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私の知っている酸味の種類の話

酸味には種類がある。
それは知っているようで意外と知らないことかもしれない。

お酒の世界ではテイスティングの際に酸味の表現は欠かせない。特にワインの主要な味わいの特徴は酸味だと私は思っているし、最近だと酸味が強いタイプのビールや日本酒も増えてきている。
酸味の種類を捉えることは、「つくり」を知ることになるとともにテイスティングの表現の幅を広げることにもなると思っている。

というわけで今回は酸味の種類について私の得た知識から話をしてみようと思う。成分の話を細かく突き詰めれば科学の分野に深入りしてしまうので、あまり追求はしていない。自分の必要なところまでの勉強で学んだことを、自分が好きなビール・ワイン・日本酒の醸造酒3兄弟を軸に説明していく。


1. リンゴ酸

リンゴ酸とは爽やかな酸味のことだ。きりっとした切れ味があって夏場には最高だ。
主にワインに多く含まれる酸味成分で、特にフレッシュなタイプで顕著に感じられる。成熟前の若いぶどうほど多くのリンゴ酸を持つため、若々しい白ワインなどはいきいきとしたリンゴ酸を楽しむことができる。
日本酒においては、このリンゴ酸を多く生成する酵母が存在し、爽やかな酸味のある日本酒が造られる。

このリンゴ酸は低温化で最も心地よく感じるという特徴を持っている。5~8度程度がおそらくベストだ。
逆に10度を越える温度では爽快感が損なわれる。名前の由来になった青リンゴを想像してもらえば、しっかり冷やしたほうが美味しいということは納得できるだろう。


2. 乳酸

乳酸とはまろやかな酸味である。この酸味はリンゴ酸とは対照的に高めの温度でより美味しさを感じることができる。特に日本酒に含まれる乳酸が私は好きで、熱燗ととても相性がいい。
この酸味はワイン・日本酒・ビールのすべてに含まれる。

ワインに関しては、前述したリンゴ酸が乳酸菌によって代謝されることによって乳酸に変換される。この酸味の変化はマロラクティック発酵と呼ばれていて、その手の業界の人の中ではよく知られている知識だ。
爽やかなリンゴ酸がまろやかな乳酸に置き換わるので、当然ワインの酸味は落ち着いたものとなる。マロラクティック発酵は赤ワインに行われることが多く、これが施されたワインは少し温度を上げて飲んだほうが滑らかな酸味を楽しむことができる。

日本酒に関しては、生酛・山廃系タイプに乳酸は良く含まれる。
日本酒造りの工程において、乳酸は雑菌から日本酒を守る役割として使われている。通常の日本酒の作り方とされている「速醸系」の造りでは、乳酸の成分が直接日本酒に添加されるが、「生酛・山廃系」の造りは乳酸菌を添加し、その乳酸菌が米の糖分を消費して乳酸発酵することによって乳酸の成分を発生させている。
生酛・山廃系の日本酒のほうが乳酸の含有量が高い傾向があるので、酸のしっかりとした旨口に仕上がるのだ。さらに豊富な乳酸は熱燗にすることによって、日本酒に含まれる他の旨味成分と肩を組み合って味わいをより強固なものとする。

ビールに関しては、現在流行しているビアスタイルひとつであるサワーエールに乳酸が含まれている。
サワーエールの酸味を構成する酸味成分のほとんどは乳酸であろう。サワーエールの作り方は様々だが、代表的な作り方としては酵母によるアルコール発酵前の麦汁をいったん乳酸菌によって発酵させて乳酸を得るというパターンがある。
サワーエールは炭酸ガスを含むビールなのでキリっと冷やして飲む場合が多いが、乳酸の酸味が強すぎると感じたときは少しぬるくして飲むと酸が和らぐかもしれない。そのあたりは完全に好みだ。


3. 酢酸

酢酸とはその字面からもわかるようにツンとくる酸味だ。
まさに酢のような刺激的な酸味と香りがあり、ことお酒においてはマイナスのイメージを持たれることがほとんどかもしれない。少量の酢酸であれば香りと味に複雑性をもたらしてくれるが、基本的に酢のニュアンスは歓迎されない。一部の個性的な自然派ワインや、長い熟成を経た日本酒の古酒などは多少の酢酸がみられても問題はないだろう。

ちなみに日本酒を酢酸菌発酵させたものは米酢になるし、ワインの場合はワインビネガーだ。

ではビールはどうかというと、この酢酸をフルに活用しているものがある。それがベルギー産のレッドエールだ。
別名フランダースレッドと呼ばれることもあり、非常に強い酸味を持つビールである。その秘密は熟成に使われるオーク樽で、その樽に住み着く乳酸菌や酢酸菌がビールに様々な酸味を与えているのだ。初めて飲む際にはそのあまりの酸っぱさに驚くかもしれない。しかし甘さもそこそこに強いのでバランスは取れている。とはいえ酸っぱさのレベルか非常に高いので、玄人好みのビアスタイルだと言える。

4. クエン酸

疲労回復でおなじみのクエン酸。爽やかながらキュッとしたシャープな鋭さが特徴の酸味だ。

レモンなどの柑橘類に含まれる酸味で、お酒の場合は焼酎の黒麹によってクエン酸は生成される。しかしこれは味に酸味を与えるためではなく、もろみの酸性度を上げて腐敗を防ぐ目的として使われている。

私が考えるに、お酒にとってクエン酸はトッピングだ。
これはどういうことかと言うと、クエン酸=柑橘類と考えるとわかりやすいだろう。
例えばワインの場合はサングリアだ。サングリアはワインにオレンジやグレープフルーツを漬け込んでカクテル感覚で楽しむ飲みものである。
コロナビールにライムカットを沈める飲み方もまた同じだ。爽快感が非常に気持ちいい。
あまり好みでなかったり中庸すぎる日本酒には、ほんの数滴レモン汁を垂らすとこれまた飲みやすくなる。

そう考えると、クエン酸は私たちに酒を飲み込ませる潤滑油とも言えなくはないであろう。

5. まとめ

酸味の一部を紹介したが、厳密にはこのほかにもたくさんの酸味成分は存在するだろう。ただ、このあたりを網羅しておけばだいたいのお酒の酸味は説明がつくはずだ。
ちなみに日本人はあまり酸味に慣れていない民族らしい。それもそのはずで、日本の伝統食に酸味のあるものはあまり多くない。思いつくのは梅干しとポン酢くらいだ。

そんな日本人だからこそ酸味の勉強をしていこうと思う。
おやすみなさい。

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