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持続可能な食の未来を実現するには? | WHY & HOW by NOSIGNER Vol.07

「WHY & HOW by NOSIGNER」は、デザインファーム・NOSIGNER(ノザイナー)がお届けするソーシャルデザインマガジンです。いまデザインが挑むべき社会課題(=WHY)を毎回一つ取り上げ、その背景を掘り下げるとともに、NOSIGNERが関わっているプロジェクト(=HOW)についてご紹介します。


WHY #07:食の安全

市場経済がもたらした食の問題とは?

今月のニュースレターでは、私たちにとって最も身近な社会課題とも言える「食」にフォーカスします。私たち人類は狩猟採集社会の時代から、食料を近隣のコミュニティや生態系から調達する暮らしを長らく送ってきましたが、やがて人々は、野菜や肉、魚などの食糧を市場から調達するようになりました。
こうした市場経済の発展とともに、農業をはじめとした一次産業の効率化・規格化が加速したことによって、食糧生産の現場にはさまざまな弊害がもたらされました。そのひとつが、単一品種の野菜の大量生産、水産資源の乱獲などによる生態系の破壊です。本来自然は、多様な種が共生関係を保つことによってさまざまな変化に対応してきましたが、一次産業の効率化・規格化によって、種の多様性が失われ、生態系が脆弱化することが危惧されています。

日本の農薬使用量は減少傾向にあるものの、依然として世界トップ水準にある。その背景には、冷涼なヨーロッパなどに比べて高温多湿な気候特性、日本人が求める野菜や果物の形状、品質の高さなどがあるとされている。

消費者の間で広がる食への不安

大量生産・大量供給を前提とした農薬や遺伝子組み換え作物が、私たちの健康に与える影響も危惧されています。消費者の間でトレーサビリティや、非遺伝子組み換え(NON-GMO)作物、農薬や化学肥料をできる限り使用しない有機作物などを求める動きが強まり、一定の市場が形成されていることも、食に対する不安が広がっていることの現れだと言えます。
工業製品のように食糧が大量生産される現代は、先進国を中心にフードロスという社会課題を生んでいる一方で、人類の食糧を確保するためには、大規模耕作や遺伝子組み換え技術が必要だという声もあり、それぞれの立場の「正義」があることが、食を巡る問題を一層複雑なものにしています。こうした中、多様な生態系を保ちながら、生産者、消費者双方にとって幸せな食の未来をつくっていくことが世界的な課題となっています。

日本人が食品を選ぶ際の意識は、「安全性」に向けられている。

漂白された情報を可視化する

消費者の食への不安が高まっている中、デザイナーには、市場の登場によって漂白されてしまった情報をフェアに可視化していくことが求められています。安全に配慮してつくられた食物の背景にある情報を明示することで消費者の不安を取り除き、購買につなげていくブランディング戦略はもちろん、必要に応じて認証制度やアイコン、あるいはトレーサビリティの仕組みなどを設計していくことも必要です。
食の安全や多様な生態系に配慮した取り組みを行う生産者・事業者たちをサポートしていくことも大切です。メディアや売り場などでは、大量生産・大量供給を行う企業などが大きな声を持ちやすく、コミュニケーションの不均衡が生じている中、自然との共生を目指す有機農法やサステナブルシーフードなどの価値や安全性、自然に由来する作物本来の美味しさを伝えるコミュニケーション設計を通じて通じて消費者を啓蒙し、古くて新しい食のムーブメントをつくるプレイヤーたちをサポートしていく必要があるのです。


HOW#07:秋川牧園

国内有数のオーガニックファーム

山口県を拠点とする秋川牧園は、国内有数の規模を誇るオーガニックファームであり、自然食における数少ない上場企業です。1927年に初代秋川房太郎氏が中国・大連で自らが理想とする農園を興して以来、彼らは鶏肉、卵、牛乳、野菜などの生産、加工、配送をワンストップで行い、安心・安全な食を追求し続けてきました。
この秋川牧園のリブランディングを担うことになった私たちは、彼らの実直さや牧歌的なイメージを保ちながら、創業以来一貫した同社の理念や取り組みを、食の安全を求める現代の消費者とつなげるリブランディングを行いました。同社の特長は、人にも地球にも優しい食の循環モデルを構築していることです。それをストレートに伝えるために、「そだてる、つくる、たべる」という圧倒的にわかりやすいタグラインをつくりました。

食の情報を公明正大に表明する

「口に入るものは間違ってはいけない」。これは初代房太郎氏の言葉です。創業以来、秋川牧園はこの理念を守り続けてきました。加工品のパッケージでは、この理念を体現すべく、通常では裏面に小さく入る内容物表記をデザインの主要素として前面に大きく示しました。食品添加物をはじめとした「余計なもの」が一切入っていないことを公明正大に表明するデザインです。
パッケージやラベルの下部に広がる「房太郎グリーン」の山並みを黒板に見立て、板書による「穴埋め」表現で商品のこだわりを訴求しました。白地部分においても、教科書や参考書を想起させるようなデザインを展開し、安全な食品を選ぶ知識を楽しく学べる仕掛けを施しました。

さらに、同社が地域循環型の農業モデルづくりを掲げていることから、山口県の山並みをモチーフにした「山」(大地)を「口」に入れているようなイメージのマークを設計しました。既存のロゴマークから継承されたモチーフである牛のまだら模様は、同社のグループ農場が点在する山口県と福岡県の一部の地図の形をしています。ここには、地元とのつながりを強め、地域住民にとって誇れる存在になるという企業の意思が示されています。

「食の安全」のパイオニアとして

こうしたリブランディングの結果、都内のオーガニックショップを中心に販路が拡大するなど業績向上の一助となり、リブランディング発表後の約半年間で、秋川牧園の株価は2倍以上に高騰しました。安心・安全な食づくりのパイオニアである秋川牧園の魅力や理念を、食の安全を求める現代の消費者とつなぎ直すブランディングはまだ始まったばかりです。秋川牧園が食の安全を代表する企業として国内外に認知され、持続可能な食の未来の実現を目指すムーブメントが、山口から世界へと広がっていくことを願っています。

冷凍食品以外のパッケージでも、山並みを用いた統一感のあるデザイン展開を行いました。商品が並ぶことで山が連なっていくように見えるため、スーパーなどの商品棚に陳列された際、消費者に視覚的なイメージを残すことができます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

NOSIGNERでは、いま私たちが挑んでいる社会課題(=WHY)や、デザインの実践(=HOW)を毎回1つずつ紹介する「WHY&HOW」から、NOSIGNERの最新ニュース、代表の太刀川英輔による近況報告、スタッフ持ち回りコンテンツなどさまざまなコンテンツが満載のニュースレター「WHY & HOW by NOSIGNER」を配信中です。

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ABOUT NOSIGNER

NOSIGNERは、社会の各セクターを進化へ導くデザインパートナーです。デザイン戦略のプロフェッショナルとして、ブランディング・商品企画・空間設計・ウェブサイトのデザインなど様々な領域で国際的に評価されています。また、地域活性・まちづくり・脱炭素・気候変動・防災などの分野で豊富な知識と経験を備え、代表の太刀川英輔が提唱する「進化思考」を通して、創造的な組織や人材の育成活動にも力を入れています。


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