読解力を高めるならこう読むとさらに面白い -芥川龍之介『羅生門』を例に-
今回は、読書が好き、これから読書でもしてみようかなーって人、中高生、その保護者に向けて書きます。
ここで言う「読解力」とは、「文章の内容を理解し、適切な要約ができること」です。
SNSによるコミュニケーションがもたらす短文文化、及びコミュニケーションは読解力の低下を招く。とよくニュースになる。
ビジネスシーンにおいて、相手の発言やその真意を瞬時に理解し、適切な対応が求められるため、読解力を鍛える他ならないのです。
今回は、読解力を高めるにあたって、芥川龍之介『羅生門』を例にして解説していこうと思います。
近代文学は、言葉選び、文体、人間の醜さ、エゴイズムな点が面白く、読解力を高める良い要素だと思います。
小説を読むにあたって
①舞台設定
②登場人物とその特徴・性格
③表現技法
の3点で解説します。
本記事にて引用に使用した本は
芥川龍之介『芥川龍之介全集1』筑摩書房、1986年
とする。
①舞台設定
いつ、場所、状況(何をしているか)などがこれにあたります。書き出し、もしくはその数行後に明らかになります。
ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。
広い門の下には、この男のほかに誰もいない。
『羅生門』の書き出しである。タイトルでもある「羅生門」とは、平安京の正門「羅城門」のことです。
なぜ「この男のほかに誰もいない」のか
もうすこし先を読んでみると
何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風とか家事とか飢饉とか云ふ災がつづいて起った。
とある。「平安京」というと、貴族が暮らしていた煌びやかなイメージを想像するだろう。
しかし、冒頭部分で明らかになったように、そんな煌びやかだったあの平安京ではなく、荒れすさんだ平安京が舞台であること。また平安京が舞台になっているので、少なくとも平安時代以降、かつ作者・芥川龍之介が生まれた明治以前と言えます。
(仮に、冒頭部分で年代が明らかになっていなければ、その小説が出版された年の近辺と考えても差し支えないです)
舞台設定がわかれば、このあとの展開が容易に想像できるのではないでしょうか。
煌びやかだったあの頃の平安京と対比して、荒れて退廃した平安京を舞台に、これから何かよろしからぬことが起きるだろうってことを。
小説を書く作家にとって、自分の作品に読者を引き込まなければなりません。書き出しや冒頭がよくわからない、状況がわからない、となれば読者はそこで手をとめてしまうだろう。
なので、書き出しは一番大事なのです。
②登場人物とその特徴・性格
物語に登場する人物の特徴や性格は、後の展開に大きく影響を及ぼします。
・最初は暗い性格な少年が、何かをきっかけに未来に向かって前向きに動き出したりする。
・お金持ち、容姿端麗、社交性もあり、仕事も私生活も順風満帆な主人公が、ある事をきっかけにこれからの人生を考え直す。
特に例にした小説はありませんが、上記のように、物語の展開を大きく左右する要素と言えます。
『羅生門』の主人公、男は冒頭部分にあるように「下人」であると書いてある。「下人」とは何か。
簡単にいえば「身分の低い人」を表します。
ではなぜ、主人公は羅生門の下で雨がやむのを待っていたのだろう。
作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云ふ当てはない。ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である。所がその主人からは、四五日前に暇を出された。
とある。『羅生門』の主人公、下人はかつて平安京で主人に使える役人をしていたのだ。しかし、4,5日前に暇を出された。つまりクビになったのである。
登場人物の特徴・性格を知ることは、舞台設定とともに、物語の展開を大きく左右するため、おさえておきたい情報なのです。
③表現技法
どの小説でもいえることですが、読んでいて「よくわからない」という状況に陥るのは、表現技法をしらないためにあります。
表現技法の1つや2つを知ると、かなり作品に対して理解ができます。
雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云ふ音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜めにつき出した甍の先に、重たくうす暗い雲を支えている。
天候と人物の心理状態を重ね合わせる表現技法は、頻繁に使われます。先の引用はその典型的な例です。いわゆる比喩で、その中でも暗喩という技法です。
「雨」「夕闇」「重たい」「薄暗い雲」とあると、ネガティブなイメージを連想しますよね。
誰しも、雨が降ったら嫌な思いをしたことあるでしょう。薄暗い雲は「これから雨が降りそう…」「雷でも鳴るのかな…」とどこか不安な気持ちになりますよね。
それを今の主人公の心理状態と重ね合わせているのです。つまり、主人からクビを言い渡された下人は、途方に暮れ、行き場のない、これから何をしたらいいのか、検討もつかず、不安に押しつぶされている様子が描かれているのです。
単に「雨が降っている」ことだけを言いたいのならば、こんな風に回りくどい言い方はしません。また「不安だ」「悲しい」だけだと、読んでいて面白いものではなく、文学的な面白さもありません。
さいごに
表現技法は、本記事では書ききれないぐらいたくさんあります。
比喩、体言止め、倒置、反復など表現技法は、本記事では書ききれないぐらいたくさんあります。文章を読むにあたって、様々な表現技法を知っていると、情景や描写がまるで自分のことのように感じることだけでなく、読解力を深められる重大な要素です。
今回は本記事にて書ききれなかった、読解力を高めるあれこれを、また第2弾として記事を書いていきます。
皆様にとって、良い読書ライフを。読解力を高め、豊かな生活になれますように。
最後までご覧いただきありがとうございました!!!
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