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自分に寄せる

ネットなしで徹底的に考える→ネット検索して情報を集める→体験をして気づきを加える、この繰り返しで書き出した言葉や文から企画を考える時、とっておきの方法がある。それは、自分に寄せること。振られたお題で、もともとの「想い」がない時、自分に寄せて考えることは特に有効だ。

例えば、ダイエットのwebメディアをつくる、ダイエットについて考える時。ダイエットに興味がないのに、他人事として「ダイエットといえば食事療法だろう→さぞ辛いだろう→ラクして痩せたいと思うだろう→サプリメントとか器具とかないのか…」と推測で考え始めるのが一番良くない。「私はダイエットに興味がない→(なぜ?)→痩せてるから→(で?)→でもお腹は出てる→(他には?)→二の腕も気になる→お腹と二の腕の対策なら知りたい」と、自分に寄せて考えるほうが、ずっとリアルな企画になるし、そして、同じ思いの人も必ずいる。

90年代の『Hanako(ハナコ)』は、20代の女性編集者が大半で、読者も同世代の女性だったため、自分の興味や関心に寄せて企画を考えれば、それがそのまま形になり、特集になった。編集者個人の「想い」がストレートに読者に伝播する。消費者やユーザーの属性に近いチームづくりというのは、今でも有効なひとつの方法だと思う。

ただ、自分に寄せて考えることは、読者が自分と違う場合(ほとんどの場合はそうだ)にも、ユニークな企画を生む。痩せていてダイエットに興味のないおじさん編集者が若い女性に向けたダイエット企画を考える時、自分の好きなことから考え始める。「サッカー好き」なら、「前半戦、後半戦に分けてダイエットプログラムを組んだらどうだろう。間にちょっと甘やかしの休憩を入れる」とか、「相撲好き」なら、「相撲の四股ふみは骨盤を立てる練習にいいよな。四股ふみダイエットってできないかな」とか、「読書好き」なら「読むだけで痩せる本があったらいいんじゃないか」とか、そんなふうに、まるで違う視点からの発想がヒット企画につながったりする。(ダイエットに「想い」が強い女性編集者だからといって四股ふみダイエットを考えつくとは限らない)

90年代、『POPEYE(ポパイ)』から『Hanako』に異動して私のデスクのキャップになった男性編集者が、『POPEYE』にいる若い女性編集者のことを「アイツはダメだ」と言うので理由を聞くと、企画を自分に寄せられないからだという。『POPEYE』のSEX特集で男性編集者たちが個々の体験を交えながら、より痒いところに手の届く内容にしようとブレストしている時に、女性の視点を聞かれても恥ずかしがって何も話さなかったそうだ。当時、それを聞いた私は、「そりゃそうですよ。恥ずかしいに決まってるじゃないですか」、「もし経験がなかったら聞かれても答えられないし」と反論したが、そのキャップは、「雑誌づくりは、それじゃダメなんだ。経験がないならないことから企画が生まれるんだ。一般論でつくり始めたら終わりだよ」と言った。私は『POPEYE』じゃなくて良かったと心から思ったが、キャップの言うことに一理はある。いまなら、セクハラ、パワハラと言われるかもしれないが、当時は、プライベートなことも含め延々雑談をして、そこからヒット企画が生まれることも確かに多かった(企画会議が長かった)。

自分のSEXについて企画会議で話すことの是非はともかく、ひとり企画を考える時間は、思いっきり自分に寄せて、本音で赤裸々な言葉を書き出すといい。人に見せるのは、企画に昇華した後の形だけなので、恥ずかしがる必要はない。SEXもそうだが、人間の根源的な欲求や感情(コンプレックスだったり、嫉妬心だったり)に触れることが、結果として感動や共感を呼ぶ。

自分に寄せて企画を考えるためにも、ぜひオススメしたいのが、自分自身の棚卸しである。「サッカー好き」「相撲好き」「読書好き」より、もう少し詳しく自分を分析する。専用のノートをつくってもいい。まず、いつ何をしていたか年表をつくり振り返る。入学、卒業、就職、結婚といった事実に加え、担任や友達の名前、何があったか、何が好きだったか、どんなことを考えていたか、何回かに分けて思い出す。「長所」「短所」「好きなこと」「嫌いなこと」「好きだったこと」「嫌いだったこと」「悔しかったこと」「うれしかったこと」「欲しいもの」「やりたいこと」「夢」「目標」「好きな言葉」「好きな映画」…、項目を立てて、思いつくことをどんどん書き出す。最近なぜかイライラしている、その理由は何だろうと突き詰めて考えるのもいい。恋人としっくり行かなくなってきた経緯やその時々の感情を書き出すのもいい。企画を考える時間をつくるのと同じように、自分の棚卸しをする時間をスケジュールに組み入れる(予定に入れないと、なかなかやらない)。

自分がどういう人間で、どういう傾向があるか、言葉で整理することで、企画を考えるヒントになる。

2020年2月に行われた第92回アカデミー賞授賞式をご覧になっただろうか。最優秀作品賞は韓国映画『パラサイト〜半地下の家族』が獲得した。外国語映画として史上初の快挙であり、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の各部門でも最優秀に輝いた。最優秀監督賞を受賞したポン・ジュノ監督のスピーチがこうだ。「私が映画の勉強をしていた時に、本で読んだ言葉で、今も大切にしている言葉があります。『最も個人的なことは、最もクリエイティブなことだ』という言葉です。これは、マーティン・スコセッシの言葉でした」。『アイリッシュマン』で同じく作品賞や監督賞などにノミネートされ列席していたマーティン・スコセッシに敬意を表し賛辞を述べたのだ。ポン・ジュノが大切にしているという、このマーティン・スコセッシの言葉は、すべてのクリエイティブ、編集に通じることだと思う。個人的なことは唯一無二、しかしその感情は普遍的、だからオリジナリティがあり、かつ支持される企画にもつながる。

最も個人的なことは、最もクリエイティブなことだ。




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フリー編集者、コンテンツディレクター。マガジンハウスで『anan』『ポパイ』『Hanako』『ターザン』『Casa BRUTUS』など雑誌や書籍の編集を30年間していました。ヨガや瞑想などライフ・プラクティスの探究と、日本語教師を入り口に教育と社会に関わることが今のテーマです。

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