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これからの地域を支える地場産業のあり方とは? | WHY & HOW by NOSIGNER Vol.08

「WHY & HOW by NOSIGNER」は、デザインファーム・NOSIGNER(ノザイナー)がお届けするソーシャルデザインマガジンです。いまデザインが挑むべき社会課題(=WHY)を毎回一つ取り上げ、その背景を掘り下げるとともに、NOSIGNERが関わっているプロジェクト(=HOW)についてご紹介します。


WHY #08:地場産業の未来

危機にさらされる地域の天然資源

WHY & HOW Vol.5「伝統産業の復興」では、人材不足、ニーズの減少などさまざまな問題を抱え、衰退の一途をたどっている日本各地の伝統産業の現状についてお伝えしました。さらに近年は、伝統産業を含む地域の企業が頼りにしてきた水や自然環境、食物など地域の天然資源が、人間社会による環境への多大な負荷によって危機にさらされています。
地域の資源が失われていくことは地場産業の衰退を加速させるだけではなく、地域住民の生活の質が低下し、地域社会全体の存続が危ぶまれる自体にもなりかねません。こうした中で、生態系のバランスを維持しながら、持続可能な地場産業のあり方を構築していくことは地域にとって大きな課題となっています。

グローバルリスクの重要度ランキング: 10年後に起こりうる影響(深刻さ)

地域の企業に求められる脱炭素化への行動

生態系のバランスを維持しながら、地場産業を未来につないでいくために地域の企業には何ができるでしょうか。これまでのニュースレターでも紹介してきたように、地球や地域を持続可能にするために不可欠なのは、脱炭素社会への移行です。これは産学官民すべてのセクターにまたがる全世界的なミッションであり、温室効果ガスの排出抑制、森林等の吸収作用の保全・強化、再生可能エネルギーの導入、循環型の生産方式の採用などの具体的な行動は、地場産業を牽引する地域の企業こそが先導していけるものであるはずです。これらの取り組みは、地域の企業は自らの環境負荷を減らすだけでなく、地域全体の環境意識を高めることにもつながります。

日本のライフサイクルから発生する温室効果ガス排出量(消費ベース)

見えない情報を可視化し、行動変容を促す

気候変動のトリガーとなっている温室効果ガスは、目に見えるものではありません。だからこそ、炭素排出量の測定などを通じて見えない情報を可視化することが、課題を自分ごととして捉えるための第一歩となります。目に見えないものを可視化して課題への理解や行動を促すことはデザインに課された大きな役割です。デザインの力を活用し、困難な課題を企業や個人に自分事として認識してもらうことが、行動変容につながるはずです。
脱炭素社会の実現に向けた行動を促していくためのブランディングやコミュニケーション設計も重要です。私たちデザイナーには、企業や個人における脱炭素化や資源循環のための選択をクールなものとして社会に定着させるためのムーブメントをつくっていくことが求められます。環境に優しいものづくりやライフスタイルを前向きに実践する企業や個人が増えることで、これまでの“当たり前”は変わり、地球や地域に優しい地域社会や地場産業が実現できるはずです。


HOW#08:SAGA COLLECTIVE

地元の自然を保全する地域ブランド

SAGA COLLECTIVEは、佐賀県の地場産業を牽引する中小企業11社の経営者たちが、佐賀の文化と伝統を世界に向けて発信するべく、2019年に発足した協同組合です。
SAGA COLLECTIVEには、海苔、製茶、日本酒、有田焼など佐賀が誇るさまざまな産品を手がける事業者が集まっており、すでに各々の分野で高く評価されていました。しかし、各地に数多ある地場産品のリーダーが集うだけでは、地域ブランドとしてのユニークネスは確立できません。また、地場産業は地域の自然の恵みによって成り立ってきた歴史があり、人と地域と自然の関係が持続可能でなければ成り立ちません。 そこで私たちは、環境保全や地域社会への配慮を軸とした日本初の「全商品脱炭素済みの地域ブランド」のあり方を提案。SAGA COLLECTIVEブランドの下で展開しているすべての商品は、CO2排出量に応じて地元の山や海を守るための支援で吸収する「カーボン・オフセット(CO2削減量の相殺)」を行うことにしました。

商標登録されていた既存のロゴの意匠を活かし、従来の「SAGA」と同様のパターンで「COLLECTIVE」の文字やゼロCO2のシンボルを新たに制作。ブランド名を強く印象づけるロゴへとリデザインしました。

業界初のゼロC02企業が数多く誕生

地域で排出したCO2をできる限り地域で吸収する地産地消型モデルの取り組みを進めた結果、驚くべきことに過半数の会社が本プロジェクトの商品だけでなく、自社全体を対象にカーボン・オフセットを行う、実質CO2ゼロの企業へと生まれ変わりました(スコープ1、2) 。結果として本プロジェクトから、製麺・茶・和紙・緞通・海苔・家具の分野においてそれぞれ日本初となるゼロCO2企業が誕生。こうした動きもまた、本ブランドの取り組みから脱炭素化のために必要な行動やコストが把握され、その重要性を認識できたことによる地域の変化でした。

各社の負担や環境への負荷低減の観点から、ゼロ・カーボンを示すステッカーやアテンションシールを添付するだけで、各社の既存商品をSAGA COLLECTIVEの商品として展開できるようにしました。

地場産業の新たなスタンダードに

佐賀県の地場産業をリードする各社が取り組む地域の未来へのアクションは、消費者からの共感も獲得しつつあり、将来の後継者となり得る若い世代を惹きつけることにもつながるはずです。 本プロジェクトが持続可能なものづくりのモデルケースとなり、各産業に脱炭素化のうねりが生まれること、そしてその先に、地球や地域にとって優しい地場産業のあり方がこれからのスタンダードとなる未来が訪れることが私たちの願いです。
地域の産業が発展するほど、森が回復する、体に優しく美味しいものが食べられる、再生可能なエネルギーが循環するー。こうした地域の未来を実現していくために、これからも自然と文化を支える地場産業に寄与する取り組みを続けていきます。

QRコードやWEBを通じて購入者から送られてきた商品の感想なども取り入れながら、「自薦」のみならず「他薦」を可視化するコミュニケーション戦略を推進しています。

NOSIGNERでは、SAGA COLLECTIVEの一員である「井上製麺」のリブランディングや商品開発も手がけています。佐賀・神埼そうめんの老舗として知られる同社には、世界初の機械式製麺機を最初期に導入した一社であることや、近隣の神社を氏子総代として護ってきた歴史があります。こうしたストーリーを軸にしたブランド戦略を描き、商品群を「神そうめんシリーズ」として展開するとともに、機械式製麺の草分けであることを示す「スピログラフ」によるアイデンティティを設計しました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

NOSIGNERでは、いま私たちが挑んでいる社会課題(=WHY)や、デザインの実践(=HOW)を毎回1つずつ紹介する「WHY&HOW」から、NOSIGNERの最新ニュース、代表の太刀川英輔による近況報告、スタッフ持ち回りコンテンツなどさまざまなコンテンツが満載のニュースレター「WHY & HOW by NOSIGNER」を配信中です。

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ABOUT NOSIGNER

NOSIGNERは、社会の各セクターを進化へ導くデザインパートナーです。デザイン戦略のプロフェッショナルとして、ブランディング・商品企画・空間設計・ウェブサイトのデザインなど様々な領域で国際的に評価されています。また、地域活性・まちづくり・脱炭素・気候変動・防災などの分野で豊富な知識と経験を備え、代表の太刀川英輔が提唱する「進化思考」を通して、創造的な組織や人材の育成活動にも力を入れています。


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