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紙に書くということ

書籍『なぜか惹かれる言葉のつくりかた』のなかで、付箋ワークを紹介しています。原稿を書いたり、企画を立てたり、何かをコンテンツ化するときに役立つ方法です。

ざっくり言うと、こんな感じ。目の前のコンテンツ(考えなければならない企画のお題)について、思うことを、文でも単語でも、ひとつにつき付箋1枚、書き出します。良いことも悪いこともOKです。五感を使って(見た目は?匂いは?音は?味は?触覚は?)、5W1Hを使って(何が?誰に?いつ?どこで?なぜ?どのように?)、それで?本当に?他には?と自問自答しながら、付箋の数を増やします。すぐにネット検索しないことがポイントです。ネット検索したい疑問は疑問のまま書き出します。書き出すだけ書き出してからネット検索し、さらに付箋を増やします。そうして、たくさん書き出した付箋を次はグループ分けし、そのグループとグループの間に、つながりを探していきます。そのつながりが企画の素になるわけです。

私は今でもこのワークをやっていて、何か考えなくてはいけない時に、ノートに言葉を書き出します。仕事で取り組むコンテンツ化だけでなく、人生のありとあらゆることに使っています。

30年勤めた会社を辞めるかどうか迷った時。会社に残るメリット、デメリット、辞めるメリット、デメリットを書き出しました。ふだん漠然と感じていること、例えば、個人的に会うほどではないけれど好感を持っている社員や、会社周辺の好きなスポットなども言葉にしてみました。自分がやりたいこと、もともと何がやりたかったのかなども改めて考えてみました。預貯金や生活費など現実的な数字も初めて書き出しました。何日も、いや、何か月も、そんなふうにしながら、結果、会社に残る最大の理由が「収入」だと整理がつき、「やりたいことをやる」可能性の大きさを比べ、それで辞める決心がつきました。

付箋ワークのコツは「事実」と「感情」を結びつけながら考えることです。
この事実がこういう感情を生み出している。こういう感情で日々過ごすためには事実をどうすればいい?
そんなふうに考えていくと、取るべき行動が見えてきます。恋愛や人間関係に悩んだ時も使えます。今、何に悩んでいるのか。事実は事実として書き出し、自分の気持ち、相手の気持ち、それぞれ書き出してみると、(相手の気持ちは変えられないですから、自分が)今できること、どう考えればいいか、見えてきます。

付箋ワークをしたら、プロジェクトが進行したあとも、その付箋をとっておいてください。タイトルやキャッチコピーに使える言葉が、そこから見つかることも多いです。自分がそのテーマを最初に見たときの感情を書き留めているわけですから、それは読者やユーザーや顧客がコンテンツに最初に持つ印象と重なります。付箋ワークで書き出した言葉には、プロジェクトが進行していくと忘れがちな初心が潜んでいるわけです。

言霊(ことだま)じゃないですが、手で書き留めると、その瞬間から言葉が何かしら力を持ちます。それは、ノートの書いた位置だったり、文字の大きさだったり、文字の癖のようなことも含め、なぜか記憶に残る言葉があったりします。「あー、あのとき、メモした言葉なんだっけ。なんかいい言葉だった。確かノートの左隅に二重丸で囲んで…」なんていうことありますよね。

付箋ワークとは別の話ですが、言葉のネタ帳をつくることもおすすめしています。気になったタイトル、好きな言葉、初めて知った言い回し、いつか使ってみたい造語や流行語、そういったものも、書き留めないと意外と忘れてしまいます。ネタ帳をつくって言葉をストックしておくと、何か困ったときにパラパラ見て、いい言葉を拾ったりできます。

書き留めるというアウトプットで、より頭にインプットされる。書くというアウトプットを続けていると、頭にインプットされた言葉と言葉がつながって、企画が生まれることもあります。これ、本当ですよ。

私は最近、失語症のかたのための訓練ノートを発刊しました。失ってしまった言葉の機能を回復させるのに、手を動かして「紙に書くということ」、色鉛筆で色を塗る、切ったり貼ったりすることも含め、その力は必ずあると思い、画用紙のような紙でノートをつくりました。

手を動かして紙に言葉を書き留める。まったく習慣にない人は、だまされたと思ってやってみてほしいです。

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