうー

「なんでファンタジーが苦手な大人になっちまったんだろうー」と、反省とも、後悔ともいえぬ複雑な思いを抱えながら読み進めていると、ふと、自分にも小学生時代があったこと(そりゃそうです)を思い出しました。

普段は思い出すことのない夏の出来事や風景の断片。蝉の声、TVから聞こえる高校野球、学校のプールに沸き立つ友だちの声、ホントに「ジリジリ」と言っているような太陽。そして、それらが一瞬にして消えてしまったあとの静けさ。ワーッとなったものが、”スッ”と消えていくー。

この物語の中で少年たちが「海」と名付けている不思議な浮遊体は、この感覚を表したもののように思えてきました。そして私は、この静寂の瞬間に少しづつ大人になったのだとー、なぜかファンタジー嫌いになっちまったけどー。

評)世の中には解決しないほうがいい問題もある

『ペンギン・ハイウェイ』には少年の成長記という大きな流れの中に、「世の中には解決しない方がいい問題もある」というメッセージが込められています。

私がなぜファンタジー嫌いなのかは、おそらく解決しない方がいい問題なのでしょう。そういうことにしておきましょう。なんであれ、こうして成長してきた、『ペンギンハイ・ウェイ』を走ってきた自分が今ここにいる自分なのです。

大人の夏にもおすすめの作品です、ぜひ。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?