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最近読んだ本の感想「アルツ村」


南 杏子 「アルツ村」
 
元看護師の明日香は夫のDVに限界を感じ、娘をつれて車で逃げだす。
途中、あおりの車に追われ、幹線道路をはずれて山道に入る。
そして、自損事故を起こし車を放棄し、追手を恐れさらに山奥へ。
その先の金属柵に手をかけて意識を失う。
気が付いたとき、ある民家の座敷に寝ていた。その家の主人(修三)は
認知症で、明日香のことを孫の夏美と勘違いする。
 
多くの章でこの村のこと等が説明されていく。この村に住んでいるのは
全員高齢の認知症の人。そして彼らを世話する人たちは「バンショウ」さんと呼ばれている。
※のちに、ヘルパーを表す中国語の帮手(バンショウ)と説明される
<認知症の人々の実際>
認知症の人たちが短期記憶を保持できないことや急に怒り出したりすること
認知症のタイプによって症状は千差万別なこと。病気が急にひどくなったりもする。
 

アルツハイマー型認知症は、近時の記憶障害が特徴的だ。海馬という記憶中枢の病変から始まるためで、進行すると側頭頭頂葉の病変に広がり、空間認識が傷害されて迷子になったり、衣服が着られなくなったりする。さらに進むと、大脳皮質全体の病変のために人格変化を来し、ついには無言、無動といった状態になる。
脳血管性認知症の場合は、まず脳梗塞の症状が目立つ。病変部位により、ろれつが回らなかったり歩行障害があったりするほか、神経の伝達路が障害されて前頭葉の働きが悪くなるため、ささいなことで泣いたり怒ったりと感情の抑揚が利かなくなる。
レビー小体認知症の患者は、幻視や睡眠障害、パーキンソニズムと呼ばれる運動障害、症状の変動などが大きな特徴だ。症状は個人差が大きく、記憶障害は軽度である場合が多い。
現実には、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症が合併する場合などがある。医師によると、認知症のどのタイプかをすっきりと見分けるのは難しいケースも少なくないらしい。

<ヤングケアラーの事例>
修三の孫(夏美)が初子や修三の介護をつづけるなか、限界に達して
初子の首を絞めるという事件が発生し、その後、夏美は自殺する。
<家族の戸惑い>
認知症患者を「アルツ村」にあずけること(負担軽減)と罪の意識
 <アルツ村の秘密>
明日香のまわりで親しくなっていた人がなくなったとき、遺体処置の前に
一時的に元の家に帰されるが、明日香はその頭部に手術痕をみつける。
 
※明日香が救出されたときの経緯は、示されていない。なぜ、修三の家に運びこまれたかも不明のまま。


認知症によって一人で日常生活を送ることも不可能となり、人としての尊厳を失っていく。その影響は家族へ。そして介護の長期化による介護破綻。受け入れ施設の不足。すると、アルツ村に救いを求めるのは自然の成り行きだったりする。

日本における外国資本による土地買収、ブレインバンク整備の遅れ、ヤングケアラーに対する理解不足、そしてなにより認知症の人々への支援不足、さまざまな問題を読者になげかけているように思う。
 
最後に明日香に関する驚愕の事実が明かされる。
アルツ村に関する謎をずっと明かさずに物語は進んでいく。そして最後のスリルとサスペンス、一気に読み終えてしまった。

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